情シスのAI活用|ヘルプデスク自動化の4領域と、現場のAI活用を止めてしまう情シスとの分かれ目
同じ問い合わせに毎日答えている。入退社の時期はアカウントの発行と停止でパンクする。運用に追われて、攻めのITに回る時間が取れない。
情シスの相談で最初に出てくるのは、たいていこの3つです。IT人材は2025年に約43万人不足すると見られており、一人で全社の情報システムを見ている会社も珍しくありません。
一方で情シスには、もう一つの顔があります。全社でAI活用を進めるときの推進主体であり、同時に許可を出す側でもあるという立場です。自部門の省力化だけを考えて動くと、この2つ目の役割で組織の足を引っ張ることがあります。
この記事では、情シス業務のうちAIに任せられる4つの領域を整理したうえで、権限を渡すだけの部門になったときに現場のAI活用が止まる構造と、その前に決めておくルールを扱います。
読み終えると、自部門のどの業務から着手するかと、全社にAIを開放する前に何を決めておくべきかが分かります。
情シスのAI活用は守りと攻めの二面で考える
情シスの業務は、性質の違う2つに分かれる。この2つを分けずに「情シスのAI活用」とすると、話が噛み合いません。
守り ヘルプデスク・アカウント管理・運用監視・障害対応。件数が多く、手順が決まっているものが中心です。ここはAIで圧縮できます。
攻め 全社のAI基盤の整備、セキュリティとガバナンスの設計、全社のリテラシー教育。判断が要り、他部門との調整が発生します。
着手の順番は守りが先。守りの工数を圧縮しなければ、攻めに回る時間が生まれません。ひとり情シスで運用に忙殺されている状態のまま、全社のAI基盤を設計するのは無理があります。
情シス業務でAIに任せられる4つの領域
守りの業務は、次の4領域に分けると着手の順番が決まります。
| 領域 | AIに任せられる範囲 | 人が残す判断 | 公開されている削減幅 |
|---|---|---|---|
| ヘルプデスク一次対応 | 問い合わせの分類・FAQからの回答・本人確認 | 例外対応・権限に関わる判断 | 800名規模で月1,200件から200件・週30時間の還元 |
| アカウント管理 | 入退社を起点とした発行と停止・未使用ライセンスの検出 | 権限付与の承認 | 人事イベント連動で手作業をほぼ解消 |
| 運用監視 | アラートの相関分析・起票・予兆の検出 | 障害時の判断・復旧方針 | ログ調査が30分から数分へ |
| 社内ツール開発 | コードの下書き・テスト・仕様の整理 | 公開範囲の判断・データの扱い | 資料作成と検索で年44.8万時間 |
数字の出どころはJosysとIIJ、パナソニック コネクトの事例です。いずれも件数の多い定型業務から着手して出た数字で、判断を伴う業務の削減ではありません。
ヘルプデスクは問い合わせログの棚卸しから始める
4領域のうち最初に着手するのはヘルプデスクです。件数が多く、効果も測りやすい。
ただし、チャットボットやRAGを先に入れても、問い合わせは減りません。答えの元になる文書が社内に無ければ、AIは答えようがないためです。
先に問い合わせログを3つに分けます。
- 文書に答えがあるもの すぐAIに任せられます。ここが多いほど導入は早い。
- 文書はあるが古いもの 文書を直すのが先。古い答えを返すAIは、使われなくなります。
- 文書が無く、担当者の頭の中にあるもの 実際にはこれが最も多い。書き起こす作業が必要で、ここを飛ばすと精度は上がらない。
3つ目を書き出す作業は、業務棚卸しと同じ手順で進められます。列の設計は業務棚卸しとはにまとめました。

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アカウント管理は人事イベントを起点にする
アカウントの発行と停止は、入社・異動・退職という人事のイベントから発生します。情シスが人事から連絡を受けて手で処理している限り、遅延と漏れはなくなりません。
人事システムの変更を起点に、ID管理の仕組みが自動で発行と停止を行う形にすると、入退社シーズンの負荷が構造的に消えます。停止漏れはそのままセキュリティの穴になるため、効率化より先にリスクの話として説明したほうが予算が付きます。
情シスが全社のAI活用を止めてしまう構造
ここまでは自部門の話。しかし情シスの仕事で全社への影響が最も大きいのは、AIを使わせる側としての役割設計です。
リデザインワークのAX支援では、プロジェクトをリードするだけでなく、参加するメンバー自身がCopilotを使ったAXの考え方と進め方を学びます。その結果、メンバーだけで業務に使えるツールを作れるようになります。ここまでは狙いどおりです。
問題が起きるのは、その次の段です。
情シスがツール公開のチェックゲートを設けず、AIガバナンスを整理しないままだと、作った人がそのまま全社に公開してしまいます。情シスから見れば「聞いていない」となる。ここで止めに入ると、作った側との間に対立が生まれます。どちらも悪意はないのに、調整にリソースが消えていきます。
