生成AI導入が進まない理由|稟議・情シスの審査・社内ルールなど「検討中」が続く5つの原因と対策
生成AIの活用が決まり、推進を任された。稟議を出すと「どれだけ効果が出るのか」と差し戻され、情報システム部門(以下、情シス)からはセキュリティの質問票が届く。半年たっても、試験導入が始まらない。
試験導入の前で進まない会社は、上場企業でも少なくありません。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が2025年9〜10月に東証上場企業などのIT部門長へ尋ねた「企業IT動向調査報告書2026」では、文章を扱う言語系生成AIの「導入済み」は33.9%。
「検討中」も19.6%あり、5社に1社は検討を始めたまま試験導入に入っていません。
この記事を読み終えると、自社の生成AI導入がどの承認で進まないかを特定し、承認する人に用意する材料が分かります。
5つの理由、承認の前に決める項目、確認表の順に説明します。確認表は、6つの欄を埋めれば、経営・情シス・法務が確かめたい点に1枚で答えられる。
導入の全体像は生成AI導入の進め方で整理しています。この記事は、試験導入を始める前の社内の承認に絞って扱う。
生成AI導入は反対ではなく判断の先送りで進まなくなる
試験導入の前で進まないと、経営に反対されているせいだと考えがちです。しかし情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2026」(2026年7月公表)で、AI導入・運用上の課題の上位は「専門人材が不足している」(50.1%)と「生成AIの効果やリスクに関する理解が不足している」(45.8%)でした。
挙がっているのは、判断に使う知識と、準備を担う人の不足です。経営が反対しているのではなく、誰が何を決めるかが定まっていないために、判断が先送りされています。
なお、試験導入の後で本番に進めない場合は生成AI導入が失敗する理由が、全社に配ったのに使われない場合は生成AIが定着しない理由が当てはまります。
生成AI導入が進まない5つの理由
判断を先送りさせている理由は5つ。会社として使ってよいと決める3つ(経営の方針と予算・情シスの審査・社内ルール)と、どの業務で誰が進めるかを決める2つ(対象業務・推進役)です。いずれも、承認する人が判断に使う材料を持っていないことから起きる。
理由1 経営が活用の方針と予算の上限を決めていない
1つ目は、何のために、どこまで使うかを経営が決めていないことです。総務省の「令和8年版 情報通信白書」では、生成AIの活用方針を「明確に定めていない」日本企業が20.2%。米国7.8%、ドイツ9.7%、中国2.3%を上回ります。
方針がないと、稟議は1件ずつの費用の申請になり、費用対効果を問われる。効果は試すまで測れないため、申請する側は数字を書けず、差し戻しが続きます。
理由2 情シスの審査に答える材料がない
2つ目は、情シスの審査です。情シスは社外のサービスを新しく使うたびに、入力内容が学習に使われないか、データをどこに保存するか、アカウントを社内で管理できるか、利用履歴を取れるかを確かめます。
JUASの調査でも、導入を検討した企業が挙げる課題の1位は「機密情報の流出」(70.1%)。承認して事故が起きれば情シスの責任になり、保留している間は事故も起きない。答えのない項目が1つでも残れば、審査は保留になります。
理由3 入力してよい情報が社内ルールで決まっていない
3つ目は、社内ルールです。入力してよい情報が決まっていないと、社員は業務で使えません。IPAの同じ調査では、「適切な利用を管理するためのルールや基準の作成が難しい」が39.7%でした。
ルールが完成しないのは、起こりうるリスクを最初からすべて書こうとするからです。法務・情シス・各部門の確認が一巡するたびに論点が増え、案が確定しない。
理由4 最初に使う業務が1つに絞られていない
4つ目は、対象業務です。「全社で使えるように」と始めると、扱う情報が全業務に広がり、情シスの審査も社内ルールも、社内のすべての情報を前提に確かめることになる。
最初の業務が決まらないことが、他の承認で確かめる項目まで増やしています。
理由5 推進役と準備に使う時間が決まっていない
5つ目は、推進役です。稟議の資料・情シスへの回答・ルールの案は、誰かが作らなければ進みません。IPAの調査でAI導入を主導する人を尋ねると、「IT部門の長」が46.0%で最も多く、最高AI責任者(CAIO)以外の専任者は9.8%でした。
主導しているのは、本業を持つ部門長や経営層が中心です。兼任では締切のある本業が優先され、準備は後回しになる。IT部門に任せると、業務で何に使うかを決める人がいません。
