挑戦する風土のつくり方|「挑戦しよう」が掛け声で終わる理由と心理的安全性・成長実感の測り方
中期経営計画に「挑戦する組織」を掲げ、社長も全社会議で呼びかけた。人事は研修を開き、行動指針にも「挑戦」を加えた。それでも1年たって、新しい提案の数はほとんど変わらない。
リデザインワークでも、挑戦を掲げる企業の人事から次のような声を聞きます。評価や失敗の扱いは従来のままで、挑戦しない理由は社員の意欲不足とされる。心理的安全性が大事なのは分かっていても、何をどう測ればよいかが分からない。
この記事では、挑戦する風土が掛け声で終わる理由と、原因を測るサーベイの設計・可視化・定点観測を説明します。読み終えると、評価・失敗の扱い・権限のどれをどの部署から見直すかを決められる。次回のサーベイに足せる設問例9問も載せました。
いまのサーベイが施策につながっているかは、エンゲージメントサーベイが意味ないと言われる理由の自己チェックで確かめられます。
挑戦する風土は掛け声でなく評価・失敗の扱い・権限で決まる
挑戦する風土とは、社員が新しい仕事や改善に自分から手を挙げ、失敗しても次の挑戦が続く職場の習慣を指します。
この習慣は呼びかけでは変わらない。社員は挑戦した同僚がどう扱われたかを見て、次に挑戦するかを決めるからです。見ているのは次の3つです。
| 構造 | 挑戦が減る職場の例 |
|---|---|
| 評価 | 期末は短期の数字だけで評価される |
| 失敗の扱い | 失敗した人が責められ、責任の追及で終わる |
| 権限 | 試すための時間・予算・決裁が現場にない |
大和総研のレポート(2015年)も、挑戦を推奨しながら期末評価で短期の数字実績を重く見たり、挑戦して失敗した社員を罰したりすれば、社員はリスクを避けて挑戦しなくなると指摘しています。
挑戦しない理由を意欲に求めると、打ち手は研修の追加になる。しかし社員から見れば、挑戦しないほうが損をしないという判断は合理的です。変えるべきは意欲ではなく、この3つの構造です。
ただし、3つの効き具合は制度の資料では見えない。そこで社員の実感をサーベイで測ります。
社員が挑戦しない原因は心理的安全性と成長実感の2つに分かれる
リデザインワークでは、測る実感を2つに分けて整理しています。
- 心理的安全性と存在承認 失敗しても居場所や評価を失わず、成果にかかわらず認められているという実感
- 挑戦の機会と成長実感 この仕事なら自分はやり遂げられるという実感
前者は挑戦の前提、後者は挑戦を始めて続ける動機にあたる。
前者の心理的安全性は、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソンが1999年の論文で「対人関係のリスクをとっても安全だという、チームのメンバーが共有する信念」と定義しました。
後者は、心理学者アルバート・バンデューラが1977年の論文で示した自己効力感を、職場に当てはめたもの。論文は、結果を生むのに必要な行動を自分はうまく実行できるという確信を効力予期と定義しています。
エドモンドソンの論文も2つを別々に測りました。製造業の51チームでは、心理的安全性の影響を除くと、チームの効力感は学習行動(助けを求める・失敗について話すなど)と関連していなかった。効力感だけを測ると、心理的安全性の低さを見落とします。
成長実感の上げ方について、バンデューラは効力予期を生む情報源のうち達成体験の影響が特に大きく、言葉による説得で生まれた確信はそれより弱くなりやすいとした。
職場に当てはめると、研修やスローガンは言葉による説得にあたります。成長実感を上げるには、小さくても最後までやり遂げる仕事を任せるほうが効く。
挑戦する風土を測るサーベイは3層で設問を設計する
2つの実感を分けて測るため、設問は3層で設計します。1層目が心理的安全性と存在承認、2層目が挑戦の機会と成長実感、3層目が2つを支える上司と制度の後押しです。3層目がないと、実感が低いと分かっても直す構造が決まらない。
設問は、点数が低いときに見直す構造を1問ずつ決めてから作り、気持ちだけでなく経験を聞く。「挑戦できると思う」には職場で望ましい答えが選ばれがちですが、「直近半年で、新しいやり方を自分から提案したか」なら答えは事実に近づきます。
心理的安全性の測り方は既存の尺度も使える
エドモンドソンの論文には、ミスをすると責められるか、助けを求めにくいかなど7項目が7段階の回答形式で載っています。
