人事のAI活用はどこまで任せるか|労務・給与・採用の線引き表
「人事でAIを使いたいのですが、どこまで任せてよいものでしょうか」
これは、リデザインワークのAX支援でもっとも多くいただく質問です。そして、この問いに全社共通の答えはありません。任せてよい範囲は、業務ごとに、さらに言えば業務の中の工程ごとに違うからです。
「採用にAIを使う」という粒度で議論すると、合否判定まで任せるのかという話になり、危ないから見送ろうという結論に至ります。ところが同じ採用でも、職務経歴の要点整理なら今日から任せられます。
そこでこの記事では、労務・給与・採用の3領域を工程に分け、任せる工程と人が確定させる工程の線引きを表で示します。そのうえで、どこから着手するかの順番と、社内に何を残すかまでを整理します。
記事の後半には、自社の人事業務を工程に分けて仕分けさせるプロンプトを載せました。担当業務の一覧を貼り付ければ、着手候補と、人が持つべき工程がその場で出ます。
人事のAI活用は業務でなく工程で線を引く
線引きを業務の単位で行うと、必ず粗くなります。1つの業務の中に、任せてよい工程と任せてはいけない工程が混ざっているからです。
たとえば「評価」という業務は、次の工程に分かれます。
- 評価期間の実績データを集める
- 記述された内容を要約する
- 評価基準に照らして候補となる評価を出す
- 評価を確定する
- 本人へ伝える
このうち1と2は任せられます。3は材料として出させ、人が判断します。4は任せてはいけない工程です。5は下書きまで任せ、伝えるのは人が行います。
同じ業務の中でこれだけ性質が違うので、業務名で「任せる・任せない」を決めると、任せられる工程まで止まります。
判断の基準は1つで足ります。外れたときに個人の不利益へ直結する工程かどうかです。直結するなら人が確定させ、それ以外はAIに任せて人が確認します。
労務業務のAI活用と線引き
3領域を順に見ていきます。まず労務です。
| 業務 | AIに任せる工程 | 人が確定させる工程 |
|---|---|---|
| 問い合わせの一次対応 | 規程を参照した回答案の作成 | 回答内容の確定と送信 |
| 社内通知の作成 | 条件を差し替えた下書き | 事実確認と発信の判断 |
| 会議や面談の記録 | 議事の要約と作業一覧の抽出 | 記録として残す内容の確定 |
| 規程改定の影響確認 | 関連する条文の洗い出し | 改定内容の判断 |
| 労務トラブルの整理 | 経緯の時系列整理 | 事実認定と対応方針の決定 |
労務は、3領域のなかでもっとも効果が出やすい領域です。理由は、答えが規程という文書に書いてあるからです。
社内の規程を参照できる状態にしておけば、回答案の作成はその日から任せられます。逆に、最新の規程がどこにあるか分からない状態では、一般論しか返ってきません。
いちばん下の労務トラブルは、慎重に扱う領域です。経緯を時系列に並べるところまでは任せられますが、事実認定は人が行います。
給与業務のAI活用と線引き
次に給与です。金額を扱うため、確認の工程が重くなります。
| 業務 | AIに任せる工程 | 人が確定させる工程 |
|---|---|---|
| 支給データの点検 | 前月との差分の抽出と観点の提示 | 差分が正しいかの判断 |
| 手当の支給要件の確認 | 該当しそうな条文の提示 | 支給の可否の決定 |
| 集計と資料作成 | 数式や集計手順の作成 | 数値の検算と確定 |
| 問い合わせ対応 | 計算根拠の説明文の下書き | 説明内容の確定 |
| 年末調整の案内 | 対象者別の案内文の下書き | 送付内容の確定 |
給与でAIに金額そのものを計算させるのは避けてください。任せるのは、確認すべき箇所を見つける工程です。
たとえば前月と当月の支給額を比べ、差が大きい行を上から並べさせる。これだけで、確認の順番が決まります。金額の正誤を判断するのは人の工程です。
リデザインワークのAX支援でも、この形で成果が出ています。あるプライム上場企業の給与業務では、月150時間ほどかかっていた確認作業を95項目に分解し、機械判定・AI補助・人の確認へ仕分け直しました。効いたのは新しいシステムではなく、この95項目への分解と役割分担です。
採用業務のAI活用と線引き
3つ目は採用です。ここは線引きがもっとも重要になります。
| 業務 | AIに任せる工程 | 人が確定させる工程 |
|---|---|---|
