業務棚卸しとは|やり方・手順を例文で解説、部長に業務削減を任されたら最初の1週間でやる3つの作業
部長に「人事の業務を減らしてほしい」と頼まれたら、今日中に部長へメールを1通送ります。何のために、どの範囲を、いつまでに減らすのかを確かめるメールです。
返事をもらったら、木曜日までにチームの仕事を1か月分書き出し、金曜日に減らす候補を3つ選んで部長に報告する。最初の1週間でやる作業は、この3つだけです。
| 日 | やる作業 | できあがるもの |
|---|---|---|
| 1日目 | 部長に目的・範囲・期限を確認する | 確認メール1通 |
| 2〜4日目 | チームの仕事を1か月分書き出す | 業務の一覧表 |
| 5日目 | 減らす候補を3つ選び部長に報告する | 1枚の報告メモ |
この3つの作業をまとめて、業務の棚卸し(業務棚卸)と呼びます。難しい分析や専門の知識は不要。
この記事では、作業ごとに部長への確認メール、書き出す表の記入例、部長への報告メモを、そのまま使える例文で載せました。読み終えた時点で、金曜日に出す報告メモの中身まで決まります。
経理や総務も含めたバックオフィス全体で、何から減らすかの考え方はバックオフィスの業務効率化で扱っています。
業務棚卸しとは仕事を一覧にして減らす候補を決める作業
業務棚卸し(業務棚卸)とは、部署で行っている仕事を1件ずつ書き出し、頻度と時間を記録したうえで、やめる業務や減らす業務の候補を決める作業です。仕事を並べるだけで終わらず、どれを減らすかまで決める点が、単なる業務の洗い出しとの違い。
書き出すと、普段の忙しさの中では見えない次の4つがわかります。
- 時間のかかっている業務 毎日20分の問い合わせ対応も、1か月にすると約7時間になる
- 二重にやっている作業 同じ数字を勤怠システムとExcelの両方に入力している
- 担当が1人しかいない業務 その人が休むと誰も代われない給与計算の照合など
- AIに任せられそうな業務 手順が毎回同じで、正しい結果がはっきりしている作業
ただし、どの業務を減らすべきかは部長の狙いで変わります。だから最初の作業は、部長への確認です。
業務棚卸しの1日目は部長に目的・範囲・期限を確認する
「業務を減らして」という指示だけでは、何をどこまで減らせば部長が納得するのかが決まっていません。確認しないまま書き出しを始めると、金曜日の報告で「見てほしかったのはそこではない」と言われ、1週間の作業をやり直すことになります。
確認するのは次の3点。
| 確認すること | 聞き方の例 | 答えによって変わること |
|---|---|---|
| 目的 | 残業を減らすためか、人を増やさずに仕事の増加に対応するためか | 選ぶ候補。時間の長い業務か、今後件数が増える業務か |
| 範囲 | 人事チーム全体か、給与・勤怠など一部の業務か | 書き出しを頼む人数と業務 |
| 期限と報告の形 | いつまでに、どの程度の資料で報告すればよいか | 書き出す細かさと報告メモの量 |
メールの文面は次のとおり。部長から返事が来たら、その内容を金曜日の報告メモの1行目に書き写しておきます。
〇〇部長
業務削減の件、承知しました。
取りかかる前に、3点だけ確認させてください。
1. 目的
残業を減らすためでしょうか。人を増やさずに、今後の仕事の増加に対応するためでしょうか。
2. 範囲
人事チーム全体でしょうか。給与・勤怠など一部の業務でしょうか。
3. 期限と報告の形
いつまでに、どの程度の資料でご報告すればよいでしょうか。
今週の金曜日に、チームの業務の一覧と、減らす候補を3つ、1枚にまとめてご報告します。
チームが10人を超えるなら、1週目は1つの係か1つの業務に絞ってよいかも、このメールで相談しておきます。範囲を絞れば、金曜日の報告に間に合う量に収まるからです。
部長の答えが「人数を減らしたい」だった場合も、確認は無駄になりません。メンバーへの頼み方が変わるからです。人数を減らす話か、手間を減らす話かの見分け方は、省人化と省力化の違いで整理しています。
2〜4日目はチームの仕事を業務棚卸表に1か月分書き出す
目的と範囲が決まったら、2日目の朝にメンバーへ書き出しを頼みます。チーム全員の仕事を、自分1人の推測で書くのは不可能。実際の手順と時間を知っているのは、その仕事をしている本人だけ。