日本語では、東京大学大学院医学系研究科の精神保健学・精神看護学分野がO’Donovanらの尺度の日本語版(19項目・7件法)を公開している。リーダー・同僚・チーム全体を分けて聞くので、上司が原因かどうかも分かる。商用利用は研究者への連絡が必要です。
挑戦する風土を測るサーベイの設問例9問
1層3問の例です。経験を聞く設問は「はい・いいえ」で答えると、回ごとの変化を追える。
| 層 | 設問例 | 見直す構造 |
|---|---|---|
| 1 心理的安全性と存在承認 | 失敗を報告しても責められないと感じる | 失敗の扱い |
| 成果が出ない時期も、メンバーとして認められていると感じる | 上司の関わり方 | |
| 直近半年で、会議で反対意見を自分から伝えたことがある | 対話の場 | |
| 2 挑戦の機会と成長実感 | 自分の判断で進めてよい仕事の範囲がはっきりしている | 権限 |
| 直近半年で、前例のない仕事に自分から手を挙げたことがある | 時間と予算の枠 | |
| 直近半年で、難しいと感じた仕事を最後までやり遂げたことがある | 任せる仕事の大きさ | |
| 3 上司と制度の後押し | 上司は、結果が出なかった挑戦も過程を見て評価している | 管理職の評価 |
| 直近1年で、挑戦した人が評価で報われた例を見聞きした | 評価制度の運用 | |
| 新しい取り組みの決裁が、職場に近いところで下りる | 決裁権限の配置 |
各層から1問ずつ足すだけでも、2つの実感を分けて読めます。設問数の絞り方はエンゲージメントサーベイの質問項目で扱っています。
部署の結果は心理的安全性と成長実感の2軸マップで分ける
結果は全社平均だけで読まず、1層目と2層目の点数を部署ごとに出します。横軸を心理的安全性、縦軸を成長実感にした2軸マップに置けば、各部署の状態が1枚で分かる。
リデザインワークでは、4つの状態ごとに先に見直す構造を決めています。
| 部署の状態 | 職場で起きていること | 先に見直す構造 |
|---|---|---|
| 両方が高い | 挑戦が続き、失敗しても立ち直れる | 運用を他部署へ広げる |
| 心理的安全性だけ高い | 居心地はよいが挑戦を避ける | 任せる仕事の範囲と権限 |
| 成長実感だけ高い | 成果は出るが、失敗で自分の価値を疑い燃え尽きやすい | 失敗の扱いと評価 |
| 両方が低い | 挑戦も失敗からの立ち直りも起きにくい | 失敗の扱い、次に権限 |
部署の中は階層でも分けます。部下の挑戦を後押しする課長層だけ成長実感が低ければ、先に手を打つ。階層の差の読み方はエンゲージメントが低い会社の特徴、集計の手順はサーベイのクロス集計で扱っています。
スコアの低い項目ではなく、回答を生んでいる構造から組織課題を立てる手順を支援事例とあわせて整理したのが、資料『現場が動き出す組織課題の見つけ方』です。
組織風土改革の効果は同じ設問の定点観測で確かめる
見直す構造が決まったら、同じ設問で測り続けます。風土の変化は施策の前後を比べて初めて確かめられるからです。
- 初回の結果を基準にする
- 1つの部署で構造を変える(例:挑戦した案件を評価で加点する)
- 同じ設問で測り直し、新規提案の件数も並べる
- 効いた施策を他部署へ広げる
測る間隔は社員が変化を経験するまでの期間で決める。評価制度を変えたなら、新しい基準で評価を1回受けた後です。パルスサーベイの頻度と設問数の決め方も参考になります。
避けることは3つ。
- 設問の文面や回答の段階を変える(前回と比べられない)
- 部署の点数を管理職の評価に使う(回答が実態から離れる)
- 回答者が特定できる人数で集計する(正直に答えなくなる)
測るだけでは風土は変わらない。リデザインワークのサーベイ活用支援では、結果を評価・権限・対話の場の見直しにつなげ、次の測定で効果を確かめるまで続けて支援しています。
結果を経営会議で報告し、評価や権限の見直しを議題に載せる準備の手順と報告会の型を整理したのが、資料『経営の期待を超えるサーベイ報告会のポイント』です。
なお、挑戦する風土を測る設問の設計は、リデザインワークのサーベイ活用支援でも無料でご相談を承っています。
挑戦する風土づくりは経験を聞く1問から始める
最初に手をつけるのは研修の企画ではなく、いまのサーベイに経験を聞く設問を1問足すことです。
心理的安全性と成長実感のどちらが低い部署かが分かれば、見直す構造が決まる。施策の選び方は従業員エンゲージメント向上の施策で扱っています。







