人事施策の決め方|打ち手を並べる前に決める優先順位と、運用が持たない施策の見分け方
経営会議で「人事として今期は何をやるのか」と聞かれ、採用強化、育成体系の見直し、エンゲージメント調査、評価制度の改定と、10行ほどの一覧を出す。異論は出ず、そのまま承認される。半年後、着手できたのは1つか2つ。
人事施策の一覧は、作る段階ではほとんど反対されません。反対されないまま増え、実行の段階で人手が足りなくなります。
止まる原因は担当者の力量ではありません。並べる作業と、絞る作業が別物だという前提が抜けたまま進むことにあります。
この記事では、人事施策の意味と代表的な種類を整理したうえで、施策が実行されない2つの理由、優先順位を決める3つの軸、絞り込みの手順を順に説明します。
記事の最後には、施策の候補を優先順位づけするプロンプトを掲載しました。手元の施策一覧を貼り付ければ、経営への効きと運用の重さで並べ替えた案が出るので、来期の計画を絞る材料としてお使いください。
人事施策とは人事戦略を実行に移す個別の打ち手
人事施策とは、採用、育成、評価、報酬、配置、働き方といった人事の領域で実行する個別の打ち手を指します。方針を示すのが人事戦略で、その方針を具体的な行動に落としたものが人事施策です。採用単価を下げる、管理職の候補を3年で10人そろえる、といった単位まで降りたものが施策にあたります。
両者は言葉が似ているため、社内でも混ざったまま使われます。人事戦略の定義と人材戦略との違いは人事戦略とはで整理しています。
区別が必要な理由は単純で、承認の対象が違うこと。戦略は方向の合意で足りますが、施策は人と予算の配分を決める話になります。
合意の重さが、はじめから違う。
人事施策の6つの領域と代表的な打ち手
人事施策を領域で分けると、同じ課題に別々の打ち手を当てている状態が見つかります。まず全体を並べます。
| 領域 | 代表的な施策 | 効果が出るまで |
|---|---|---|
| 採用 | 採用チャネルの見直し、選考基準の再定義、リファラル制度 | 3か月から1年 |
| 育成 | 階層別研修、選抜研修、1on1の運用 | 半年から3年 |
| 評価 | 評価制度の改定、評価者研修、目線合わせ会議 | 1年から2年 |
| 報酬 | 賃金テーブルの改定、賞与配分の見直し、手当の整理 | 半年から2年 |
| 配置 | 異動ルールの明文化、公募制度、タレント情報の整備 | 1年から3年 |
| 働き方 | 勤務制度の柔軟化、休暇制度、業務量の平準化 | 3か月から1年 |
一覧が10行を超える会社では、たいてい6領域すべてに手が伸びています。領域が分散するほど、担当も予算も薄く割られる。
効果が出るまでの期間にも幅があります。1年で結果を求められる場面で、育成と配置だけを並べた計画は、任期の途中で必ず見直しを迫られます。
人事施策が実行されない理由は大きく2つ
承認された施策が動かない理由は、大きく2つに分かれます。手当てが違うため、分けて見ていきます。
理由1 施策の数が人事部の運用できる本数を超えている
人事制度は設計2割、運用8割。制度や施策を作る作業より、決めたとおりに回し続ける作業のほうが重く、成果を分けるのもそちらになります。
研修を1本増やすと、企画の工数だけでなく、案内、出欠管理、欠席者のフォロー、効果の確認が毎期発生する。講師との日程調整や、受講後のアンケートの集計も毎回ついてきます。作った瞬間から、担当者の可処分時間が恒久的に削られます。
施策の一覧を作るときに数えているのは、たいてい企画の工数だけです。5本の施策を承認した会社は、5本分の企画ではなく、5本分の運用を毎年抱えることになります。
運用の工数は、承認の場では数えられていません。
この工数は、翌期も翌々期も同じだけかかる。
理由2 誰のどの課題を解くのかが決まっていない
もう一つは、施策の対象が決まらないまま承認されている状態です。「若手の離職が多い」という課題に、育成と評価と働き方の打ち手が同時に当たっている一覧をよく見かけます。
対象が決まらない背景には、意思決定の力学もあります。リデザインワークの人事制度設計支援では、グループ子会社の制度改定でこの構造をよく見ます。
社長がグループ本体からの出向で数年ごとに交代する会社では、争いを起こさずに任期を終えたいという力が働く。現場に詳しくないため、役員や部長の発言力が相対的に強くなります。結果として、改定で実現したい姿が経営側から出てきません。
