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「逸脱させるマネジメント」を組織に実装する3点セット──出版記念セミナー『はみだしを育てる組織のつくり方』開催レポート

登壇:石山 恒貴 氏(法政大学)・林 宏昌(弊社代表)

2026年9月3日、法政大学 石山恒貴先生をゲストにお迎えし、書籍『逸脱させるマネジメント──1人ひとりの「はみ出し」を育て、組織の成長に変える技術』(石山 恒貴・伊達 洋駆 共著/日本能率協会マネジメントセンター)の出版を記念したオンラインセミナーを開催いたしました。ゲストの石山先生に加え、弊社代表の林宏昌が実装講演をお届けし、モデレーターを笠間陽子(Director of Value)が務める形での90分のセッションとなりました。本コラムでは、当日の議論を「経営者・人事責任者の皆さまが、明日から自社にどう活かせるか」の視点で整理してお届けいたします。

▶ 当日のセッションを、アーカイブ動画でご視聴いただけます

石山先生の講演・林の実装講演・クロストークまで、90分のセッションをノーカットで公開中です。本コラムでは触れきれなかった議論の温度感まで、映像でお楽しみください。

アーカイブ動画を視聴する ▶

1.「逸脱」を再定義する──STGモデルの本質

「逸脱」という言葉に、少しドキッとされる方も多いかもしれません。ですが、石山先生が本書と当日の講演で提示された定義は、単なるルール違反とは全く異なるものでした。

「単なる無責任なルール違反ではなく、既存の枠組みや常識に対する違和感を、課題として認識し、その解決に取り組むこと」

社会学者ロバート・K・マートンを引きながら、「逸脱とは、みんなが当たり前だと思っている前提に、一人が違和感を持って動き始めること」と再定義されました。

そして石山先生は、この逸脱を組織的に後押しするマネジメントの型として、STGモデルを提唱されました。

  • Sense(センス/感知する):メンバーの中に潜む強みや、まだ言葉になっていない違和感を感知する
  • Try(トライ/挑戦させる):小さく試せる場所を用意し、勇気ではなく”怖さを下げる”設計をする
  • Grow(グロウ/開花させる):芽吹いた才能を組織全体に伝播させ、既存の暗黙前提を創造的に破壊する

このSTGは、経済産業省の「越境学習の伴走者プロジェクト」に参画された石山先生ご自身が、優れた伴走者たちに共通するスキルを分析するなかから抽出された、実践知の集約でもあります。

また当日の講演で石山先生は、「日本ではマネジメントを”管理”と訳してしまった。これが最大の失敗」と語られました。ピーター・ドラッカーがマネジメントを構想した本来の目的は、”個人を歯車にせず、一人ひとりの強みを最大限に発揮させ、それをチームで結集させること”──つまり、全体主義とは対極にある活動として位置づけられていたのです。

2. STGを組織に落とし込む「方針×施策×文化」の3点セット

石山先生のSTGモデルに、経営者・人事責任者の多くが強く共鳴されると思います。しかし、共鳴した先の”実装”で立ち止まる組織が非常に多い──これが、弊社が数多くの企業をご支援してきたなかで見てきた現実です。

そこで実装講演では、弊社代表の林より、STGを組織に落とし込むには「方針×施策×文化」の3点セットが不可欠であり、どれか一つが欠けると、必ずそこから漏れるというお話をさせていただきました。

① 方針設計:総論賛成で止めず、各論まで決めきる

「異能は大事だ」「挑戦を増やそう」──ここに反対する役員はいません。しかし方針設計で本当に問われるのは、この総論を”人・金・出口”の各論まで書き換えられるかどうかです。

  • 人(登用):新規事業・V字回復・撤退など、通常業務の延長にない経験を持つ人を、役員任用の必須条件にする
  • 金(予算):逸脱した取り組みのための予算を、年間で先に確保する。「余ったら返す」ではなく「使い切る前提」で置く
  • 出口(撤退):うまくいかなかったときの畳み方と、その後の処遇を先に決めておく。「挑戦した人が損をしない」を制度として担保する

方針は”背骨”と各論を両輪で設計する必要があります。林の古巣であるリクルートでは、「成長し続ける/成長のために不安定であり続ける」という背骨から、35歳以降3年ごとに積み上がる退職金、3年半に1度の1か月休暇制度、人材開発会議など、あらゆる制度が一気通貫で逆算されていました。

② 施策設計:逸脱を生み出し、育てる3つの器

続いて、STGを日常業務の中で回すには、下記の3種類の「器」が必要になります。

  • 人を見つける器:人材開発会議など、現場の評価軸では拾われない異能を、通常の評価の外側で発見し動かす場
  • 小さく試す器:出島・サンドボックスなど、本体とぶつからない場所で、失敗しても致命傷にならない構造をつくる
  • 育てる器:人事評価制度そのもの。逸脱や新しい挑戦を、正しく評価する仕組みと運用

