業務棚卸しのフォーマット|そのまま使える列設計と、粒度をそろえる書き方
業務の棚卸しでつまずく場所は、だいたい決まっています。作業そのものではなく、どの列を用意すればいいのかという最初の一手です。
総務省の令和7年版情報通信白書では、生成AIを利用しない理由として「実用的な利用方法がわからない」が挙がっています(出典: 総務省 令和7年版情報通信白書)。使いどころを探す作業の入口が、この棚卸表です。
列がぶれたまま書き始めると、集まった一覧を前にして手が止まります。ある人は「請求書処理」と書き、別の人は「請求書のPDFを開いて金額を確認し、システムに入力する」と書く。粒度が違う行が並ぶと、時間の合計にも仕分けにも使えません。
列の設計が決まっていれば、記入は担当者に任せられます。1部署分の一覧は2週間で埋まり、どの業務にどれだけ時間が偏っているかが数字で見えます。そこまで来れば、次に着手する業務を選ぶ会議は30分で終わります。
この記事では、表計算ソフトにそのまま写せる列の定義と記入例、年間工数を出す数式、粒度をそろえる3つのルール、集まった一覧をAIに仕分けさせるプロンプトまでを示します。記入例はそのまま貼り付けて使える形にしてあります。
棚卸しの目的や進め方そのものは、業務の棚卸しから始めるAXで整理しています。ここでは表の作り方に絞ります。
業務棚卸表の11列
業務棚卸表は、業務を特定する列・量を測る列・仕分けを判断する列の3群で構成します。この3群がそろっていれば、集計にも判断にも使えます。
| 列 | 内容 | 記入例 |
|---|---|---|
| 大分類 | 部署の機能単位 | 労務 |
| 中分類 | 業務のまとまり | 勤怠管理 |
| 業務名 | 動詞で終わる単位 | 打刻漏れを確認して本人に差し戻す |
| 担当 | 主担当の役割 | 労務担当(2名) |
| 発生頻度 | 月あたりの回数 | 20 |
| 1回の所要時間 | 分単位 | 15 |
| 年間工数 | 数式で自動計算 | 60時間 |
| 判断の複雑さ | 高・中・低の3段階 | 低 |
| 例外の多さ | 高・中・低の3段階 | 中 |
| 使用システム | 実際に開くもの | 勤怠システム・メール |
| 仕分け | AIに任せる・AIが補助・人が担う | AIが補助 |
大分類と中分類を分けておくのは、後で部署をまたいで集計するためです。3階層にしておくと、似た業務が別の部署に散らばっている状況が見えてきます。
「例外の多さ」の列は、多くのフォーマットに入っていませんが、AI活用を前提にするなら欠かせません。判断が単純でも例外が多い業務は、自動化しても差し戻しが増えて結局手間が減らないからです。
年間工数を自動で出す
11列のうち、年間工数だけは手で計算しません。発生頻度と所要時間を入れたら、あとは数式に任せます。表計算ソフトのG列に次の式を置きます。
=E2*F2*12/60
E列が月あたりの発生回数、F列が1回の所要時間(分)です。12を掛けて年換算し、60で割って時間に直します。
四半期や年1回の業務は、月あたりの回数を小数で入れます。四半期に1回なら0.33、半期に1回なら0.17、年1回なら0.08です。
合計行を作れば、その部署が1年でどの業務に何時間使っているかが出ます。この合計値が、後で削減効果を語るときの基準線になります。基準がないまま施策を始めると、効果を数字で示せません。
粒度をそろえる3つのルール
列がそろっても、書き方がばらつけば集計はできません。一覧の質は、粒度が揃っているかどうかでほぼ決まります。そこで、次の3つを記入前に共有してください。
- 動詞で終える。「請求書処理」ではなく「請求書の金額を確認してシステムに入力する」と書きます。動詞まで書くと、その作業が何をしているのかが具体的になります。
- 月1回以上、1回15分以上のものを書く。年に一度の作業や5分で終わる作業まで拾うと、行数が増えるだけで判断が鈍ります。
- 1行が30分から3時間の範囲に収まるようにする。これより長い行は工程が複数混ざっているので分割し、短すぎる行はまとめます。
3番の基準は、実務で最も効きます。「採用業務」のような行は10時間を超えるので分割対象、「メールを開く」のような行は短すぎるので他の行に含める、と機械的に判断できます。
書き始める前に決めておくこと
ルールを配る前に、範囲と精度についても決めておきます。ここを曖昧にすると、記入が途中で止まります。
対象範囲は、1つの部署の1か月分に絞ります。全社を同時に始めると、集める作業だけで数か月かかり、集まったころには内容が古くなります。
所要時間は、実測ではなく担当者の体感で構いません。1分単位の正確さを求めると記入が止まります。目的は正確な原価計算ではなく、どこに時間が偏っているかを見ることです。
記入は、担当者本人が書きます。上長がまとめて書くと、実際には発生している細かい確認作業が抜け落ちます。
よくある失敗と直し方
準備を整えても、記入の途中でつまずく場面は決まっています。相談を受ける中で多いのは次の4つです。
| よくある状態 | 何が起きるか | 直し方 |
|---|---|---|
| 粒度がばらばら | 集計しても比べられない | 3つのルールを配ってから記入させる |
| 完璧に網羅しようとする | 数か月かかって熱が冷める | 8割で確定し、後から足す |
| 時間を実測しようとする | 記入が進まない | 体感の時間で埋める |
| 仕分け列を空欄のままにする | 一覧を作って終わる | 記入と同じ日に仮の仕分けまで置く |
最後の行が最も多く見かける失敗です。棚卸表は作ること自体が目的ではなく、どの業務から手をつけるかを決めるための材料です。仮でよいので仕分けまで置いておくと、次の議論が始まります。
集まった一覧はAIに仕分けさせる
行がそろったら、最後は仕分けです。ただし人の議論だけで進めると、時間がかかるうえに声の大きい人の意見に寄ります。一覧をそのまま渡して、機械的な案を先に出させると早く進みます。
あなたは業務設計の専門家です。以下は、ある部署の業務棚卸表です。
列は「業務名・月あたり発生回数・1回の所要時間(分)・判断の複雑さ・例外の多さ・使用システム」です。
1. 各業務を「AIに任せる」「AIが補助する」「人が担う」の3つに仕分け、理由を1行で書いてください。
2. 判断の複雑さが低く、例外が少なく、年間工数の大きい業務から順に、着手候補を5つ挙げてください。
3. 各候補について、AIが担う工程と人が必ず確認する工程を分けて書いてください。
4. 例外が多いために自動化しても効果が出にくい業務があれば、指摘してください。
専門用語は使わず、担当者が読んで判断できる言葉で書いてください。
(ここに棚卸表を貼り付け)
出てきた案は、そのまま採用するものではありません。担当者が「これは違う」と反応した行にこそ、表には書かれていない事情が隠れています。その対話をするために案を出させる、という使い方をします。
Microsoftの環境しか使えない職場でも同じ進め方ができます。Copilotを人事業務に接続するところから着手できます。
棚卸しの後、どの業務から着手し、浮いた工数をどこへ向けるかまで含めて整理したのが、資料『AX戦略を考えるときに抑えるべき6つの考え方』です。

資料をダウンロード ↗
表は判断するために作る
業務棚卸表は、きれいに作り込むほど価値が上がる資料ではありません。11の列と、そろった粒度と、仮の仕分け。この3つがあれば、次の打ち合わせで着手する業務を決められます。
1部署分の一覧が2週間で埋まれば十分です。完成度より、判断に使える状態になっているかどうかで見てください。