| 求人票の作成 | 募集要件からの草案作成 | 表現と条件の確定 |
| スカウト文の作成 | 候補者ごとの文面の下書き | 送付先と文面の確定 |
| 応募書類の整理 | 職務経歴の要点の要約 | 選考の判断 |
| 面接の準備 | 募集要件に沿った質問案の作成 | 質問の取捨と実施 |
| 面接記録の整理 | 発言内容の要約と論点の抽出 | 評価の記述と確定 |
| 内定通知や案内 | 条件を差し替えた下書き | 送付内容の確定 |
合否の判定は、工程としてAIに渡しません。要約の段階で落ちた情報はAIから見えなくなるため、要約を根拠に判断すると、見落としたことにも気づけません。
要約は判断の材料であって、判断そのものではない。この区別を、担当者全員が同じ言葉で言えるようにしておいてください。
なお、応募書類の要約を使うときは、要約と原文の両方を面接官に渡します。要約だけを渡すと、実質的に絞り込みをAIが行ったのと同じことになります。
人事のAI活用はどこから着手するか
3領域の表を見て、どこから始めるか。判断の材料は、時間がかかっているかどうかと、答えが文書に書いてあるかどうかの2つです。
| 答えが文書に書いてある | 判断や交渉が要る | |
|---|---|---|
| 時間がかかっている | 最初に着手する。労務の問い合わせ対応が代表例 | 工程を分け、資料づくりだけ先に任せる |
| 時間はかからない | 手が空いたときに回す | 当面は手をつけない |
左上から始めてください。労務の問い合わせ一次対応、給与の点検観点出し、採用の求人票作成の3つは、多くの会社で左上に入ります。
ここで4つも5つも選ばないことが要点です。手順書の書き換えが終わらないまま次の四半期に入ると、どれも定着しません。
対象業務の洗い出し方は業務の棚卸しから始めるAXに、表の列の作り方は業務棚卸しのフォーマットにまとめています。
人事業務を工程に分けさせるプロンプト
自社の業務で線引きを作るとき、最初の案はAIに出させると早く進みます。
あなたは人事業務の設計者です。以下は当社の人事業務の一覧です。
1. 各業務を、実際の作業の流れに沿って3〜6の工程に分けてください。
2. 各工程を「AIに任せる」「AIに材料を作らせて人が判断する」「人が行う」の3つに仕分けてください。
3. 仕分けの理由を、外れたときに個人の不利益へ直結するかどうかの観点で1行ずつ書いてください。
4. 「人が行う」に分類した工程について、人が何を確認するのかを具体的に書いてください。
5. 時間がかかっており、かつ答えが社内文書に書いてある業務から順に、着手候補を3つ挙げてください。
専門用語は使わず、人事担当者が読んで判断できる言葉で書いてください。
(ここに業務一覧を貼り付け)
出てきた案は、担当者と突き合わせてください。「この工程は任せられない」と言われた箇所にこそ、一覧には書かれていない例外処理が隠れています。その例外を聞き出すために案を出させる、という使い方です。
着手する前に押さえておく3つの論点
評価や採用にAIを使うと、法的な問題はないか。判断そのものを任せず、人が確定させる工程を残していれば、通常の運用の範囲です。ただし、どの工程で人が確認したかを記録に残してください。
Microsoftの環境しか使えない場合はどうするか。進め方は変わりません。すでに使えるCopilotを人事業務に当てはめる形で始められます。詳しくはCopilotの使い方にまとめています。
社内に何を残せばよいか。業務ごとの工程表、人が確認する箇所の一覧、そして業務別の指示文の3つです。この3つがあれば、担当者が代わっても同じやり方で回ります。
人事のAI活用は工程表が残ってはじめて定着する
人事でAIをどこまで任せるかは、業務の名前ではなく工程で決まります。そして判断の基準は、外れたときに個人の不利益へ直結するかどうかの1点です。
この線引きを頭の中に置いておくのではなく、工程表として社内に残してください。残っていれば、担当者が代わっても同じ線で運用が続きます。
導入から定着までの全体像と90日の進め方は、生成AI導入の進め方で整理しています。
どの業務から着手し、浮いた工数をどこへ向けるかまで含めて整理したのが、資料『AX戦略を考えるときに抑えるべき6つの考え方』です。

資料をダウンロード ↗
まずは自社の1業務を選び、工程に分けてみてください。線を引く場所は、分けた時点でほとんど決まります。