このとき人事担当者は、現場へのインタビューから実現したい姿を描くところを起点にする必要があります。上から降りてくるのを待つと、施策は各部署の要望の寄せ集めになる。
人事施策の優先順位は3つの軸で決める
2つの理由のうち、施策の本数は絞れば減らせます。しかし、どれを残すかの基準がなければ、声の大きい部署の要望が残るだけ。判断の軸を先に決めておくと、絞る作業が担当者個人の判断ではなくなり、経営会議でも同じ基準で議論できます。
| 軸 | 見るもの | 高いと判断する状態 |
|---|---|---|
| 経営への効き | 経営計画の数字にどう届くか | 売上、利益、採用数など経営計画の項目に直接つながる |
| 実行可能性 | 現場の協力がどれだけ要るか | 人事部内で完結する、または協力先が1部署に収まる |
| 運用の重さ | 毎期かかる工数 | 初年度以降は年10時間未満で回る |
3つを5点満点で採点し、経営への効きを2倍で数えます。経営への効きが低い施策は、実行可能性がどれだけ高くても後回しにするという順位づけです。
始めやすさで選ぶと、着手は速く、成果は出ません。
採点の目的は、点数の高い順に並べることではありません。やらないと決める施策を、根拠つきで説明できる状態にすることにあります。
人事施策を絞り込む4つの手順
採点の前に、候補をそろえる手順が要ります。順番を飛ばすと、粒度がばらついたまま採点することになる。
- 経営計画から人事に関わる項目を抜き出す。売上目標、拠点計画、要員計画のうち、人が制約になる箇所を特定する
- 現状との差を数える。必要な人数、必要なスキル、現在の離職率との差を数字で置く
- 差を埋める施策の候補を領域ごとに挙げる。この段階では絞らず、6領域から広く出す
- 3つの軸で採点し、上位3本に絞る。残りは来期以降の候補として一覧に残す
上位3本という数は、人事部の人数に応じて変えてかまいません。目安は担当者1人あたり1本。兼務の担当者しかいない会社では、全社で2本に絞ったほうが結果的に前に進みます。
本数は、人数で決まる。
経営計画からの逆算は人事戦略の立て方で詳しく扱っています。
人事施策の候補を優先順位づけするプロンプト
手元の施策一覧を採点する作業は、AIに下書きさせると速くなります。次の指示文をそのまま貼り付けて使えます。
あなたは人事制度設計のコンサルタントです。
以下の情報をもとに、人事施策の優先順位を提案してください。
【経営計画の要点】
(3年後の売上目標、拠点や要員の計画をそのまま貼り付け)
【現状の課題】
(離職率、採用充足率、平均年齢など数字で分かるものを貼り付け)
【検討中の施策一覧】
(施策名を箇条書きで貼り付け)
出力の条件:
1. 各施策を「経営への効き」「実行可能性」「運用の重さ」の3軸で5点満点で採点し、
経営への効きを2倍で重みづけした合計点の高い順に表で並べてください。
2. 各施策について、初年度の企画工数と、2年目以降に毎年かかる運用工数を
時間で概算してください。前提も併記してください。
3. 上位3本と、それ以外を後回しにする理由を、経営会議で説明する文章で書いてください。
4. 一覧の中に、同じ課題を重複して狙っている施策があれば指摘してください。
出てきた採点はそのまま使わず、実行可能性の点数だけは自社の事情で上書きしてください。協力を得られる部署かどうかは、社外の基準では判定できません。
来期の施策を、どこまで絞るか
リデザインワークの人事制度設計支援では、施策の優先順位づけについて無料でご相談を承っています。検討中の一覧と経営計画をお聞きして、来期に残す施策と後回しにする施策の線引きをご一緒に決めます。
人事施策は絞った本数だけ運用できる
施策の一覧が長い会社ほど、人事部は忙しく、現場から見ると何も変わっていません。並べる作業には合意が要らず、絞る作業にだけ説明責任が発生するためです。落とす判断を先送りするほど、一覧は長くなっていきます。
来期の計画では、追加する施策を考える前に、今期の一覧から落とす施策を決める。
落とす理由を3つの軸で言えるなら、その計画は運用まで届きます。評価制度そのものの設計に踏み込む場合は人事評価制度の設計方法もあわせてご覧ください。






