サーベイ運用の隠れ工数とは|エンゲージメントサーベイの設計〜報告〜活用にかかる工数を可視化
「サーベイの費用はいくらか」と聞かれて、ツールの年間利用料を答える。多くの会社でそうなっています。
ところが実際にかかっているものを数えると、金額よりも時間のほうが大きいことがほとんどです。設問の見直しに何回か会議を開き、集計表を作り直し、報告資料を経営向けと現場向けに分けて作る。担当者1人の作業ではなく、複数の部署の時間が消えています。
この時間が見えていないと、サーベイは費用対効果の議論に乗りません。ツール代に対して成果が見合うか、という比較になり、実際に何が重いのかが出てきません。
この記事では、サーベイ運用の工数が6つの工程のどこに溜まるのかを整理し、隠れ工数が生まれる3つの構造、圧縮してよい工程と残すべき工程、そして浮いた時間の行き先までを扱います。
記事の後半には、自社のサーベイ運用の工数を棚卸しするプロンプトを載せました。どこに時間が偏っているかが1枚で出るので、来年の進め方を決める材料としてお使いください。
サーベイ運用の費用はツール代より人の時間が大きい
まず、何を数えるのかを確認します。サーベイ運用にかかっているものは3種類あります。
- ツールの利用料。年額で発生し、見積書に載るので誰でも把握しています。
- 社内の人の時間。設計・実施・集計・報告に関わる全員の時間。どこにも計上されません。
- 回答者の時間。従業員数×回答時間。これも計上されません。
2番と3番は既存の人件費の中にあるため、費用として見えません。しかし本来の業務から引かれている時間なので、実質的な支出です。
回答者の時間は、簡単に試算できます。従業員300人で回答時間が10分なら、それだけで50時間。ここに集計と報告の時間が乗ります。
サーベイ運用の工数は6つの工程に分かれる
工数がどこに溜まっているかを見るために、運用を工程に分けます。年1回の本調査を想定した内訳です。
| 工程 | やること | 時間が溜まりやすい箇所 |
|---|---|---|
| 設計 | 目的の確認と設問の見直し | 関係者との合意形成 |
| 準備 | 配信対象の整理と社内告知 | 名簿の突き合わせ |
| 実施 | 配信と督促 | 未回答者の追いかけ |
| 集計 | 回答データの結合と点数化 | 手作業での加工 |
| 分析 | 差の抽出と原因の絞り込み | 切り口ごとの集計の作り直し |
| 報告 | 経営向けと現場向けの資料作成 | 相手ごとの作り直し |
このうち、担当者の実感より時間がかかっているのは設計・集計・報告の3つです。実施は日程を決めれば進みますが、この3つは何度も戻ります。
リデザインワークのサーベイ活用支援で工数を実測すると、多くの会社でこの3工程が全体の7割前後を占めます。
サーベイ運用の隠れ工数が生まれる3つの構造
なぜこの3工程に時間が溜まるのか。担当者の手際の問題ではありません。運用の側に、時間が消える構造が三つあります。
一つ目は、設問の合意形成に終わりがないことです。設問を減らす案を出すと、各部署から残してほしい設問が返ってきます。判断の基準が「必要かどうか」だと、必要でない設問は存在しないため、議論が収束しません。
基準を「その設問が低かったとき、来期の予算か制度が動くか」に変えると、会議は1回で終わります。設問の絞り方はエンゲージメントサーベイの質問項目で扱っています。
二つ目は、集計を毎回作り直していることです。回答データを部署別に切り、階層別に切り、在籍年数別に切る。切り口が増えるたびに表を作り直し、去年の集計表は使い回せません。設問が変わっているためです。
三つ目は、報告資料を相手ごとに作り直していることです。経営向けに総合点と前年比をまとめ、現場向けに部署ごとの結果をまとめ、管理職向けにさらに別の粒度で作る。同じデータから3種類の資料が生まれます。
この三つに共通しているのは、前工程の決めごとが後工程の工数を決めていることです。設問が絞れていないから集計の切り口が増え、切り口が多いから報告の粒度が定まりません。時間が消えているのは後工程ですが、原因は前工程にあります。
サーベイ運用の工数を測る手順
改善の前に、現状を数字にします。手順は4つです。
- 関わった人を全員挙げる。人事だけでなく、名簿を出した部署、告知を回した部署、資料を確認した役員まで含めます。
- 工程ごとに時間を聞く。6つの工程を示して、それぞれ何時間かかったかを本人に答えてもらいます。記憶で構いません。
- 回答者の時間を試算する。対象人数×平均回答時間。督促に応じた分も含めます。
- 工程別に合計する。どの工程に何割が集中しているかを出します。
2番は、実績ではなく感覚で構いません。正確に測ろうとすると、測ること自体が工数になります。どの工程が重いかが分かれば、次の判断はできます。
