人材開発のAI活用|スキル可視化・研修設計・育成計画をAIで作る手順と、人が残す判断
来期の人材開発計画を出してほしいと言われ、去年の研修一覧を開く。日付と定員を書き換え、新しく1つだけ講座を足して提出する。
スキルマップは3年前に作ったまま、部署の統廃合も職種の追加も反映されていない。誰がどのスキルを持っているかは、結局のところ各部門長の記憶の中にあります。
この状態は珍しくない。情報処理推進機構(IPA)のDX動向2025に、日米独を比べた数字が出ています。
日本は「必要なスキルを把握しており、現在の人材のスキルの過不足についても把握している」の回答割合が、米国とドイツに比べて非常に低いと報告されています。
さらに「必要なスキルを把握できていない」の回答割合は、米国とドイツに比べて極めて高い結果でした。スキルを把握できていないので、育成計画は前年の踏襲になります。
ここで期待されるのがAI。ただし、人材開発の工程すべてをAIが引き取れるわけではありません。任せられるところと残るところの線を引かないまま使うと、もっともらしいスキルマップが1枚できて終わります。
この記事では、人材開発の実務を4つの工程に分け、それぞれAIで何がどこまで作れるのかを示します。読み終えると、自社の人材開発のどの工程から着手すべきかを決められます。
記事の最後には、職種別のスキルマップの下書きをAIに作らせるプロンプトを載せました。事業戦略と職種名を貼り付ければ、5段階の行動基準まで含んだ表がその場で出ます。
人材開発でAIに任せられるのは作る作業で決める作業は残る
はじめに線を引く。AIが引き取れるのは、たたき台を作る作業と、大量の情報を分類する作業です。何を正とするかを決める作業は人に残ります。
スキルマップの項目案を100個出すのはAIが速い。しかし、そのうち自社の評価制度に載せる12個を選ぶのは人の判断。選んだ結果に説明責任が伴うためです。
したがって、AIを入れて短くなるのは作成の時間であって、合意形成の時間ではありません。この点を最初に押さえておくと、期待値の置き方を間違えずに済みます。
人材開発の実務は4つの工程に分かれる
では、どの工程で作る作業が多いのか。人材開発の実務は、次の4つに分けられます。
| 工程 | 中身 | AIで作れる範囲 |
|---|---|---|
| ①必要スキルの定義 | 事業戦略から必要なスキルと水準を決める | 項目案と行動基準の下書きまで |
| ②現状スキルの把握 | 誰がどの水準にあるかを集める | 集めた後の集計と分類のみ |
| ③育成施策の設計 | 研修・配置・実務経験を組み合わせる | 施策案とカリキュラムの下書き |
| ④効果の測定 | 育成の結果を数字で確かめる | 指標の候補出しと集計 |
表を見ると、AIが効くのは①と③に集中しています。どちらも書き起こす作業の割合が大きいためです。
一方、②は情報を集める工程なので、AIを入れても集まる量は変わりません。④は測る仕組みの有無で決まります。AIを入れる順番は、①と③から始めるのが素直。
以降で工程ごとに、実際の手順を見ていきます。
工程① スキルマップの下書きはAIで作れる
①の必要スキルの定義は、白紙から始めると重い工程です。職種ごとにスキル項目を洗い出し、レベル1から5までの行動基準を文章で書く。1職種で半日、10職種なら5日かかります。
ここはAIの得意な作業。次の指示文をそのまま使えます。
あなたは人材開発を担当する人事のコンサルタントです。
以下の職種について、スキルマップの下書きを作成してください。
【前提】
- 会社の事業:○○(例:法人向けの設備工事。従業員400名)
- 3年後の事業方針:○○(例:保守サービスの比率を3割まで引き上げる)
- 対象職種:○○(例:施工管理)
- 既存の等級:○○(例:一般職1〜3級、管理職1〜2級)
【出力】
1. スキル軸を3つに分ける(専門スキル・対人スキル・マネジメントスキル)
2. 軸ごとにスキル項目を4つまで。
項目名は名詞で統一する
3. 各項目にレベル1・レベル3・レベル5の行動基準を書く
基準は「〜できる」で終える行動の記述にし、意識や姿勢の表現は使わない
4. 3年後の事業方針から見て、いま最も不足しそうな項目を3つ挙げ、理由を1行で書く
【条件】
- 一般論のスキル名ではなく、この事業で実際に使う言葉にする
- レベル間の差が、誰が読んでも判別できる具体さで書く
出てくるのは下書きです。そのまま配らず、現場の管理職2〜3名に見せて、言葉を自社の言い方に直してください。ここで直す作業を省くと、現場は自分の仕事の話だと受け取りません。
なお、行動基準の書き方そのものに迷う場合は、コンピテンシー評価の設計で粒度の決め方を整理しています。
工程② 現状スキルの把握はAIでは埋まらない
①の表ができると、次は誰がどの水準にあるかを埋める工程に進みます。ここでAIに期待すると空振りします。
