省人化と省力化の違い|意味・見分け方、上司に「業務を減らせ」と言われたらAIで省力化する手順
部長から「うちの部署の業務を減らしてほしい」と言われたら、担当者が今日やることは3つです。
- 指示が人数を減らす話か、手間を減らす話かを、この記事の判定表に当てはめる
- 判定できなければ、上司に2つの質問を送って確かめる
- チームのメンバーに業務の書き出しを頼む前に、目的を説明する
3つとも、省人化と省力化の違いが分かっていれば迷わずに済みます。省人化は業務に必要な人数を減らすこと、省力化は1件あたりの手間と時間を減らすこと。違いは、人数が減るかどうかです。
この2つを取り違えたときに起きることは2つ。上司は人数を減らしたいのに省力化だけを進めると、作業は速くなっても誰も抜けられず、上司が求めた結果になりません。反対に、上司は残業を減らしたいだけなのに、メンバーが人を減らす話だと受け取ると、自分の仕事を書き出す作業に協力しなくなります。
この記事に載せたのは、2つの違いを比べる表、上司の言い方から省人化か省力化かを判定する表、上司への確認の文面、チームへの説明文、ChatGPTに頼める事務作業の頼み方の5つ。文面と頼み方はそのまま貼り付けて使えるので、今日中に上司への確認まで済ませられます。
業務の書き出し方そのものは、業務棚卸しのやり方で表の作り方から解説しています。
省人化と省力化の違いは人数が減るかどうか
上司の指示を判定するには、2つの言葉の意味が分かっていれば足ります。どちらも業務を減らす取り組みで、違うのは減らすもの。
省人化の意味は業務に必要な人数を減らすこと
省人化(しょうじんか)とは、業務の進め方を見直したり、機械やシステムに任せたりして、その業務に必要な人数を減らす取り組みです。
人事・経理・総務で何人が適正かの目安は、管理部門の適正人数で整理しています。
たとえば、5人で分担していた給与計算の確認を、チェックの自動化によって4人で回せるようにする。減った1人分は、退職者を補充しない、別の業務へ異動するといった方法で、実際に人数が変わります。
省力化の意味は1件あたりの手間と時間を減らすこと
省力化(しょうりょくか)とは、作業のやり方を変えたり道具を使ったりして、1件あたりの手間と時間を減らす取り組みです。人数は変わらず、増えるのは1人が同じ時間で処理できる件数。
社員からの問い合わせへの回答に1件15分かかっていたとします。AIに下書きを作らせて5分になれば、同じ担当者が3倍の件数に対応できる計算です。
| 比べる点 | 省人化 | 省力化 |
|---|---|---|
| 減らすもの | 業務に必要な人数 | 1件あたりの手間と時間 |
| 人数 | 減る | 変わらない |
| 人事・総務での例 | 退職者を補充せず5人の業務を4人で回す | 問い合わせの回答を1件15分から5分にする |
| 主な効果 | 人件費が下がる・人手不足でも業務が回る | 残業が減る・増えた件数をこなせる |
| 注意点 | メンバーが人員削減と受け取りやすい | 浮いた時間が分散し成果が見えにくい |
| メンバーの受け取り方 | 自分の仕事がなくなる不安 | 負担が軽くなる期待 |
省力化を積み上げても人数は自動的には減らない
表の注意点の行に、省力化は成果が見えにくいと書きました。原因は、浮いた時間の散らばり方。
5人のチームで、AIを使って1人あたり1日1時間ずつ作業が減ったとします。合計すると1日5時間。ところが1時間ずつ5人に分かれているため、抜けられる人は1人もいません。1日8時間の勤務なら、5時間は1人分にも届かない計算です。
AIで省人化まで進めるには、減った時間を1人の担当にまとめる作業が別に必要になります。問い合わせ対応を5人で少しずつ受けていたなら、AIで短くなった分を1人の担当に集め、残る4人の業務から問い合わせ対応を外す、といった担当替えです。
逆に、上司の目的が残業を減らすことなら、時間が分散していても問題ありません。各人の残業が1時間ずつ減れば、それで目的は達成。同じAIの使い方でも、減った時間を1人の担当にまとめるかどうかは、目的によって変わります。
上司の指示が省人化か省力化かを判定する表
時間をまとめる作業が要るかどうかは目的で決まるため、上司の目的がどちらなのかを先に知る必要があります。上司の言い方から、多くの場合は判定できます。
| 上司の言い方 | 指しているもの | 上司に確かめること |
|---|---|---|
| 「残業を減らしてほしい」 | 省力化 | 月の残業を何時間にするか |
| 「人を増やさずに、増える仕事をこなしてほしい」 | 省力化 | どの業務の件数がどれだけ増えるか |
| 「退職者が出ても補充しない」 | 省人化(退職による自然減) | いつまでに何人分を減らすか |
| 「来期は1人少ない人数で回してほしい」 | 省人化 | 減る1人が担当していた業務はどれか |
| 「派遣社員や外注の費用を減らしたい」 | 省人化(社外の人員) | 対象の業務と契約の更新時期 |
