プレイングマネージャーの限界とは|役割定義・評価・権限委譲の3つが重なると個人では抜け出せない
「今期はマネジメントに時間を割きます」。期初にそう宣言した課長が、3か月後には自分の案件で埋まっている。よくある光景です。本人の意識が低いわけでも、時間管理が下手なわけでもありません。
兼務そのものは、もはや例外ではありません。産業能率大学の第6回 上場企業の課長に関する実態調査は、従業員100人以上の上場企業で部下を持つ課長828人に、プレイヤー業務が何割を占めるかを聞いたものです(2021年9月実施)。
プレイヤーとしての役割がまったくない課長は0.5%。残る99.5%が何らかの形で兼務しています。プレイヤー業務が占める割合の加重平均は50.1%。課長職の時間の半分はプレイヤーの時間です。
問題は、その状態が成立しているかどうかです。同じ調査で、約半数の課長が「プレイヤーとしての活動がマネジメント業務に支障がある」と回答しています。兼務が普通になった一方で、その半数は回っていない。ここが「限界」と呼ばれている状態の実体です。
この記事では、その限界がどこから生まれるのかを3つの構造に分けて説明します。読み終えると、管理職の負荷を下げるために会社側で何から手をつけるべきかを、研修の追加以外の選択肢から選べるようになります。記事の最後には、自社のどの構造が効いているかを確かめる10項目のチェックリストも載せました。
プレイングマネージャーとは兼務そのものではなく成果責任の二重化
言葉の意味を先にそろえます。プレイングマネージャーとは、プレイヤーとして自分の数字を持ちながら、マネージャーとしてチームの数字も持つ状態のこと。
ここで見落とされやすいのは、負担の正体が作業量ではなく成果責任の二重化にあることです。自分の案件とチームの案件、どちらの達成にも責任を負う。両方が同じ期末に評価される。片方を落とせば、もう片方で埋め合わせる必要が出てきます。
作業量だけの問題なら、業務を減らせば解決します。ところが業務を減らしても、責任が二重のままなら判断の負荷は残る。どちらを優先するかを毎日決め続けることになるからです。
プレイングマネージャーが増えた背景は人員構成と管理職の定義の両方
兼務が一般化した理由は、人を減らしたからだけではありません。背景は2つあります。
1つ目は、管理職一人あたりの守備範囲が広がったこと。組織のフラット化で階層が減り、課長が直接見る部下の数が増えました。
同じ調査の第7回(2023年7月実施・809人)は、5年前と比べた職場の変化を聞いています。「業務量が増えている」と答えた課長が38.3%、「コンプライアンスが厳しくなっている」が49.3%。守備範囲が広がったところに、手続きの負荷が上乗せされた形です。
2つ目は、管理職を「一番できるプレイヤー」から選んできたこと。成果を出した人を課長にする運用が続くと、課長になっても本人が最も高い生産性を持つ状態が残ります。本人にとっても会社にとっても、自分でやったほうが早い。この構造は、人員を増やしても自動では解消しません。
プレイングマネージャーの限界を生む3つの構造
ここからが本題です。限界は個人の資質ではなく、会社側が用意した3つの仕組みから生まれます。順に見ていきます。
構造1 管理職に期待する役割が言葉になっていない
多くの会社で、部長と課長に何を期待するのかが文書になっていません。等級定義に「組織目標の達成」「部下の育成」と書かれてはいるものの、では何をどこまでやれば達成なのかが決まっていない。
リデザインワークの人事制度設計支援で、ある事務用品メーカーの人事担当者から次のように聞いています。部長や課長の役割定義が曖昧なまま、管理職の能力不足が個人の問題として語られている状態でした。役割が決まっていないため、できていないという評価だけが先に立つ。
役割が言葉になっていないと、本人は迷ったときに前職の経験か、自分の上司のやり方を真似るしかない。結果として、判断の基準が人によってばらつきます。
構造2 部下の育成が評価に入っていない
2つ目は評価。マネジメントに時間を割いても評価が変わらないなら、時間配分は自分の数字に寄ります。本人としては合理的な判断です。
多くの評価シートには「部下育成」の項目があります。ただし、その項目が実際の評価点や昇格判断にどれだけ効いているかを確認すると、目標達成の項目に比べて重みが小さいケースがほとんどです。評価項目としては存在するのに、評価結果には反映されていない。この状態では、育成に時間を使うほど本人が損をします。
構造3 権限が下りていないため任せられない
3つ目は権限です。部下に任せようとしても、決裁や対外的な判断が課長に集まっていると、結局は課長が入ることになります。任せたはずの案件が、要所ごとに戻ってくる。
任せられない理由を部下の能力に求めると、打ち手は育成しかなくなります。しかし実際に止めているのは、どこまでを部下が決めてよいかの線が引かれていないことです。線がないと、部下は判断のたびに確認を取ります。課長の側も、確認を受ける前提で予定を組むことになります。
