属人化の解消方法|担当者しか分からない業務を減らす手順と、標準化しない業務の見分け方
「担当者が休むと、その業務が止まる」。属人化の相談は、たいていこの一文から始まります。
対処としてマニュアルの作成が挙がり、実際に作られます。それでも止まる。手順は書けても、手順の途中にある判断が書けていないためです。
この記事では、判断を言葉にする手順と、あえて標準化しない業務の線引きを整理します。読み終えると、属人化への対処を企画する際に、何から着手すべきかが分かります。
属人化とは手順ではなく判断が1人に閉じている状態
言葉の意味を絞ります。属人化とは、その業務を担当者以外が実行できない状態のこと。ここで問題になるのは作業そのものではなく、作業の途中で行われる判断です。
2つを分けて考えます。
| 手順 | 判断 | |
|---|---|---|
| 中身 | 何をどの順で行うか | 条件によってどちらを選ぶか |
| 文書化 | しやすい | されないまま残る |
| 引き継ぎ | 数日で伝わる | 数か月かかる、または伝わらない |
| 属人化の原因 | になりにくい | これが本体 |
マニュアルを作っても解消しないのは、手順だけが書かれるためです。「申請を受け取り、内容を確認し、承認する」と書いても、何をもって確認とするかが書かれていない。
判断が書けない3つの理由
判断が文書に落ちない原因は、担当者の協力姿勢ではない。3つの構造があります。
1つ目は、本人が判断だと認識していないこと。習熟した業務では、条件の見極めが意識に上がらないまま処理されます。「なぜその扱いにしたのか」と聞かれて初めて、言葉にする作業が始まります。
2つ目は、例外のほうが多いこと。手順どおりに進む案件は文書にできますが、実務では条件が少しずつ違います。例外を全部書くと膨大になり、書く側が途中でやめます。
3つ目は、書く時間が業務量に入っていないこと。目の前の処理を止めて文書を書くと、その分だけ滞留します。締切のある仕事が優先され、文書化は後回しになります。
判断を言葉にする3つの問い
3つの理由のうち、1つ目に効くのが問いの立て方。担当者に「マニュアルを書いてください」と依頼しても進みません。具体的な問いに答えてもらう形にします。
- 直近1か月で、手順どおりに進まなかった案件はどれか
- その案件で、あなたは何を見て、どちらを選んだか
- その選び方を、入社2年目の人に伝えるとしたら何と言うか
2番が判断の中身です。「金額が発注書と合わなかったので差し戻した」ではなく、「差額が1万円未満で、相手先が継続取引なら、こちらで修正して処理する」まで引き出します。
3番は表現の粒度をそろえるための問いです。相手を具体的に置くと、省略していた前提が言葉になります。
この形なら、1業務あたり30分で3件から5件の判断が出てきます。全部を一度に書き出そうとするより早い。
標準化してはいけない業務がある
すべての属人化を解消するのが正しいとは限らない。標準化すると価値が下がる業務があります。
| 業務の性質 | 標準化の可否 | 理由 |
|---|---|---|
| 処理の条件が決まっている | する | 誰がやっても同じ結果になるべき |
| 例外の頻度が高い | 判断だけ文書化する | 手順を固めると例外に対応できない |
| 相手との関係が成果を決める | しない | 手順に落とすと関係が薄くなる |
| 専門資格や経験が前提 | しない | 手順を渡しても実行できない |
3行目を無理に標準化する会社があります。顧客対応や社内の調整は、担当者と相手の関係の上に成り立っています。手順に落として担当を入れ替えると、成果が落ちる。この場合に必要なのは標準化ではなく、複数名が関係を持つ体制です。
4行目も同じです。手順書があっても、実行には資格や経験が要る。ここで行うべきは育成であって、文書化ではありません。
判断を文書にした後は更新できる形にする
書き出した判断は、そのままにすると1年で古くなる。更新の手順まで含めて設計します。
要点は、判断のルールと、それを実行する仕組みを分けて持つことです。ルールを一覧表にしておけば、条件が変わったときに表の1行を直すだけで済みます。仕組みの中にルールを埋め込むと、変更のたびに作り直しになります。
リデザインワークのAX支援では、判定の仕組みとルールの一覧を分けて納める形を採っています。詳しくはベンダーロックインを避けるAI導入でまとめました。
AIに任せる場合も、前提は同じです。条件が言葉になっていれば任せられ、なっていなければ人が見ることになる。つまり属人化の解消は、自動化の前提条件でもあります。工程に分ける手順は業務棚卸しのやり方で扱っています。
評価が属人化している場合は制度の問題
業務ではなく、評価が属人化していることがある。この場合、文書化では解決しません。
リデザインワークの人事制度設計支援で、ある運輸業の人事担当者から次のように聞いています。人事制度が20年間変わっていない。現場は業績を重視するあまり、コミュニケーション能力や個人的な感情で評価しがちだという話でした。
20代から30代が具体的な評価基準を求める一方、40代のマネジメント層が過去のやり方から抜け出せていない。世代で求めるものが分かれています。
判断の基準が個人の裁量に委ねられている点は業務の属人化と同じですが、制度そのものが基準を示していないため、評価者に書き出してもらっても揃いません。この場合に直すのは制度の側です。評価基準の作り方は人事考課のやり方で扱っています。
着手する順番
- 止まると影響が大きい業務を3つ挙げる 全部を一度に扱わない
- 3つの問いで判断を引き出す 1業務30分。手順書の作成より先
- 標準化の可否を4分類で判定する しない業務を先に外す
- ルールを一覧表にする 仕組みとは分けて持つ
- 更新の担当と頻度を決める 決めないと1年で古くなる
1番を絞ることが要点です。属人化の解消を全社の取り組みにすると、対象が多すぎて進みません。
業務を工程に分けて、任せる範囲を決めるところまでを整理したのが、資料『AIによる業務効率化が進まない理由 〜業務設計編〜』です。
属人化が解消しないのは、マニュアルの完成度が低いからではありません。手順は書けても、途中の判断が書かれていない。判断は本人にも意識されていないため、具体的な問いで引き出す必要があります。
すべてを標準化しようとしないことも要点です。相手との関係が成果を決める業務は、手順に落とすと価値が下がります。
まず、止まると影響が大きい業務を3つ挙げ、直近1か月で手順どおりに進まなかった案件を聞くところからです。