メンバーへの依頼文には目的と締め切りとかかる時間を書く
依頼文には、何のための書き出しか、締め切り、1人あたりかかる時間の3つを書きます。締め切りは木曜日の昼、かかる時間は1人1時間ほどが目安。そのまま書き換えて使える依頼文の例は、業務棚卸しのフォーマットに載せています。
依頼文で一番大事なのは、「人を減らすための調査ではありません」の一文。書き出しを頼まれたメンバーは、自分の席が減る材料を出すのではないかと身構え、手間のかかっている作業ほど書かなくなるからです。部長の目的が人数の削減なら、この一文は書けないため、文面を部長と相談してから送ります。
業務棚卸表は5列で書き始める
集まったメモは、次の5列の表にまとめます。人事・総務のチームなら、記入例は次のとおり。
| 業務名 | 頻度 | 1回の時間 | 月の合計 | 担当 |
|---|---|---|---|---|
| 社員からの問い合わせにメールで回答する | 毎日 | 20分 | 約7時間 | Aさん |
| 勤怠データを締めて残業時間を確認する | 月1回 | 4時間 | 4時間 | Bさん● |
| 給与計算の結果を前月と照合する | 月1回 | 3時間 | 3時間 | Bさん● |
| 入社者から書類を回収し不足を連絡する | 月3回 | 1時間 | 3時間 | Aさん |
| 定例会議の議事録を作る | 週1回 | 40分 | 約3時間 | Cさん |
| 月次の人員報告をExcelで作る | 月1回 | 2時間 | 2時間 | Dさん |
| 研修の出欠を集計して上長に送る | 月2回 | 30分 | 1時間 | Cさん |
業務名は「〜を〜する」の形で書きます。「勤怠」の2文字だけでは、何をしている行なのかが本人以外に伝わらないからです。月の合計は、毎日の業務なら1か月を20日、週1回なら4回として掛け算します。
●は、担当が1人しかいない業務の印。その人が休むと誰も代われないため、減らす候補とは別に部長へ伝えておきます。担当者しかわからない業務を減らす方法は、属人化の解消方法で扱っています。
1行の大きさは、1回5分から60分で終わる作業が目安。「採用業務」のように大きすぎる行は分け、5分未満の細かい行はまとめます。詳しい基準は業務棚卸しの粒度の決め方にあります。
ただし1週目は、上の勤怠の締めのように60分を超える作業を無理に分けなくて構いません。分けるのは、2週目に候補に選んだ業務だけで十分。
列を増やしたい場合は、先ほどの業務棚卸しのフォーマットの記事に、エクセルへ貼れるテンプレートがあります。1週目は5列で十分。
書き漏れは先月のカレンダーと送信済みメールで見つける
毎日の仕事は思い出せても、月末だけの作業や急に頼まれた対応は抜けがちです。書き終えたら、先月のカレンダー、送信済みメール、月末の1週間にやったことの3つを見返してもらいます。年に1回の業務(年末調整、評価の集計など)は、1か月分とは別に表の下へ書き足します。
かかる時間は、1人あたりの書き出しが1時間ほど、集まったメモを1つの表にまとめるのが1〜2時間。4〜5人のチームなら、木曜日の夕方には表ができあがります。
集まったメモはChatGPTで1つの表にまとめられる
メンバーのメモは、書き方がばらばらです。箇条書きの人もいれば、日報をそのまま貼る人もいる。これを1つの表にまとめる作業はChatGPTに頼めば数分で終わり、その指示文は業務棚卸しのフォーマットに載せました。
貼り付ける前に、社員の氏名はAさん・Bさんのように置き換え、給与の額や評価の内容は消しておきます。会社で使ってよいAIが決まっているなら、そのAIを使います。社内でCopilotしか使えない場合も頼み方は同じで、Copilotの使い方に人事業務での使い方をまとめています。
出てきた表の時間は、メンバーが書いた数字を並べ直したもので、AIが測った数字ではありません。空欄の行だけを本人に聞き直せば、表は完成。
5日目は業務棚卸しの結果から減らす候補を3つ選ぶ
表ができたら、最終日は候補を選んで部長に報告します。選ぶ基準は2つで足ります。月の合計時間が長いこと、そして手順が毎回同じであること。
時間が長くても、毎回判断が変わる業務はすぐには減らせません。逆に手順の決まっている業務なら、やめる、まとめる、AIに任せる、のどれかで時間を減らせます。
業務は4つに仕分けてやめられる業務から探す
