人事への問い合わせを減らす|多いのは手続きでなく制度の解釈、証明書は分けて考える
人事に来る問い合わせを減らしたい。そう考えてチャットボットの導入を検討すると、たいてい手続きの案内を自動化する話に向かいます。経費精算のやり方、勤怠の打刻、申請書の出し方。
ところが、実際に人事へ多く来るのは制度についての質問です。手続きの質問は、思っているほど多くありません。
リデザインワークのAX支援で、ある建設業の人事部門の問い合わせを見たときも、大半は制度に関するものでした。人事評価制度の運用、手当の支給要件、各種制度の適用範囲。「どうやるか」ではなく「制度がどうなっているか」を聞かれています。
この違いは、打ち手を大きく変えます。手続きの案内はマニュアルがあれば答えられますが、制度の解釈は、規程に書かれていても読み解けない、あるいは規程に書かれていない運用が質問になっているためです。
この記事では、人事への問い合わせを3つに分けたうえで、それぞれの減らし方と、証明書の発行を分けて考える理由を扱います。
人事への問い合わせは3つに分かれる
問い合わせを一括りにすると、どこから手をつけるか決まらない。性質で3つに分けます。
| 種類 | 質問の例 | 答えの所在 | 減らし方 |
|---|---|---|---|
| 制度の解釈 | 「この手当は自分も対象か」「評価はいつ反映されるか」 | 規程にあるが読み解けない、または規程に無い | 文書の整備が先 |
| 手続きの案内 | 「申請書はどこにあるか」「いつまでに出すか」 | マニュアルにある | 一次回答を任せられる |
| 証明書の発行 | 「在職証明がほしい」 | 質問ではなく依頼 | 発行の工程を短くする |
件数として多いのは1番目で、しかも最も減らしにくい。2番目は任せやすく、3番目は質問ですらありません。
公開されている導入報告では、リコーグループが人事の問い合わせ業務の70%を自動化したとしています(自社公表。リコー)。IBMのAskHRは共通の問い合わせの約94%を自己完結させ、在職証明の発行を最大2日から約30秒に短縮したと公表しています。いずれも、答えが文書として整っていることが前提です。
制度の解釈が質問になるのは規程が読み手向けでないから
制度についての質問が多いのは、社員が規程を読まないからではありません。読んでも自分のケースに当てはめられないためです。
規程は、条件と例外を漏れなく書く文書。正確ですが、「自分は対象か」を判断するようには書かれていません。手当の支給要件が3つの条項に分かれていれば、社員は3か所を照合する必要があります。
さらに厄介なのは、規程に書かれていない運用です。過去の判断の積み重ねで決まってきた扱いは、担当者の頭の中にしかありません。ここに来る質問は、文書を探しても答えが出ません。
だからこの領域は、仕組みを入れる前に文書を作る工程が要ります。
問い合わせログを3分類してから仕組みを入れる
直近3か月から6か月の問い合わせを、次の3つに分けてください。この分類が、そのまま作業計画になります。
- 規程や文書に答えがあるもの すぐ任せられます。ここが多いほど導入は早い。
- 文書はあるが古いもの 制度改定に追従していない説明資料。直すのが先です。古い答えを返す仕組みは、一度使われなくなると戻りません。
- 文書が無く、担当者の頭の中にあるもの 制度の質問はここに集まります。書き起こす工程が必要です。
3つ目の書き起こしには手間がかかる。ただし制度の運用ルールを文書化する作業そのものです。担当者が異動したときの引き継ぎにもなり、監査で聞かれたときの根拠にもなります。
書き出しの手順と列の設計は業務棚卸しとはにまとめました。

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制度の質問には規程でなく判断の手順を書く
3つ目を書き起こすとき、規程を書き写しても質問は減らない。社員が知りたいのは条文ではなく、自分が対象かどうかです。
書く形そのものを変えます。
- 規程の書き方 「第◯条 次の各号に該当する従業員に対し、住宅手当を支給する」
- 書き起こす形 「住宅手当の対象になるか。①世帯主であるか ②自分名義または配偶者名義の契約か ③会社から◯km以上離れているか。3つすべてに当てはまれば対象」
条件を順に確認できる形にすると、社員が自分で判断できます。規程は正の文書として残したまま、判断のための文書を別に作る。この2本立てが現実的です。
制度の改定が入ったときに、どちらも直す運用まで決めておいてください。片方だけ更新されると、以降の答えがすべて食い違います。
証明書の発行は問い合わせと分けて扱う
在職証明書や退職証明書の依頼は、質問ではなく作業の依頼です。判断がほとんど入らず、様式が決まっています。
依頼を受けて様式に転記し、内容を確認して渡す。この一連のうち、転記までは任せられます。人が残すのは最終確認だけです。
効果が見えやすいのはリードタイムです。IBMの事例では最大2日から約30秒になったとされています。件数の削減より、この速さのほうが社員に伝わります。申請から受け取りまでが当日になれば、人事への印象が変わります。
人事の問い合わせ対応で人が残す3つの判断
任せる範囲を広げても、人に残るのは次の3つ。
規程の解釈が割れる案件 複数の条項が衝突する、前例のない事情がある。文書に書かれていないことには答えられません。
不利益に関わる連絡 処遇が下がる、制度が変わって条件が悪くなる。内容が正しいだけでは足りない領域です。
個別の事情への配慮 家族の事情、健康上の理由。制度の条件に当てはまるかだけでは判断できません。
総務や情シスの問い合わせとまとめる判断
社内の問い合わせ全体を1つの窓口にまとめる会社もある。社員から見れば、どの部署の管轄かを考えずに聞けるほうが楽です。
ただし、着手の段階では分けたほうが進みます。答えの元になる文書の持ち主が違い、整備の担当も違うためです。人事の制度文書を整えるのと、情報システムの手順書を整えるのは別の作業になります。
窓口を1つにするのは、それぞれの文書が整ってからで構いません。総務側の進め方は総務のAI活用で扱っています。
なお、制度に関する問い合わせの整理は、リデザインワークの人事制度設計支援でも無料でご相談を承っています。
人事の問い合わせは文書を整えた分だけ減る
人事に来る問い合わせで多いのは、手続きの案内ではなく制度の解釈です。チャットボットを入れても減らないのは、答えの元になる文書が無い、あるいは読み解けない形で書かれているためです。
先に問い合わせログを3分類し、文書が無いものを書き起こす。そのとき規程を書き写すのではなく、社員が自分で判断できる手順の形にする。この工程を経てから仕組みを入れると、件数が動きます。
証明書の発行は質問ではなく依頼なので、分けて考えます。こちらは件数よりリードタイムで効果が出ます。
制度そのものを分かりやすく作り直す段階であれば、人事評価制度の設計方法もあわせてお読みください。