3つの構造は互いを強め合う
3つは独立していません。順番に効いて循環します。
役割が決まっていない(構造1)ため、何に時間を使えばよいか分からない。評価にも反映されない(構造2)ため、自分の数字を優先する。部下に任せる線もない(構造3)ため、案件を手放せない。結果として部下に経験の機会が回らず、育たない。育たないので、さらに任せられない。
リデザインワークの人事制度設計支援で、あるシステムインテグレーターの人事部門から社内アンケートの実数を共有いただきました。課長の2人に1人がプレイング負荷が高いと回答し、3人に1人が部下に挑戦機会を与えられていない。4人に1人は評価の納得感を欠いた状態にある。
大型案件にリソースが集中し、中堅層が育成に時間を割けず、若手が育たず、さらに任せられない。3つの数字は別々の問題ではなく、1つの循環の異なる断面でした。
産業能率大学の調査で約半数がマネジメントへの支障を訴えている状況と、この社内アンケートの2人に1人という比率は、ほぼ同じ水準です。特定の会社の事情ではありません。
会社側で外す順番は権限委譲から
3つの構造のうち、どれから外すかで効果が出る速さが変わります。最も早いのは権限委譲(構造3)です。比べると差がはっきりします。
| 着手する構造 | 必要な準備 | 効果が出るまで | 本人の負荷 |
|---|---|---|---|
| 権限委譲 | 決裁範囲の明文化 | 1か月から3か月 | すぐ下がる |
| 役割定義 | 等級定義の見直し | 3か月から6か月 | 定義後に下がる |
| 評価への反映 | 評価制度の改定 | 半年から1年 | 次の評価期から |
権限委譲は制度改定を伴わずに始められる。決裁の範囲をどこまで部下に下ろすかを決めて文書にするだけで、確認の往復が減ります。
リデザインワークの人事制度設計支援で、ある印刷事業の人事担当者から聞いた言葉が的確でした。マネージャーに必要なのは、部下がどこまで自由に動いてよいかの線を示すこと。
数値だけで管理すると、メンバーは提案してよい範囲が分からず動けなくなります。判断基準を具体的に渡すと、部下は自分から動くようになる。権限委譲の進め方は、権限委譲が進まない理由で詳しく説明しています。
一方、役割定義と評価への反映は時間がかかりますが、着手しなければ構造1と構造2が残ります。権限委譲で当座の負荷を下げながら、並行して進めるのが現実的です。管理職に何を期待するかの言語化は管理職の役割定義で扱っています。
研修で解決しない理由
管理職の負荷が話題になると、マネジメント研修の追加が検討されます。ただし、3つの構造が残ったまま研修を足しても、本人の時間がさらに減るだけです。
研修が効くのは、役割が決まっていて権限もあり、やり方だけが分からない場合に限られる。役割が決まっていない状態で研修を受けると、学んだことを自社のどの場面で使うのかが分かりません。研修の前に、構造の側を確認する順番になります。管理職研修の設計は管理職研修が形骸化する理由で整理しました。
自社の構造を確かめる10項目
自社でどの構造が効いているかを、次の10項目で確認できます。「いいえ」が多い区分が、先に手をつける対象です。
役割定義(構造1)
- 部長と課長それぞれに期待する役割が、文書になっている
- その文書に、何をどこまでやれば達成なのかの水準が書かれている
- 管理職に昇格する基準が、本人に開示されている
評価への反映(構造2)
- 評価項目に部下育成が入っている
- 部下育成の評価が、昇格や賞与の判断で実際に重みを持っている
- 育成に時間を使った管理職が、自分の数字で不利にならない設計になっている
- 管理職の評価に、チームの状態を測る指標が含まれている
権限委譲(構造3)
- 部下がどこまで自分で決めてよいかの範囲が、文書になっている
- その範囲が、案件の金額や重要度で具体的に書かれている
- 決裁を課長から部下へ下ろした実績が、直近1年にある
10項目のうち、多くの会社で「いいえ」が集中するのは5番と8番。項目としては存在するが、実際には効いていない。この2つを先に直すと、残りの項目も動かしやすくなります。
管理職の負荷を下げるところから、空いた時間を何に使うかまでを含めて整理したのが、資料『AI時代の人事評価制度改定』です。等級・評価・報酬をつなげて設計する手順と、移行で起きる論点をまとめています。
なお、管理職の役割定義と評価への反映は、リデザインワークの人事制度設計支援でも無料でご相談を承っています。
プレイングマネージャーの限界は、兼務という働き方そのものから来ているのではありません。役割が決まっておらず、育成が評価に入らず、権限も下りていない。この3つが重なったときに、個人の努力では抜け出せなくなります。
3つのうち権限委譲は今月から動かせます。まず、部下がどこまで決めてよいかを1枚に書くところからです。
中間管理職の負荷を、労働時間の規制と育成の両立という観点から見た記事もあります。中間管理職の負担が増える構造もあわせてご覧ください。






