管理職の役割定義とは|曖昧なまま研修をしても行動が変わらない理由と、部長・課長の書き分け方
「うちの課長層は、マネジメントができていない」。人事の検討会でこの言葉が出たとき、次に確認したいことがあります。では、できている状態とは何を指すのか。答えが即座に出てくる会社は、あまり多くありません。
定義がないまま、できていないという評価だけが先に立つ。この状態では、研修を足しても本人は何を直せばよいか分かりません。
この記事では、管理職の役割定義を何から書き始めるのかを整理します。読み終えると、等級定義の見直しに着手するときに、部長と課長で何を書き分ければよいかが分かります。記事の最後には、そのまま使える記入項目も載せました。
管理職の役割定義とは期待する成果と行動を文書にしたもの
役割定義は、職務記述書(ジョブディスクリプション)ほど細かいものではない。その役職に何を期待するのかを、成果と行動の2つで書いたものを指します。
多くの会社の等級定義には、すでに一文だけは書かれています。「組織目標の達成」「部下の育成」といった表現です。問題は、それが何をどこまでやれば達成なのかまで書かれていないこと。
リデザインワークの人事制度設計支援で、ある事務用品メーカーの人事担当者から次のように聞いています。部長や課長といった役職に対する役割定義が曖昧なまま、管理職の能力不足が個人の問題として語られている。役割を明確にすると、どのような人が管理職に適しているかの基準も同時に整理できる、という話でした。
役割定義は評価のためだけのものではありません。昇格させる人を選ぶ基準の裏返しでもあります。
定義が曖昧だと起きる3つのこと
定義がない状態で何が起きるかを、先に確認します。
1 判断の基準が人によってばらつく
本人は迷ったときに、前職の経験か、自分の上司のやり方を真似るしかない。その結果、部署ごとに違うやり方が定着します。異動した部下から見ると、上司が変わるたびに求められることが変わる。
2 評価が印象で決まる
達成の水準が書かれていないと、評価者は自分の基準で判断する。同じ働きでも評価者によって点が違うという不満は、評価者研修ではなく定義の不在から生まれていることが多い。
3 研修の効果が本人に接続しない
研修が効くのは、役割が決まっていて権限もあり、やり方だけが分からない場合。役割が決まっていない状態で受けると、学んだことを自社のどの場面で使うのかが分かりません。
タスク管理と分けて測る方法はピープルマネジメントで扱っています。
部長と課長で書き分けるのは時間軸と対象範囲
役割定義でつまずきやすいのが、部長と課長の書き分けです。どちらにも「組織目標の達成」「部下の育成」と書くと、違いが出ません。
書き分けの軸は2つあります。時間軸と、対象範囲です。
| 課長 | 部長 | |
|---|---|---|
| 時間軸 | 今期の目標達成 | 2年から3年先の事業の形 |
| 対象範囲 | 担当する課の業務と人 | 部を構成する複数の課の配分 |
| 成果の出し方 | 現在の人員と業務で達成する | 人員配置と業務の組み替えで達成する |
| 育成の対象 | 担当者を一人前にする | 次の課長候補を作る |
| 判断の性質 | 決められた枠の中で最適化する | 枠そのものを設計する |
この5行を自社の言葉に置き換えると、書き分けは進みます。「部長は課長の上位互換」という書き方をやめることが起点です。
達成の水準は3段階で書く
役割を書いた後に必要なのが、達成の水準。ここを書かないと、結局は印象評価に戻ります。
水準は、3段階で書くと運用に耐える。
- 期待を下回る 何が起きていない状態か
- 期待どおり 何ができていれば達成か
- 期待を上回る 何が加わると上回りか
例として、課長の「部下の育成」を書くと次のようになります。
| 段階 | 記述 |
|---|---|
| 下回る | 担当替えができる部下が1年間で1人も増えていない |
| 期待どおり | 担当替えができる部下が年1人増え、1on1を月1回以上実施している |
| 上回る | 他部署からも指名される人材を輩出している |
数えられる形で書くのが要点です。「積極的に育成している」では判定できません。
役割定義と昇格基準をつなげる
役割定義ができると、昇格の基準は自動的に決まります。次の等級の役割を、現等級で部分的に果たしているかを見ればよいためです。
課長への昇格なら、担当者でありながら課の業務配分や後輩の育成に関与できているか。部長への昇格なら、課長でありながら部全体の課題を持ち出せているか。
この形にすると、昇格の可否を「成果が高いから」ではなく「次の役割を果たせる兆候があるから」で説明できます。成果と昇格を直結させると、優秀なプレイヤーを不向きな管理職にしてしまうことが起きます。この構造はプレイングマネージャーの限界でも扱っています。
記入項目は6つで足りる
最初から精緻に作る必要はない。次の6項目を部長と課長それぞれで埋めれば、運用を始められます。
- 主たる成果責任 この役職が達成に責任を負うもの(1行)
- 時間軸 どの期間の成果を見るか
- 対象範囲 業務と人のどこまでを見るか
- 育成の対象と水準 誰を、どこまで育てるか
- 判断してよい範囲 金額と、確認が必要な場面
- 期待どおりの水準 3段階のうち真ん中だけ書く
5番は権限委譲が進まない理由と同じ内容です。役割定義と権限の範囲は本来ひとつの文書にまとまるべきもので、別々に作ると整合しなくなります。
6番は、最初は期待どおりの段階だけで構いません。上下の段階は運用しながら足します。
定義を作った後に必要なこと
文書を作っただけでは運用に乗らない。次の2つが要ります。
1つ目は本人への開示。役割定義を人事部の中だけに置いている会社がありますが、本人が読めなければ行動は変わりません。昇格基準もあわせて開示すると、目指す先が見えます。
2つ目は評価シートとの接続。役割定義に書いた水準と、評価シートの項目が別々だと、現場は評価シートのほうを見ます。定義を直したら、評価シートも同じ言葉に直します。
管理職の役割定義から等級・評価・報酬のつなげ方までを整理したのが、資料『AI時代の人事評価制度改定』です。
管理職の能力不足として語られていることの多くは、期待が言葉になっていないことから生じています。何を期待するかが決まれば、できているかを判定でき、足りない部分に研修を当てられる。順序としては、定義が先です。
まず、課長の主たる成果責任を1行で書いてみるところからです。1行が書けない場合、その役職に何を期待しているかが社内で決まっていません。