| 「閑散期に手が空く人を、ほかの業務に回したい」 | 少人化(後半で説明) | 繁忙期と閑散期の件数の差 |
| 「業務を減らして」「効率化して」「AIで何かできないか」 | 判定できない | 下の2つの質問で確かめる |
最後の行の言い方は、省人化にも省力化にも取れます。上司自身がまだ決めていないこともあるため、進め方を決める前に確かめます。
判定できない指示は2つの質問で上司に確かめる
確かめる内容は2つだけ。人数を減らすのかどうか、そして浮いた時間を何に使うのか。この2つの答えが出れば、判定表のどの行に当たるかが決まります。
○○部長
先日ご指示いただいた業務削減の件で、進め方を決める前に2点確認させてください。
1. 目標は「人数を減らすこと」と「今の人数のまま残業や処理時間を減らすこと」の
どちらでしょうか
2. 浮いた時間は、どの業務に回す想定でしょうか
(例:手が回っていない○○、来期に件数が増える○○)
ご回答をもとに、○月○日までに対象にする業務の候補を3つお持ちします。
最後の1行で、次に何をいつ持っていくかを書き添えています。返事の期限が見えると、上司は答えやすくなるからです。
返事が「まだ決めていない」だった場合は、省力化として始めてよいかを聞き直します。省力化で空けた時間は、あとで1人の担当にまとめれば省人化にも使えます。省力化から始めても、やり直しにはならない。
省人化と受け取ったチームは業務の書き出しに協力しない
上司の目的が分かったら、次はチームのメンバーへの説明。業務を減らすには、各メンバーが自分の担当業務と1件あたりの時間を書き出す作業が欠かせません。
ところが、説明なしに「業務を全部書き出してほしい」と頼むと、メンバーは省人化の準備だと受け取ります。自分の仕事を細かく書き出すことが、自分の席をなくす材料になると考えるからです。
この不安は、AIの導入でたびたび表に出ます。リデザインワークが人事の実務家や経営者と意見を交わした場でも、労務の業務にAIを入れるとき最初に障壁になるのは、担当者の「明日、仕事がなくなるかもしれない」という不安だ、という見方で一致しました。
アパレル業の人事の管理職からも、AI活用で最も難しいのは技術ではなく、現場へのメッセージの作り方だと聞いています。仕事を奪う話ではなく、担当できる範囲が広がる話として示せるかどうかで、協力の度合いが変わります。
チームへの説明文のひな形
説明にかける時間は、朝会や定例の冒頭の3分程度。次の文面の○○を、上司に確かめた内容に置き換えて使います。
今日から2週間で、皆さんの担当業務と1件あたりの時間を書き出してください。
目的は、1件あたりの手間を減らすことです。人を減らすための作業ではありません。
(退職者を補充しない方針の場合は次の2文に差し替え)
(今いるメンバーを減らす話ではありません。退職者が出ても補充なしで回るように準備します)
浮いた時間は、これまで手が回らなかった○○に使います。
書き出した内容から、AIに任せられる作業を一緒に選びましょう。
説明の範囲は、上司に確かめた事実まで。人員の削減がすでに決まっている場合は、この文面を使わず、伝える内容と時期を上司と人事部に任せます。担当者の判断で「減らさない」と約束すると、あとで事実と食い違うためです。
メンバーの不安が強いときの伝え方は、AIに仕事を奪われるという不安で、減らす業務の示し方まで含めて扱っています。
メンバーがAIの活用に協力しない背景には、役割を失う不安のほかにも理由があります。4つの思い込みとその解き方を整理したのが資料『AIによる業務効率化が進まない理由 ~人・組織編~』です。
AIで省力化できる人事・バックオフィスの作業と頼み方
メンバーの協力が得られたら、書き出した業務のうち、AIに頼める作業から手を付けます。人事・総務・経理などのバックオフィスでAIに向くのは、文章の下書きを作る作業と、決まった形に整える作業の2種類。
頼むときの前提は2つ。氏名・給与・評価といった個人情報を入れないこと、そして会社が使ってよいと決めたAIを使うことです。社内で使えるのがMicrosoft Copilotであれば、下の表と同じ文面で頼めます。
| 作業 | ChatGPTへの頼み方 | 人が確認すること |
|---|---|---|
| 社員からの問い合わせへの回答 | 以下は就業規則の第○条です。社員から「○○」と質問が来ました。条文の番号を添えて、200字以内で回答の下書きを作ってください | 条文と回答の結論が合っているか |
| 会議の議事録 | 以下のメモを、決まったこと・担当者・期限の3列の表にしてください | 担当者と期限の取り違え |
| 入社手続きの案内メール | 入社予定の方へ、提出書類の一覧と提出期限(○月○日)を伝えるメールを書いてください。書類は○○と○○です | 書類名と期限 |
| Excelでの集計 | A列が社員番号、D列が月の残業時間です。45時間を超えた行だけを抜き出すExcelの式を教えてください | 数件を手で照合して結果が合うか |