| 仕分け | 当てはまる業務の例 | 減らし方 |
|---|---|---|
| やめる | 誰も読んでいない月次の報告・念のための二重チェック | 部長の了承を取って作成をやめる |
| まとめる | 同じ数字を勤怠システムとExcelの両方に入力している | 入力先を1か所にする |
| AIや仕組みに任せる | 問い合わせへの回答・議事録・前月との照合 | ChatGPTやシステムの機能に下書きや照合をさせる |
| 人が続ける | 評価の最終判断・休職者との面談・退職の相談 | 減らす対象から外す |
探す順番は表の上から。やめられる業務は時間がゼロになり、AIを準備する手間もかかりません。業務改善の本でECRS(イクルス)と呼ばれる考え方も、やめる・まとめる・入れ替える・簡単にするの順で、やめる業務を最初に探します。
「人が続ける」に入るのは、相手の事情を聞いて判断する仕事。人事考課で部下の評価を決める最終判断や、休職者との面談がこれに当たります。
どの業務からAIに任せるかを、負荷と貢献度の2軸で決める方法はAIに任せる業務の選び方で解説しています。AIを使った業務の見直し(AX)で、業務をどう仕分けるかまで資料にまとめたのが、『人事AXに取り組む業務を整理するフレームワーク』です。
なお、書き出した一覧からどの業務を減らすかは、リデザインワークのAX支援でも無料でご相談を承っています。
この4つの仕分けを先ほどの記入例に当てはめた場合、候補は次の3つ。
- 月次の人員報告をExcelで作る(月2時間) 勤怠システムの集計画面で代わりになるなら、やめる
- 社員からの問い合わせにメールで回答する(月約7時間) よくある質問への回答の下書きをChatGPTに作らせる
- 定例会議の議事録を作る(月約3時間) 会議の録音から、要点をAIにまとめさせる
勤怠の締めは月4時間と長いものの、残業時間の確認で毎月判断が変わるため、1週目の候補からは外しました。担当が1人しかいないという●の情報は、報告メモに別の行で書き添えます。
部長への報告は1枚のメモにまとめる
候補が決まったら、報告メモを1枚にまとめます。部長が判断に使うのは、どの業務をどう減らすかと、部長に決めてほしいことの2つ。それ以外は短くて構いません。
件名:人事チームの業務棚卸しの結果と、減らす候補3件
1. 目的と範囲(〇月〇日に部長に確認済み)
・目的:残業を減らす
・範囲:人事チーム4名の毎月の業務
2. 書き出した結果
・業務の数:32件
・月の合計:約120時間(4名分)
・担当が1人しかいない業務:勤怠の締め、給与計算の照合(どちらもBさん)
3. 減らす候補
① 月次の人員報告(月2時間):勤怠システムの集計画面で代えられるか確認し、やめる
② 問い合わせへの回答(月約7時間):よくある質問への回答の下書きをChatGPTに作らせる
③ 議事録の作成(月約3時間):会議の録音から要点をAIにまとめさせる
4. 浮いた時間の使い道
・入社者の受け入れ面談に充てる(今は手が回っていない)
5. 決めていただきたいこと
・①の報告をやめてよいか
・②③で、社員の個人情報をAIに入れない前提で使ってよいか
6. 次の2週間でやること
・候補3件の担当者に手順を詳しく聞き、減る時間を見積もり直す
このメモで外せないのは、4番目の浮いた時間の使い道。減らした時間を何に使うかが書かれていないと、部長は削減の効果を判断できません。メンバーにとっても、空いた時間に別の雑務が入るだけに見えてしまいます。
減る時間の見込みを、1週目のメモに無理に書く必要はありません。担当者に手順を聞く前の見込みは外れやすく、外れた数字が一度部長に伝わると、後から直しにくいためです。
業務棚卸しと業務の洗い出し・業務可視化・業務フロー図の違い
1週目の報告が終わると、部長や他部署から「業務フローも描いて」「業務を可視化して」と言われることがあります。似た言葉でも、やることとできあがるものはそれぞれ別。
| 言葉 | やること | できあがるもの | 取りかかる時期 |
|---|---|---|---|
| 業務の洗い出し | 仕事を1件ずつ書き出す | 業務名の一覧 | 1週目の2〜4日目 |
| 業務棚卸し | 書き出した仕事に時間を付け、減らす候補を決める | 業務棚卸表と報告メモ | 1週目全体 |
