バックオフィスの業務効率化|上司に言われたら何から始めるか・着手順とAIで省力化する方法
上司から「バックオフィスの業務を効率化してほしい」と言われたら、今日やることは1つです。チームの仕事を1行に1つずつ書き出す表を作り、メンバーに記入を頼むこと。ツールを調べるのも、AIを試すのも、この表が埋まってからで間に合います。
先にツールを調べ始めると、ペーパーレス化、RPA、チャットボットと方法の候補ばかりが増えていく。ところが、自分のチームのどの作業に使うのかが決まっていないため、上司に何も提案できないまま時間だけが過ぎます。
全体の流れは次の6つです。
- 今の仕事を書き出す(1週間)
- 月の時間が多く、手順どおりにできる業務を3つ選ぶ
- 選んだ業務ごとに、やめる・まとめる・入れ替える・道具に任せるの4つを検討する
- 道具に任せる業務は工程に分け、ChatGPTやExcelに任せる工程を決める
- 1か月試して、時間・件数・ミスの件数を数える
- 結果を上司に報告し、自分では決められないことの判断を仰ぐ
書き出す表の記入例、着手する業務を選ぶ表、業務の減らし方を検討するChatGPTの指示文は、どれもコピーしてそのまま使えます。この記事を読み終えたら、今日中に表を配り、来週には上司へ「最初に手をつける3つの業務」を報告できます。
仕事を書き出す作業は、一般に業務の棚卸しと呼ばれるもの。部署全体で行うときの詳しいやり方は、業務棚卸しとはで解説しています。
バックオフィスの業務効率化は今の仕事を書き出す表から始める
書き出しを最初に置くのは、どの作業にどれだけ時間がかかっているかが分からないと、何を減らすかを決められないからです。作業ごとの時間は、上司への報告でも最初に聞かれる数字になる。
書き出す表のひな形と記入例
下の記入例をExcelかスプレッドシートに写して、そのまま配って使ってください。数字は記入例です。
| 業務(動詞で書く) | 担当 | 月の回数 | 1回の時間 | 月の時間 | 判断 | 困っていること |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 請求書を受け取り会計ソフトに入力する | 経理 Aさん | 120件 | 6分 | 12時間 | 手順どおり | 月末に集中する |
| 経費精算の申請額と領収書を照合する | 経理 Bさん | 200件 | 5分 | 約17時間 | 手順どおり | 差し戻しが多い |
| 勤怠の打刻漏れを確認して本人に連絡する | 人事 Cさん | 80件 | 5分 | 約7時間 | 手順どおり | 同じ人が毎月漏れる |
| 社員からの制度の問い合わせに答える | 人事 Cさん | 60件 | 10分 | 10時間 | その都度判断 | 規程を探すのに時間がかかる |
| 入社書類を集めて記入漏れを確認する | 人事 Dさん | 5人 | 90分 | 7.5時間 | 手順どおり | 書類の不備が多い |
| 部署ごとの備品の注文をまとめて発注する | 総務 Eさん | 4回 | 30分 | 2時間 | 手順どおり | 申請がメールとチャットに分かれている |
書くときの決まりは次の3つ。
- 1行に1つの作業を書く 「経理業務」「採用」のような大きな括りでは、どこを減らすかが決まらない
- 動詞で書く 「請求書」ではなく「請求書を会計ソフトに入力する」と、何をしているかまで書く
- 月の時間は回数と1回の時間を掛けて出す おおよそで構わない。年1回の作業(年末調整・決算など)は、かかる時間を12で割って月に直す
困っていることの欄は、自由に書いてもらって構いません。ただ、次の4つのどれに当たるかを添えてもらうと、後で整理する手間が減る。バックオフィスで時間がかかる原因は、たいていこのどれかに当たるためです。
- 紙と手入力が多い
- 確認と差し戻しが多い
- 問い合わせで手が止まる
- その人しか分からない
列を増やしたい場合や、メンバーへの依頼文の例、集まったメモをChatGPTで表に整理する指示文は、業務棚卸しのフォーマットにまとめました。
書き出しを頼むと、メンバーから「自分の仕事がなくなるのか」と聞かれることがあります。答える前に、上司の指示の目的を一度確認しておくと、メンバーに同じ説明ができます。会社が目指しているのが、人を減らすことではなく、人を増やさずに回すことである場合もあるためです。
実際、リデザインワークのAX支援(AIを使って業務の進め方を変える支援)で話を伺った医療機器メーカーの経営層は、バックオフィスの人員に上限を設け、退職者を補充しなくても回る体制を目標にしていました。今いる人を減らすのではなく、増やさずに回すための目標。
