管理職になりたくない理由とは|制度で変えられる部分と変えられない部分の切り分け方
昇格の打診を断る社員が増えた、という相談が続いています。「調査でも7割が管理職になりたくないと答えている」と言われますが、その数字を持ってきても打ち手にはなりません。必要なのは、自社の社員が断る理由のうち、制度で変えられるものがどれかを特定することです。
この記事では、なりたくない理由を3つに分け、制度で動かせる部分と動かせない部分を切り分けます。読み終えると、昇格辞退への対応を検討するときに、処遇改善・負荷軽減・キャリア提示のどれから着手すべきかが判断できます。
管理職になりたくない理由は3種類に分かれる
各社の調査で挙がる理由は、突き詰めると3つに整理できる。この分類が重要なのは、打ち手がまったく違うためです。
| 分類 | 代表的な回答 | 制度で変えられるか |
|---|---|---|
| 処遇 | 責任が重い割に給与が上がらない | 変えられる |
| 負荷 | 残業が増える・板挟みになる | 変えられる |
| 見通し | 管理職に向いていない・やりたくない | 部分的にしか変えられない |
3つ目が混ざったまま議論すると、「意識の問題だ」という結論になって止まります。先に1つ目と2つ目を潰してから、3つ目を見る順序が要ります。
処遇は残業代の逆転から確認する
処遇の問題で最も多いのが、管理職になると手取りが減る、あるいはほとんど変わらないというもの。管理監督者となって残業代が付かなくなる一方、役職手当がそれを埋めていない場合に起こります。
産業能率大学の第7回 上場企業の課長に関する実態調査(2023年7月実施・従業員300人以上の上場企業の課長809人)では、課長の給与が残業代を加算した非管理職より高いと答えた割合は37.6%でした。裏を返すと、6割強はそう答えていません。
この調査は課長本人に聞いたものです。昇格前の社員から見れば、同じ景色がさらにはっきり見えます。目の前の上司の手取りが自分と変わらないなら、断る判断は合理的です。
確認する手順は3つです。
- 課長の年収中央値と、その一歩手前の等級の年収中央値を並べる
- 後者に残業代を加えた実額で比べる
- 逆転または僅差になっている等級の組み合わせを特定する
逆転が起きている場合、処遇の改定なしに他の打ち手を打っても効きません。
負荷は板挟みの構造から確認する
2つ目が負荷。ここは金額の問題ではなく、業務の構造から来ています。
管理職になると、自分の数字とチームの数字の両方に責任を負う。加えて、労働時間の上限規制で使える時間は減っています。この構造は中間管理職の負担が増える構造とプレイングマネージャーの限界で詳しく説明しています。
負荷を下げる打ち手のうち、最も早く効くのは権限委譲です。制度改定を伴わずに、確認の往復を減らせます。詳しくは権限委譲が進まない理由にまとめました。
負荷の側で見落とされやすいのが、目の前の管理職が疲弊して見えること自体が最大の抑止になっている点です。処遇を上げても、上司が毎日遅くまで残っている姿を見ていれば、断る判断は変わりません。
見通しは制度で全部は解けない
3つ目が見通し。管理職に向いていない、専門性を深めたい、という回答がここに入ります。
見通しの部分は、制度では変えられません。変えられるのは、管理職にならない場合のキャリアを用意できるかどうかです。
リデザインワークの人事制度設計支援で、ある不動産開発企業の人事部門から次のように聞いています。一般社員向けの意識調査で、管理職一歩手前の層でも4割が将来のキャリアに悩みを抱えているという結果でした。
業務量は適正と感じている一方、キャリアパスが不明瞭で、他社で通用するかに不安がある。年齢や等級が上がっても経験領域が広がっていない、という分析も出ています。
業務量は適正なのに不安が高い。このねじれは、負荷の問題ではなくキャリアの見通しの問題であることを示しています。処遇と負荷だけを直しても届きません。
専門職のコースが機能しないまま等級だけが上がると、役割と処遇が噛み合わない社員が生まれます。この状態への対処は働かないおじさんへの対策にまとめました。
管理職以外のキャリアを用意する
見通しの問題に対する打ち手は、専門職のコースを作ること。ただし、作り方を誤ると機能しません。
よくある失敗は、専門職コースを作ったが、等級の上限が管理職より低いというものです。これでは、管理職を断った人の処遇が下がることになり、選ばれません。
機能させる条件は3つ。
- 等級と報酬の上限を、管理職コースと同じ高さまで用意する
- 専門職として認定する基準を、成果ではなく発揮する専門性で定義する
- 実際に認定された人を出す
3番が最も重要です。制度を作っても該当者がゼロの年が続くと、社員は形だけの制度だと判断します。初年度に何人を認定するかを先に決めておくのが実務的です。
3つを切り分ける調査の作り方
自社の社員がどの理由で断っているかは、推測では分からない。昇格の打診を断った社員への聞き取りが最も確度は高いものの、本音が出にくい面もあります。
代替として、一歩手前の等級全体に聞く方法があります。設問は次の3つで足りる。
- 管理職になった場合、手取りは今より増えると思うか(処遇)
- 現在の管理職の働き方を、自分もできると思うか(負荷)
- 管理職以外で、この会社で伸ばしたいキャリアがあるか(見通し)
3問だけなら回答率も上がります。1番と2番で否定が多ければ制度と業務の問題、3番で肯定が多ければキャリアコースの問題と切り分けられます。
昇格基準と等級設計、専門職コースの作り方までを整理したのが、資料『AI時代の人事評価制度改定』です。
管理職になりたくないという回答は、意識の変化としてまとめられがちです。実際には、処遇の逆転・板挟みの構造・キャリアの見通しという3つが混ざっています。このうち2つは制度で動かせます。
まず、課長とその一歩手前の等級の年収を、残業代込みの実額で並べるところからです。逆転しているなら、そこが最初に直す場所になります。