生成AI導入の承認前に決める5項目
5つの理由には、それぞれ承認する人がいます。その人が判断に使う材料を先に用意すれば、先送りの理由はなくなる。
| 理由 | 承認する人 | 承認の前に決めること |
|---|---|---|
| 1 方針と予算の上限がない | 経営 | 目的・試験の範囲と期間・費用の上限・続けるかを判断する日 |
| 2 情シスの審査に答えられない | 情シス | 入力内容の学習利用・データの保存先・アカウント管理・利用履歴 |
| 3 入力してよい情報が決まっていない | 法務・管理部門 | 情報の3区分(入力してよい・条件つきで入力・入力しない)と出力を確認する人 |
| 4 最初の業務が絞られていない | 対象業務の部門長 | 最初の1業務と、その業務で扱う情報 |
| 5 推進役と時間が決まっていない | 推進役の上長 | 推進役の指名・活動時間・報告先 |
方針と予算・審査・社内ルールは最初の1業務の範囲で決める
経営に求めるのは、効果の約束ではありません。目的と、試験の範囲・期間・費用の上限、続けるかを判断する日です。損失の最大額と判断の時期が決まっていれば、経営は効果の数字がなくても承認できます。
情シスの審査と社内ルールは、最初の1業務で扱う情報に絞って確かめる。社内規程の問い合わせ対応なら、扱うのは規程の本文と過去の回答で、個人情報は含まれません。範囲が狭いほど、審査は早く終わります。
利用環境は、すでに使っている環境の中で作れないかを先に確かめる。リデザインワークのAX支援でも、お客様が契約済みのMicrosoft 365の中でAIの仕組みを組みます。社内の審査を通った環境なら、新たに確かめる項目はAIの設定とアクセス権が中心になるためです。
社内ルールを最小限の4項目から作る手順は、生成AI導入ガイドラインの作り方で扱っています。
ルールの完成を待たずに試験導入を始めるために、推進責任者が先に押さえる点を整理したのが、資料『AI活用がガバナンスの不安で進まない企業への処方箋』です。
生成AI導入がどの承認で進まなくなっているかは、これまでの稟議と審査のやり取りから特定できます。
差し戻しの理由と情シスからの質問をお聞きして、最初の1業務と、承認の前に用意する材料まで一緒に決めます。
推進役を指名してから最初の1業務を選ぶ
先に決めるのは推進役です。週1日などの活動時間とあわせて指名し、上長が本業を減らさなければ、準備はまた後回しになる。向いている人の選び方はAI推進担当者の役割で説明しました。
最初の1業務は、推進役が業務の一覧から次の3つを満たすものを選びます。
- 毎月の件数が多い
- 手順が文書になっている
- 個人情報や取引先の機密情報を扱わない
3つ目の条件があれば、情シスの審査と社内ルールで確かめる項目が減る。業務の一覧の作り方は業務棚卸しとはにまとめています。
選んだ業務をAIに任せるとき、前後の工程に新しい手間を生まない切り分け方を整理したのが、資料『AIによる業務効率化が進まない理由 ~業務設計編~』です。
生成AI導入の承認を得るための確認表
5項目を、稟議書に添える確認表にまとめました。経営が決める項目は2つの欄に分けています。例を自社の内容に書き換えて使ってください。
【生成AI 試験導入の確認表】
1. 推進役 :(例)総務課長。週1日を充てる。報告先は管理本部長
2. 最初の業務 :(例)社内規程の問い合わせへの回答案づくり(月120件)
3. 扱う情報 :(例)規程の本文と過去の回答。個人情報は入力しない
4. 利用環境 :(例)契約済みのMicrosoft 365の中で使う。
入力内容は学習に使われず、利用履歴は管理者が確認できる
5. 範囲と上限 :(例)総務課の5名で3か月。費用の上限は○○万円
6. 判断日と基準:(例)○月○日の経営会議。回答案の作成時間が3割減れば対象を広げる
欄は決める順に並べました。推進役がいなければ業務を選ぶ人がおらず、業務が決まらなければ、情報と環境の確認範囲も決まらない。経営の承認は、1から4が埋まってから求めます。
生成AI導入は承認する人の問いに先に答えると始められる
生成AI導入が試験導入の前で進まないのは、経営に反対されているからではありません。経営・情シス・法務・部門長・推進役の上長が、それぞれ判断に使う材料を持っていないためです。
推進役を指名して最初の1業務を選べば、経営・情シス・法務の承認は、その業務の範囲で判断できます。差し戻しが続いたときは、次の資料を作る前に、止まっている承認が5つのどれかを確かめてください。