人を減らす省人化と、手間を減らす省力化の違いと、上司の指示がどちらを指しているかの確かめ方は、省人化と省力化の違いで解説している。
着手順は月の時間と判断の単純さで決める
表が埋まったら、どの業務から手をつけるかを決めます。全部を同時に変えると、どれも中途半端になり、効果も測れません。最初は3つの業務に絞ります。
選ぶ基準は、書き出した表の2つの列だけで足りる。
- 月の時間が多いか 月の回数と1回の時間を掛けた数字
- 判断が単純か 判断の列が「手順どおり」で、例外が少ないか
2つの基準で並べると、着手の順番が決まる。
| 判断が単純 | 判断が複雑 | |
|---|---|---|
| 月の時間が多い | 最優先。請求書の入力・経費精算の照合・勤怠の確認 | 2番目。判断する部分は人が持ち、前後の作業だけを道具に任せる |
| 月の時間が少ない | 3番目。まとめて片づける | 手をつけない。かける手間に見合わない |
右下の業務に時間を使わないことが要点です。珍しくて難しい業務ほど現場の不満は大きいのですが、全体の時間に占める割合は小さい。
先ほどの記入例に当てはめると、最初の3つは経費精算の照合(月約17時間)、請求書の入力(月12時間)、入社書類の確認(月7.5時間)。社員からの問い合わせ(月10時間)は、時間は多いものの判断が要るため2番目のグループです。
部署ごとに、最初の3つに入りやすい業務は次のとおりです。
- 経理 請求書の入力・経費精算の照合・月次の集計表の作成。工程ごとにどこから任せるかは経理業務のAI活用で解説しています
- 人事 勤怠の確認・入社手続き・制度の問い合わせ対応。問い合わせの減らし方は人事への問い合わせを減らす方法で扱っています
- 総務 証明書の発行・社内文書の作成・申請の受付。総務のAI活用にまとめています
ただし、月の時間が少なくても、誰も使っていない作業はやめる候補として残します。
書き出した業務を2つの軸で仕分け、どの業務からAIに任せるかの順番を決める手順を、人事の業務を例に整理したのが資料『人事AXに取り組む業務を整理するフレームワーク』です。
業務効率化の考え方はやめる・まとめる・入れ替える・任せるの順
3つの業務を選んだら、それぞれをどう減らすかを考えます。その前に、ここで扱う効率化の意味を確認しておく。
バックオフィスの業務効率化とは、経理・人事・総務など社内を支える部門の作業について、同じ結果をより少ない時間と手間で出せるようにすることです。
減らし方は4つあり、上から順に検討します。
| 順 | 減らし方 | 自分に問うこと | バックオフィスの例 | 減る時間 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | やめる | その作業の結果を誰が使っているか | 誰も見ていない月次の集計表の作成をやめる | 作業の時間がすべてなくなる |
| 2 | まとめる | 回数を減らせないか、似た作業を1回で済ませられないか | 毎日の入金確認を週2回にする | 減らした回数の分 |
| 3 | 入れ替える | 担当や順番を変えると、差し戻しが減らないか | 申請の時点で記入漏れを止め、経理からの差し戻しをなくす | やり直しの分 |
| 4 | 道具に任せる | Excel・今あるシステム・ChatGPTでできないか | 問い合わせの回答文をChatGPTで下書きする | 1回あたりの時間 |
この順番のもとになっているのは、製造の現場で使われてきたECRS(イクルス)という改善の考え方。なくす・まとめる・入れ替える・簡単にするの順に検討するもので、4つ目の道具に任せるは、簡単にするを事務の仕事に当てはめたものです。
AIやツールの話が4番目に来る理由は単純で、やめられる作業を道具で速くしても、なくせたはずの時間が残るからです。まず「この作業は本当に必要か」を問い、残った作業だけを道具に任せます。
ただし、1番目のやめる判断は、係長・主任だけでは決められないことが多い。その作業の結果を、他の部署や上司が使っている可能性があるためです。やめたい作業は候補として残しておき、後で上司への報告に入れます。
業務が20行を超えると、1行ずつ4つの問いを当てるのは手間がかかる。その場合は、書き出した表をChatGPTに貼って候補を出させます。
以下の業務一覧について、業務ごとに次の4つを順に検討し、表にしてください。
1. やめられないか(その作業の結果を誰が使っているか)