| 業務可視化 | 業務の量と時間を人別や種類別に集計する | 工数の集計表やグラフ | 2週目以降 |
| 業務フロー図 | 選んだ業務の手順と判断の分かれ道を図にする | フロー図 | 候補が決まった後 |
フロー図は、全部の業務に描くものではありません。1週目に選んだ候補の3つにだけ描けば足ります。全部を図にしようとすると、描き終わる前に担当者や手順が変わってしまうからです。
業務棚卸しの2週目は候補の業務だけを担当者に詳しく聞く
部長の了承が取れたら、2週目は候補の3つに絞り、担当者から手順を聞き取ります。1週目の表にあるのは業務名と時間だけ。やめたりAIに任せたりするには、どんな手順で、何を見て判断しているのかまで知る必要があります。
聞くことは次の6つ。1業務につき30分ほどで聞き終わります。
- その作業は、何がきっかけで始まりますか(メールが届いたら、毎月25日になったら、など)
- 何を見て、何と比べていますか
- どうなったら「おかしい」と判断しますか
- おかしかったときは、誰に何を連絡しますか
- 1回のうち、どこで一番時間を取られますか
- 本当はやらなくてよいと思っている手順はありますか
答えを書き取るのが大変なら、話してもらった内容を録音して文字にし、AIに手順と判断のルールへ分けてもらう方法があります。頼み方は業務棚卸しをAIで進める方法で紹介しています。
聞き取りで見落としやすいのは、その業務の前後で新しく増える作業。たとえば問い合わせへの回答をAIに下書きさせても、AIに読ませる規程のファイルを毎月探して更新する作業が増えれば、月の時間は思ったほど減りません。候補ごとに、減る作業と増える作業の両方を書き出しておきます。
AIを入れても残業が減らない理由と、前後の作業まで含めた業務の切り分け方は、資料『AIによる業務効率化が進まない理由 ~業務設計編~』で整理しています。
業務棚卸しが一覧で終わる原因は目的・完璧主義・メンバーの警戒
ここまでの作業のどれかを飛ばすと、業務棚卸しは表を作ったところで終わります。原因はほぼ次の3つで、どれも1週目の作業で防げます。
原因1 部長と目的を確認しないまま書き出す
何のために減らすのかが決まっていないと、完成した表を前にしても、どの業務を選べばよいのか判断できません。表はよくまとまった資料として保存され、次の会議では話題に出なくなります。1日目の確認メールは、これを防ぐためのもの。
原因2 最初から完璧な表を作ろうとする
正確な時間を測ろう、全部の業務を漏れなく書こう、と始めると、書き出しだけで1か月が過ぎます。
リデザインワークのAX支援で見てきた範囲では、着手の速い会社ほど、最初から完璧な表を作ろうとしません。だいたいの時間で叩き台を作り、直しながら候補を選んでいます。反対に、完成度の高い一覧を先に作ろうとする会社ほど、着手が遅れます。
原因3 メンバーが人を減らす調査だと受け取る
メンバーが身構えると、書き出しには当たり障りのない業務だけが並び、本当に時間を取られている作業が出てきません。依頼文の冒頭に目的を書くのは、これを防ぐため。
さらに一歩進めるなら、メンバー自身に業務を分解してもらう場を作ります。リデザインワークのAX支援では、人事部の各チームリーダーとメンバーを集めた勉強会を開くことがあります。業務を工程に分ける考え方をその場で説明し、各チームが自分たちの業務を分解して、どの工程から減らすかをグループで話し合います。
参加前はAIを便利なチャット程度に捉えていたメンバーが、自分のチームの業務を減らすことを、自分の課題として持ち帰ります。部長にとっても利点は大きい。どの業務が大変なのかを把握できていない部長は多く、この場で業務の中身と減らす順番が同時に見えるからです。
業務棚卸しの1回目は減らす候補を部長と決めて終える
業務棚卸しの1回目で目指すのは、きれいな一覧表ではなく、部長と減らす業務を3つ決めること。1日目に目的を確認し、木曜日までに1か月分を書き出し、金曜日に候補3つと浮いた時間の使い道を1枚で報告する。この順番で取り組めば、表を作って終わることはありません。
2週目に担当者の話を聞くと、同じ業務でも人によって手順が違うとわかる場合があります。手順がばらばらのままではAIに任せられないため、先に手順を1つに決めます。決め方は業務の標準化とはで扱っています。
今日やることは、部長への確認メールを1通送ることです。







