人事戦略の立て方|経営計画から逆算する5ステップとギャップの数え方を実務手順で解説
人事戦略を作ることになったものの、他社の事例を集めるところで2か月が過ぎている。フレームワークは調べたが、自社のどの数字を当てはめればよいのかが分からない。人事制度の改定を支援していると、この状態からご相談をいただきます。
人事戦略の立て方は、経営計画からの逆算という一本の筋で決まります。逆算の順番さえ守れば、使うフレームワークは多くありません。
一方で、作った戦略が翌年には参照されなくなる会社も少なくありません。原因は設計の巧拙ではなく、運用の設計が抜けていることにあります。
この記事では、経営計画から人事戦略を立てる5つのステップを、各段階で使うデータと出力物まで含めて整理します。あわせて、立てた戦略が動かなくなる原因と、その手当てを扱います。
記事の最後には、現状の人材データからギャップを定量化するプロンプトを掲載しました。等級分布と年齢構成を貼り付ければ、必要量との差と、埋め方の選択肢まで出るのでお使いください。
人事戦略の立て方は経営計画からの逆算で決まる
人事戦略は、経営計画に書かれた事業の姿を、人の数と質に翻訳する作業です。この翻訳を飛ばして施策から考えると、打ち手の一覧はできても優先順位が決まりません。
逆算の順番は次の5段階。順番を入れ替えると、後の段階で必ず戻ることになります。
| 段階 | やること | 出力物 |
|---|---|---|
| 1 | 経営計画から必要な人材の質と量を出す | 3年後の必要人員表 |
| 2 | 現状の人材を可視化する | 等級分布・年齢構成・スキル一覧 |
| 3 | ギャップを数字で押さえる | 過不足の一覧 |
| 4 | 打ち手を6領域に割り付ける | 優先順位つきの施策表 |
| 5 | 指標と振り返りの間隔を決める | 指標定義と運用カレンダー |
人事戦略の定義や、人材戦略との違いについては人事戦略とはで整理しています。
ステップ1 経営計画から必要な人材の質と量を出す
最初にやるのは、経営計画の各項目を人の単位に置き換えることです。売上目標や新規事業の立ち上げ時期は、そのままでは人事の打ち手になりません。
置き換えの手順は次のとおり。
- 経営計画から、3年後の事業構成と規模を書き出す
- 事業ごとに、その規模を回すのに必要な職種と人数を出す
- 各職種に必要な経験年数と役割の水準を書き添える
- 立ち上げ時期から逆算して、いつまでに揃っている必要があるかを入れる
3番の水準を書き飛ばすと、後のギャップ分析が人数の話だけになります。人数は足りているが担える人がいない、という状態は実務ではよく起きます。
なお、経営計画に事業ごとの規模が書かれていない場合、この段階は進みません。その場合は前提を経営に確認するところから始めます。
ステップ2 現状の人材を可視化する
次に、いまの人材の状態を数字にします。可視化に最低限必要なデータは4つ。
| データ | 分かること | 入手先 |
|---|---|---|
| 等級分布 | 階層のバランスと滞留 | 人事システム |
| 年齢構成 | 数年後に抜ける層 | 人事システム |
| 職種別の人数 | 事業への配分 | 配置表 |
| 直近3年の退職者数 | 目減りの前提 | 人事システム |
この4つは、専用のツールを入れなくても表計算ソフトで作れます。スキルの一覧まで整備しようとすると数か月かかるため、まず4つで議論を始め、必要が生じてから広げます。
年齢構成は、事業単位ではなく職種単位で見ます。全社では均等に見えても、特定の職種だけ50代に偏っている、という状態が隠れることがあるためです。
ステップ3 ギャップを数字で押さえる
ステップ1の必要量と、ステップ2の現状を並べます。ここで出る差こそ、人事戦略が解くべき課題そのもの。
差は3種類に分けて扱うと、打ち手が決めやすくなります。
| 種類 | 状態 | 主な打ち手 |
|---|---|---|