さらに悪いのは、その後です。慌ててルールを作ると、たいてい複雑で分かりにくいものになります。社員から見ると「難しいルールができて、勝手なAI活用を禁じられた」という受け取り方になる。
そうなると、業務改善を進めるインセンティブが弱まります。わざわざ面倒な手続きを通してまで改善を頑張る理由がなくなり、「無駄に頑張るのはやめよう」という空気ができる。一度この空気ができると、戻すには最初に導入したときより大きな労力がかかります。
守りの部門として安全に事業を運営することは当然に重要です。ただし企業はビジネスをしています。守りの部門が、事業成長の速度と機会を毀損する立場になってはいけません。
権限を渡す前に決める3つのルール
対立を避けるために必要なのは、統制を強めることではありません。社員が迷わない形でルールを先に置くことです。Copilotの利用を許可したり権限を解放したりするときに、次の3つを決めておきます。
1 自作AIツールの公開ルール どこまでなら個人やチームの中で使ってよいか、どこからが申請の対象か、誰が見るのか。線引きと窓口を1枚で示す。これが無いと、善意で作った人が結果的にルール違反になります。
2 データガバナンス どのデータをAIに渡してよいか。個人データと顧客データの扱いは、具体的な例で書く。「機密情報は入力しない」だけでは判断できません。社員名簿は該当するのか、社内の議事録はどうか、というレベルまで下ろします。
3 アイデンティティガバナンス 決めるのは、作ったツールが誰の権限で動くのか。作成者の権限のまま全社に公開すると、本来その人しか見られないデータを、使う人全員が見られる状態になります。権限を超えたデータ利用は、ここから起きます。
3つに共通する要件は、分かりやすさです。正確でも分かりにくいルールは、現場にとって禁止と同じ効果を持ちます。読んで自分のケースがどちらか判断できる形になっているかを、公開前に現場の数名で確かめてください。

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ルールの雛形と、公開されている実例から最小セットを作る手順は生成AI導入ガイドラインの作り方で扱っています。現場が申請を通さず使い始めている状態への対処はシャドーAI対策にまとめました。
人事がAXを進めるときは情シスに先に話を通す
ここまでは情シス側の話でした。進める側にも守るべき順番があります。
人事や事業部門でAXを推進するとき、あるいは外部の支援を入れるときは、着手の前に情シスへ一度話を通しておいてください。扱うデータの範囲、作ったものをどこまで広げる想定か、いつ頃に公開の判断が必要になるかを共有しておく。
この一手間があるだけで、後から止めに入られる事態はほぼ避けられます。逆に、情シスが知らないところで話が進み、完成してから公開の相談が来るのが、最も対立を生む形です。
情シス側も、相談を受けた時点で「まだルールが無いので待ってほしい」ではなく、いつまでに何を決めるかを返せる状態にしておくと、推進を止めずに済みます。
情シスのAI活用を90日で組む
守りの圧縮と、攻めのルール整備は並行して進める。片方だけでは、どちらも途中で止まります。
| 進める仕事 | 1日目から30日目 | 31日目から60日目 | 61日目から90日目 |
|---|---|---|---|
| ヘルプデスク | 問い合わせログを3分類する | 文書が無いものを書き起こす | 一次対応を任せる範囲を決める |
| アカウント管理 | 人事イベントとの連動範囲を決める | 発行と停止を自動化する | 未使用ライセンスの検出を回す |
| ルール整備 | 公開・データ・権限の3つを起案する | 現場の数名で分かりやすさを確認する | 社内へ公開し、窓口を明示する |
| 推進の体制 | 部門横断の相談窓口を決める | 先行部門の1件を通して運用する | 他部門へ広げる |
30日目に3分類の完了、60日目にルールの確定、90日目に他部門への展開可否を判断します。この3つの判断日を先にカレンダーへ入れておいてください。
なお、情シスと推進部門の役割分担は、リデザインワークのAX支援でも無料でご相談を承っています。
情シスの役割設計が全社のAI活用の速度を決める
情シスのAI活用は、自部門の工数を減らす話に見えて、実際には全社の速度を決める仕事です。ヘルプデスクを自動化して生まれた時間を、ルールの整備と推進の支援に充てられるかどうかで、会社全体のAI活用の進み方が変わります。
権限を渡すだけの部門にならないために必要なのは、統制の強化ではなく、社員が読んで判断できるルールを先に置くことです。現場がAIを使わなくなる原因の多くは、禁止ではなく分かりにくさにあります。
社内にAIを広げる段階でつまずいている場合は、生成AIを社内に浸透させる方法もあわせてお読みください。