2. まとめられないか(回数を減らす、似た作業を1回で済ませる)
3. 担当や順番を変えられないか(前の工程で防げる差し戻しはないか)
4. 道具に任せられないか(Excel、今あるシステム、ChatGPTのどれで)
最後に、「やめる」の候補になった業務だけを一覧にしてください。
推測で書いた部分には「要確認」と付けてください。
(ここに業務一覧を貼り付ける)
ChatGPTが出すのは、あくまで候補にすぎません。特に「やめる」の候補は、その作業の結果を使っている人に確認してから決めます。
道具に任せる業務は工程に分けてAIに頼む部分を決める
4つの減らし方のうち、道具に任せると決めた業務は、さらに工程に分けます。「請求書の処理をAIに任せる」という大きさのままでは、まだ手を動かせないからです。1つの業務の中には、道具に任せられる工程と、人が判断する工程が混ざっています。
請求書の処理なら、工程は次の5つ。
| 工程 | 中身 | 任せられるか |
|---|---|---|
| 受け取り | メールや郵送で届いた請求書を集める | 任せられる |
| 読み取り | 金額・日付・取引先を取り出す | 任せられる |
| 照合 | 発注の内容と突き合わせる | 差し戻す条件が決まっていれば任せられる |
| 例外の判断 | 金額が合わない場合の扱いを決める | 人が持つ |
| 承認 | 支払いを決裁する | 人が持つ |
照合の工程で、任せられるかどうかが分かれる。「何円以上の差額なら差し戻すか」が決まっていれば任せられ、決まっていなければ人が見ることになります。
つまり、ExcelやAIに任せられるかどうかは、道具の性能より、社内のルールが言葉になっているかどうかで決まります。担当者が頭の中で判断している基準があるなら、まずその基準を書き出すことが先です。
工程に分ける作業そのものを、音声で話してAIに手伝わせるやり方は、業務棚卸しをAIで進める方法で紹介しています。
ChatGPTに任せるのは下書き・要約・整理・記入漏れの指摘
工程に分けると、ChatGPTに頼める作業が具体的に見えてきます。ChatGPTが得意なのは、文章の下書き・長い文章の要約・決まった形への整理・記入漏れの指摘の4つ。
事務作業ごとにそのまま使える指示文は、事務職のChatGPT活用法にまとめています。
一方で、ChatGPTは自社の数字や規程の中身を知らない。貼り付けた内容についても、計算や規程の読み方を間違えることがあります。そのため、どの作業も人が確認する前提で使う。会社で使えるAIがMicrosoft CopilotやGeminiの場合も、頼み方は同じです。
| この作業を | ChatGPTにこう頼む | 人が確認すること |
|---|---|---|
| 社員からの制度の問い合わせに答える | 質問と規程の該当部分を貼り、回答文の下書きを作らせる | 規程の読み違いと、個別の事情 |
| 自分の作業の手順書を作る | 作業のメモを貼り、初めての人向けの手順書にさせる | 抜けている手順 |
| Excelで集計の関数を作る | 列の名前とやりたい計算を言葉で伝え、関数を書かせる | 数件を手で計算して一致するか |
| 社内への案内文を書く | 伝える日付と内容を箇条書きで渡し、文面にさせる | 日付・金額・締め切り |
| 申請書の記入漏れを確認する | 記入のルールと申請内容を貼り、漏れを指摘させる | 差し戻すかどうかの判断 |
ただし、社員の氏名・給与額・評価・住所、取引先との契約金額などは、ChatGPTに貼りません。会社によっては、使ってよいAIのサービスと、入力してよい情報の範囲が社内の規程で決まっています。使い始める前に、情報システムの担当か上司へ確認しておくことが先です。
ChatGPT以外の業務効率化の方法と自分で始められる範囲
ChatGPTで省力化できるのは、主に文章を扱う作業に限られます。バックオフィスの業務効率化には、ほかに、ツールの導入や外部への委託といった方法もある。
係長・主任が自分の判断で始められる方法と、予算や他部署の判断が要る方法を分けて考えると、上司への提案が組み立てやすくなります。
| 方法 | 中身 | 向いている業務 | 自分で始められるか |
|---|---|---|---|
| 手順書を作る | 担当者の頭の中にある手順を文書にする | 1人しか分からない業務 | 始められる |
| Excelの関数やマクロ | 手で計算や転記をしている部分を自動にする | 集計・転記 | 始められる |