出てきた数字は、ツールの利用料と並べて1枚にしてください。費用対効果の議論に乗せるには、比べられる形にする必要があります。
サーベイ運用で圧縮してよい工程と残すべき工程
工数が見えたら、どこを削るかを決めます。すべてを削ろうとすると、サーベイの意味がなくなる工程まで削れてしまいます。
| 工程 | 扱い | 理由 |
|---|---|---|
| 設計 | 短縮する | 判断基準を先に決めれば、会議は1回で足りる |
| 準備 | 仕組みで減らす | 名簿の突き合わせは毎年同じ作業になる |
| 実施 | そのまま | 督促は回答率に直結する |
| 集計 | 大幅に減らす | 手作業での加工は自動化できる |
| 分析 | 残す | ここを削ると、打ち手が決まらない |
| 報告 | 型を作る | 相手ごとの作り直しは、型が決まれば1回で済む |
削ってはいけないのは分析です。集計と分析は別の作業で、集計は数字を並べること、分析はどこに差があり何が効いているかを読むことです。集計を短縮して分析に時間を回すのが、圧縮の狙いになります。
分析の進め方はエンゲージメントサーベイの分析方法で6ステップに整理しています。
浮いた時間の行き先を先に決める
工数を圧縮したあと、報告で終わらせないための一手があります。浮いた時間を何に使うかを、圧縮する前に決めておくことです。
削減だけを報告すると、翌年は削減額が目標になります。サーベイの運用を軽くすること自体が目的になり、実施の頻度を下げる話に流れます。
行き先として現実的なのは、次の3つです。
- 課題の特定を深める。部署ごとの数字の背景を、担当者への聞き取りで確かめる時間に充てます。
- 現場への返し方を変える。結果を返して終わりではなく、部門長と打ち手を決める場を作ります。
- 打った施策の効果を追う。次の測定まで待たず、短い間隔で変化を確認します。
このうち2番が、いちばん結果に効きます。サーベイが形だけになる最大の原因は、現場に結果が返らないことにあるためです。形骸化の仕組みはエンゲージメントサーベイは意味ないと言われる理由で扱っています。
サーベイ運用の工数を棚卸しするプロンプト
工数の聞き取りをまとめる作業は、表の形が決まっていないと進みません。集めた時間をAIに整理させると早く進みます。
あなたは業務設計の専門家です。以下は当社のエンゲージメントサーベイ運用にかかった時間の聞き取り結果です。
1. 設計・準備・実施・集計・分析・報告の6工程に分類し、工程別の合計時間を出してください。
2. 全体に占める割合を工程ごとに示し、時間が集中している工程を3つ挙げてください。
3. 集中している工程それぞれについて、時間が消えている原因が
前工程の決めごとにあるのか、その工程の作業のやり方にあるのかを判定してください。
4. 圧縮の候補を挙げてください。ただし、分析にかける時間は減らさない前提としてください。
専門用語は使わず、人事担当者が経営会議でそのまま説明できる言葉で書いてください。
(ここに聞き取り結果を貼り付け)
出てきた案は、そのまま採用するものではありません。担当者が「これは削れない」と反応した工程には、聞き取りには出てこない社内の事情があります。その会話をするために案を出させる、という使い方をしてください。
サーベイ運用で判断に迷いやすい3つの論点
工数を見直すと、社内で必ず議論になる点があります。
実施の頻度を下げるべきか。工数が重いことを理由に頻度を下げると、変化が追えなくなります。下げるのは頻度ではなく、1回あたりの工数です。年1回の本調査を軽くして、間をパルスサーベイで埋める形が扱いやすい形です。
ツールを乗り換えれば解決するか。集計の工数は下がりますが、設計と報告は変わりません。この2工程は決めごとの問題で、道具の問題ではないためです。乗り換える前に、どの工程が重いのかを測ってください。
外部に任せるべきか。分析と報告の型を作るところまでは外に頼む価値があります。ただし毎年頼み続ける形にすると、社内に読み方が残りません。型が社内に残る形で依頼してください。
サーベイ運用のどこに時間が偏っているかの整理でお困りでしたら、一度ご相談ください。
いまの運用の工程と関わっている人をお聞きして、圧縮できる工程と、浮いた時間の行き先まで一緒に決めます。
サーベイ運用は測ってから減らす
サーベイの運用が重いという話は、どの会社でも出てきます。ところが何が重いのかを数字で言える会社は多くありません。
工程に分けて時間を出すと、重いのは実施ではなく設計と集計と報告だと分かります。そして設計を決めれば集計が減り、集計が減れば報告の型が決まります。手をつける順番も、測れば見えてきます。
減らした先に何をするかまで決めておけば、来年のサーベイは報告で終わりません。