手元にデータが無いものは、AIに聞いても出てこないためです。各人のスキル水準は、社内のどのシステムにも入っていないことがほとんどです。
したがって②は、集める設計をする工程になります。集め方は3つ。
- 本人の自己申告。全員から集まるが、水準の判断がばらつく
- 上長の評価。判断はそろうが、管理職の工数がかかる
- 実績データからの推定。客観的だが、対象にできる項目が限られる
現実的には1と2を組み合わせ、差が出た人だけを面談で確かめる形になります。AIが効くのは、集まった後です。自由記述の申告を項目ごとに分類したり、自己申告と上長評価の差が大きい人を抽出したりする作業は任せられます。
この工程を飛ばして③に進むと、施策の対象者を決められません。全社員向けの研修を並べるだけの計画になるのは、②が埋まっていないからです。
工程③ 研修設計はAIで型を出して人が題材を差し替える
②で対象者が決まれば、次は③の育成施策の設計。ここもAIで下書きが作れます。カリキュラムの構成、時間配分、演習の順序は、一般的な型があるためです。
ただし、出てきた型をそのまま実施すると効果が残りません。演習の題材が汎用のままだからです。受講者が翌日に向き合う業務と離れた題材で練習しても、自分の業務への当てはめは自力で行うことになります。
したがって、AIには構成を出させ、題材は自社の実際の業務に差し替えます。研修の効果を決めるのは、この差し替え。
研修の効果をどう測るかについては、生成AI研修の効果はなぜ消えるのかで4段階の測り方を整理しています。
なお、人事の業務のうちどこからAIに任せるかを判断する軸そのものが決まっていない場合は、業務の仕分け方から整理した資料が使えます。
工程④ 効果測定の指標はAIに候補を出させて絞る
④の効果測定は、指標を決めるところで止まりがちです。受講率と満足度以外に何を追えばよいかが分からないためです。
AIには候補を広く出させます。そのうえで、自社で集められるものだけに絞ります。集められない指標を計画書に書くと、翌年に空欄のまま残ります。
人材開発で追える指標は、おおむね次の3層。
- 実施の層 受講率・修了率。集めやすいが育成の成果とは言えない
- 習得の層 スキルマップの水準が上がった人数。①と②が動いていれば集まる
- 業務の層 対象業務の所要時間や品質の変化。部門の協力が要る
業務の層まで測っている会社はほとんどありません。しかし経営に説明できるのはこの層だけ。最初から全部を測ろうとせず、対象職種を1つ選んで業務の層を測るところから始めてください。
人材開発でAIに任せてはいけない3つの判断
ここまでで、下書きと集計はAIに寄せられることが分かりました。逆に、任せてはいけない判断が3つあります。
1つ目は、どのスキルを評価制度に載せるかの判断。スキルマップは、評価や昇格と接続した時点で社員の処遇に影響します。AIが出した項目をそのまま制度に載せると、その根拠を人事が説明できません。
2つ目は、誰を選抜するかの判断です。データから候補を出すところまでは任せられますが、最終的に選ぶのは人です。選ばれなかった人への説明も、選んだ側が持ちます。
3つ目は、育成をやめる判断。効果が出ていない施策を止めるのは、AIには決められません。実施してきた経緯と社内の期待を踏まえた判断だからです。
この3つに共通するのは、説明責任が発生する場面だという点。説明責任のある判断は人が持ち、その手前の材料づくりをAIに寄せる。この線の引き方が、人材開発でAIを使うときの基本になります。
育成を全社への展開と、業務を変えきる実行とに分けて設計する方法は、資料「AI研修だけではAI人材が育たない理由」に整理しています。
なお、人材開発へのAI活用は、リデザインワークのAX支援でも無料でご相談を承っています。
人材開発のAI活用は事業戦略との接続で決まる
最後に、工程①に戻ります。スキルマップも育成計画も、事業戦略から逆算して作るのが理想だとされています。ここは誰も反対しません。
ただし、リデザインワークの人事制度設計支援でよく見るのは、事業戦略と接続した目標設定を全社に推進する立場である人事部門こそが、それをできていないという状況です。
理由は能力ではありません。事業戦略が文章として存在していない、あるいは存在していても3年後の職種構成まで書かれていないためです。逆算する元がない状態で、逆算しろと言われています。
だからこそ、AIの使い道は「戦略から自動でスキルを導く」ことではありません。手元にある事業計画と部門の言葉から、抜けている前提を洗い出させる使い方のほうが実務に効きます。
工程①のプロンプトで、3年後の事業方針の欄を埋めようとして手が止まるなら、それが人材開発の最初の課題です。研修の一覧を作り直す前に、その1行を経営と決めてください。
人事業務のどこまでをAIに任せられるかの全体像は、人事のAI活用の範囲で整理しています。