| 量の不足 | 人数が足りない | 採用・配置転換 |
| 質の不足 | 人数はいるが担えない | 育成・外部からの採用 |
| 偏り | 特定の職種や年代に集中 | 配置・採用の年代設計 |
偏りは、量にも質にも表れないため見落とされます。全社の人数が足りていても、特定の階層が薄ければ数年後に管理職の候補がいなくなります。等級分布を階層別に並べると見つかります。
ステップ4 打ち手を6領域に割り付けて優先順位をつける
ギャップに対する打ち手を、採用・配置・育成・評価・報酬・働き方の6領域に割り付けます。この割り付けをせずに施策を並べると、同じ課題に複数の打ち手が重複します。
優先順位を決める軸は2つ。
- 効果が出るまでの期間 配置と報酬は数か月、採用は半年から1年、育成は1年以上
- 他の打ち手の前提になるか 等級の見直しは、評価と報酬の前提になる
期間の長いものから着手します。育成は効果が出るまで最も時間がかかるため、優先度が低く見えても先に始めないと3年後に間に合いません。AIを使った育成の進め方は人材開発におけるAI活用で扱っています。
ステップ5 指標と振り返りの間隔を決める
最後に、進んでいるかどうかを測る指標を決めます。絞る数は3つから5つ。
| 領域 | 指標の例 | 測る間隔 |
|---|---|---|
| 採用 | 職種別の充足率 | 四半期 |
| 配置 | 注力事業への配置人数 | 半期 |
| 育成 | 対象階層の受講完了率 | 半期 |
| 評価 | 評価分布の偏り | 年次 |
指標が10を超えると、どれも見られなくなります。測るのは、打ち手が動いているかを確認できる最小限で足ります。
立てた人事戦略が動かなくなる理由
人事の領域では、設計が2割で運用が8割です。制度や方針を作ることより、決めたとおりに運用しきることのほうが難しく、成果を分けます。人事制度の設計支援に入っていて、繰り返し確認してきた点。
人事戦略も同じ構造にあります。策定に半年かけた方針が翌年参照されなくなるのは、設計が悪かったからではなく、運用に載せる仕掛けを作っていないためです。
運用に載せるために、策定の段階で次の3つを決めておきます。
- 誰が振り返るか 人事部門なのか、経営会議の議題として置くのか
- いつ振り返るか 半期の経営会議に固定するなど、既存の会議体に組み込む
- 何が起きたら見直すか 経営計画の修正・大幅な退職・事業の追加
3番を決めておくと、前提が変わったときに戦略を放置せずに済みます。経営計画が期中で修正されたのに人事戦略が元のまま、という状態が最も起きやすい失敗です。
現状の人材データからギャップを出すプロンプト
手元の等級分布と年齢構成から、ステップ3のギャップ分析を進めるための指示文。
あなたは人事制度設計のコンサルタントです。
以下の現状データと3年後の必要人員をもとに、ギャップを分析してください。
【出力してほしいもの】
1. 量の不足・質の不足・偏りの3分類でのギャップ一覧
2. 各ギャップについて、放置した場合に何年後に何が起きるか
3. 埋め方の選択肢を、採用・配置・育成の3通りで比較した表
(それぞれの所要期間・費用感・リスクを併記)
4. 最も早く着手すべきギャップと、その理由
5. このデータからは判断できない事項
【現状データ】
(等級分布・年齢構成・職種別人数・直近3年の退職者数を貼り付け)
【3年後の必要人員】
(職種別・階層別の必要人数を貼り付け)
3番の比較表がそのまま経営への説明資料になります。採用で埋めるか育成で埋めるかは費用と期間のトレードオフになるため、両方を並べて経営に判断してもらう形が進めやすくなります。
人事戦略を運用に載せるところまで
人事戦略は、立てた後に等級・評価・報酬の設計へつながります。方針が制度の形にならないと、現場の行動は変わりません。
その接続の手順は人事評価制度の作り方で解説しています。
なお、人事戦略の策定と制度への落とし込みは、リデザインワークの人事制度設計支援でも無料でご相談を承っています。