| 手順書の書き直し | 以下の手順書を、初めて担当する人向けに10項目以内の手順に書き直してください | 抜けた手順がないか |
表の右端の列を省かないこと。人が確認する箇所を先に決めておけば、AIの出力をどこまで信用してよいかで迷わずに済みます。
メール・議事録・Excelの関数など、事務作業ごとの指示文は事務職のChatGPT活用法に載せています。
どの業務から頼むかは、件数が多く、手順が毎回同じ作業から選ぶと、減った時間が数字で出ます。着手する業務の選び方と、増員せずに回す進め方の全体は、バックオフィスの業務効率化で解説しています。
業務一覧を貼り付けて省人化と省力化に仕分ける指示文
書き出した業務が10件を超えたら、1件ずつ考えるより、一覧ごとAIに仕分けさせるほうが早く終わります。以下は、表計算ソフトの一覧をそのまま貼り付けて使う指示文(プロンプト)。
あなたは業務改善の専門家です。以下は私のチームの業務一覧です。
列は「業務名・担当人数・月の件数・1件あたりの時間(分)」です。
[ここに業務の一覧を貼り付ける]
次の4点を表で出してください。
1. 各業務を「AIで1件あたりの時間を減らせる業務」「担当を1人にまとめられる業務」
「AIに向かない業務」の3つに分け、理由を1行ずつ
2. 月の件数×1件あたりの時間で、月の作業時間が大きい順に5件
3. その5件それぞれについて、手順が毎回同じか、例外が多いかの判定
4. 最初に手を付ける業務の候補を3件。件数が多く手順が毎回同じ業務を優先する
浮いた時間の使い道の案を、同じチームの別の業務から2つ書いてください。
出てきた仕分けは、あくまで候補。AIは貼り付けた数字をそのまま使うため、数字が古ければ順番も変わります。件数と時間が実態と合っているかを、担当のメンバーと確かめてから計画に入れます。
業務の一覧がまだない場合は、業務棚卸しをAIで進める方法で、口頭で話した内容をAIに整理させて一覧を作る手順を紹介しています。
仕分けた業務から、どれをAIに任せるかを決める2つの判断軸を、仕分けの例とあわせて整理したのが資料『人事AXに取り組む業務を整理するフレームワーク』です。
業務削減を任されたが、どの業務から手を付けるか決まらない
リデザインワークのAX支援(AIを使った業務の見直しの支援)では、業務の仕分けと最初に手を付ける業務の選び方について、無料でご相談を承っています。チームの業務一覧と人数をお聞きして、AIに任せる作業と上司への報告の材料まで一緒に整理します。
省人化・省力化と効率化・自動化・少人化の違い
上司やほかの部署との会話では、省人化と省力化のほかに、効率化・自動化・少人化という言葉もよく出てきます。判定表に出てきた少人化もその1つ。5つの言葉の関係は次のとおりです。
| 言葉 | 意味 | 省人化・省力化との関係 |
|---|---|---|
| 効率化 | かけた時間や費用に対する成果を増やすこと全般 | 最も広い言葉で、省人化も省力化も効率化の一種 |
| 省力化 | 1件あたりの手間と時間を減らすこと | 人数は変わらない |
| 省人化 | 業務に必要な人数を減らすこと | 省力化で空いた時間をまとめると実現しやすい |
| 少人化(しょうにんか) | 業務量の増減に合わせ、その時期に必要な最少の人数で回すこと | 人数を固定せず時期で変える |
| 自動化 | 人が手で行っていた作業を、システムや機械が行うようにすること | 手段の名前で、省力化にも省人化にも使う |
少人化は、製造業の改善手法であるトヨタ生産方式で使われてきた言葉です。仕事の量が7割に減る時期は7割の人数で回す、という考え方。人事・総務なら、年末調整や入社手続きが集中する時期とそうでない時期とで、担当する人数を変えることに当たります。
自動化は、目的ではなく手段の名前です。「自動化を進める」とだけ聞いても、目的が省人化か省力化かは分かりません。上司の指示に自動化やAIという言葉だけが出てきたら、判定表の最後の行と同じく、2つの質問で目的を確かめます。
なお、国の中小企業省力化投資補助金も名前に省力化を使っています。人手不足に悩む中小企業の、設備やシステムへの投資を支援する制度。対象になる製品や要件は公式サイトで公表されています。
省人化か省力化かを先に確かめると業務の書き出しが進む
ここまでの手順は、すべて上司への確認から始まります。
省人化と省力化の違いは、人数が減るかどうか。上司の指示がどちらかによって、チームへの説明も、AIで空けた時間の扱いも変わります。だからこそ、業務の書き出しやAIの試行より先に、上司へ2つの質問を送ります。
目的が決まっていれば、メンバーは自分の席がなくなる心配をせずに業務を書き出せます。浮いた時間を何に使うかも、書き出しを始める時点で全員が分かっている。指示を受けた日に確認の文面を送っておけば、その後2週間の業務の書き出しで手戻りが出ません。