| ChatGPTなどの生成AI | 下書き・要約・記入漏れの確認を任せる | 問い合わせの回答・案内文・手順書 | 会社が利用を認めていれば始められる |
| 社内のFAQを作る | よくある質問と回答をまとめ、社員が自分で探せるようにする | 制度や手続きの問い合わせ | 文書を作るところまでは始められる |
| ペーパーレス化とワークフロー | 紙の申請や押印を、画面上の申請と承認に替える | 経費精算・稟議・各種申請 | 予算と情報システムの判断が要る |
| RPA | パソコン上の決まった操作を、ソフトが自動で繰り返す | システム間の転記・定型の帳票作成 | 予算と情報システムの判断が要る |
| クラウド会計・経費精算システム | 銀行やカードの明細を自動で取り込み、仕訳までつなぐ | 仕訳・経費精算 | 予算の判断が要る |
| 外部への委託 | 決まった手順の業務を外部の会社に任せる(アウトソーシング) | 記帳・給与計算・データ入力 | 予算と上司の判断が要る |
上の4つは、今日からでも始められる方法。下の4つは費用がかかるため、上司の判断が要ります。
ただ、どちらの方法も、書き出した表の数字があるかどうかで通りやすさが変わります。「経費精算の照合に月17時間かかっている」と言えれば、システムの費用と比べる話ができるからです。
業務効率化の効果は時間・件数・差し戻しの3つで測る
3つの業務を1か月試したら、結果を数字で上司に報告します。数える項目は3つで足ります。
- 月の時間 書き出した表の数字が、変える前の値になる。後から遡って数えることはできない
- 件数 月に何件処理したか
- ミスと差し戻しの件数 ExcelやAIに任せた工程のうち、人がやり直した件数も含める
3つ目の件数が多いなら、任せる条件の決め方が粗いということ。条件を直せば減っていきます。
削減できた時間は、変える前と後の1回の時間の差に、月の回数を掛けて出します。経費精算の照合で、1回5分が2分になり月に200件あれば、月10時間の削減。変えた後の時間には、ChatGPTの下書きを人が確認する時間も含めます。確認の時間を抜くと、報告した数字と現場の実感が合わなくなるためです。
報告では、やめてよいか、AIに社内の資料を貼ってよいかなど、係長・主任だけでは決められないことを具体的に書いて、上司の判断を仰ぎます。決められないことを書いて渡すと、上司は判断するだけで済み、次にやることが早く決まります。
報告1枚の組み立て方と例文は、業務改善を上司に相談する方法で解説しています。
バックオフィスの業務効率化でつまずく5つの場面
書き出しから報告までの流れで進めても、つまずきやすい場面がいくつかあります。よくある場面と防ぎ方は次のとおり。
| つまずく場面 | 起きること | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| 先にツールを調べる | 自分のチームのどこに使うかが決まらない | 書き出しを先にする |
| 全部の業務を一度に変える | どれも中途半端で、効果を測れない | 最初は3つに絞る |
| 変える前の時間を数えない | 後で効果を説明できない | 書き出した表の月の時間を残しておく |
| 1人に任せきりにする | 担当者が休むと業務が回らない | 手順書を作り、2人で回せるようにする |
| AIに任せた工程の前後で作業が増える | 貼り付けや確認の手間が増え、残業が減らない | 前後の工程まで書き出してから任せる |
4つ目は、その人にしか分からない業務が残る、いわゆる属人化の問題。担当者しか分からない業務の減らし方は、属人化の解消方法で扱っています。
5つ目は、ChatGPTを使い始めた後に気づくことが多い場面です。AIに任せた工程の前後に生まれる新しい作業まで含めて、手戻りの少ない業務の分け方を整理したのが資料『AIによる業務効率化が進まない理由 ~業務設計編~』です。
どの業務から手をつけるかは、書き出した業務の時間と、社内のルールがどこまで言葉になっているかで変わります。
書き出した表をもとにお話をお聞きして、最初に手をつける3つの業務と、AIに任せる工程まで一緒に決めます。
バックオフィスの業務効率化は、ツール選びではなく、今の仕事の書き出しから始まります。書き出した表の月の時間が、着手順を決める材料にもなり、上司へ報告する数字にもなる。
まずは今日、書き出す表をメンバーに配ってください。1週間後には、最初に手をつける3つの業務が決まっているはずです。
書き出した業務のうち、どこまでをAIに任せてよいかの判断基準は、AIに任せる業務の選び方で整理しています。