器がないと、逸脱は「個人の根性と運」に依存してしまいます。続かないし、再現もできない。だからこそ制度・仕組みとしての設計が必要になります。

③ 文化醸成:役員・部長の「一挙手一投足」

そして最後、文化は「決定的な2つの瞬間の一言」で決まります。

  • 挑戦の入口で──つい出てしまう言葉:「うまくいかなかったらどうする?」「このリスクは?」
    → 置き換える問い:「この機会を最大化するために、超えるべき壁は何だろう?」
  • うまくいかなかった直後──つい出てしまう言葉:「誰の責任だ」
    → 置き換える問い:「そこから何が学べた? 次にどう活かす?」

制度や研修ではなく、役員・部長の一挙手一投足がここまで揃って、はじめて”逸脱を許す文化”が組織に定着します。

3. なぜ多くの組織が「総論賛成」で止まってしまうのか

クロストークでは、「そもそも、なぜ多くの組織で逸脱が根づかないのか」というテーマも深めました。

石山先生は、「口では大事だと言うのに、実際に少し変わった人を評価も尊重もしない企業が多い。だとしたら、本気で逸脱を求めていないと言わざるを得ない」と、静かな口調ながら核心を突かれました。

林は経営コンサルティングの現場感覚から、「危機感の差が決定的に大きい」と応じました。既存事業がデジタルに代替されつつある業界、明確なオーナス期に入った業界の経営者は、この一〜三の議論が”総論賛成”では終わらず、真剣な議論になる。一方で、「まだ成長できているうちは何とかなる」という組織では、スイッチが入り切らないのが現実です。

しかし石山先生は続けて、「もう一つ大きな構造変化が起きている」と指摘されました。団塊ジュニア世代に約200万人生まれていた子供が、去年は60万人台まで減少。高齢者・女性の潜在労働力もほぼ顕在化した今、労働市場は本当の売り手市場に移行しつつあります。「異能な人材ほど、認められない組織から先に出ていく。強みや逸脱にフォーカスすることが重要と訴えると、理想論すぎてファンタジーと経営者に反論されたこともあるが、差し迫った現実的な課題として捉えるべき」──セッションで最も強い危機感が共有された瞬間でした。

4. AIで軽くなった時間を、”対話”に再投資する

セッションの終盤、弊社が普段お伝えしている「業務を軽くし、事業を動かす、攻めの人事へ」というメッセージを、当日の議論に接続してお話しさせていただきました。

これまで、多くの人事部門は「人材戦略の策定」「研修設計」といった大きな企画に工数と費用の多くを取られ、現場の浸透や行動変革にまで手が回らない状態が続いてきました。日々の目標設定・評価フィードバック・評価会議は、現場マネジメントに委ねられてきたのです。

これからは、AIが目標設定の運用支援、評価フィードバックの運用支援、評価会議の運用支援を、まさに現場で判断が起きる瞬間で支えられるようになりました。人事の投資は、”ツールや浸透に向けた行動が変わるまでの支援”に、はじめて向けられるようになります。

そして、そこで生まれた時間を「何に、意志を持って、再投資するか」──ここに、これからの人事の役割の本質があります。

AIで軽くなった時間を、現場の判断と行動が変わる場所へ、意志をもって再投資する。
人事の役割を「制度や企画をつくって終わり」から、「経営と事業を、現場と共に動かす起点」へ。

林は当日、こう語りました。「AIが出てきたことで、実は人事は”古き良き人事”に戻っていくのではないかと感じています。分析や複雑な作業がAIで置き換わっていくからこそ、人の話を聞き、対話し、コンディションを整えるという、本来のフィジカルな部分がもう一度大事になってくる」。

5. 明日から始められる、たった一つのこと

最後に、石山先生と林の対話から浮かび上がった「明日から始められる、たった一つのこと」をご紹介します。

それは、”メンバーの強みを聞く”ことから始める、ということです。

  • 石山先生の言葉を借りれば「課題を指摘する局面は課題を指摘し、それ以外は強みを伸ばす」、ポジティブなフィードバックを多めに
  • 能力よりも”努力”を、具体的に観察して伝える
  • 1on1は業務進捗の確認ではなく、”メンバーのための時間”として設計する
  • 新任のメンバーには、幼少期から今に至るまでの物語を、面白がって聞く
  • 何より、話を聞く時にはパソコンを閉じ、スマホを置き、目を見る

石山先生は締めくくりで、「まず、自分はどうなのか。自分ごととして自分の強みを把握するところから始めることが、一番のポイントかもしれません」と語られました。

STGモデルも、方針・施策・文化の3点セットも、”自分ごと”としてマネージャー一人ひとりが実践するところから始まる──シンプルですが、この結論こそが、90分の議論の集約だったように感じます。

リデザインワークができるご支援

弊社リデザインワークは、「業務を軽くし、事業を動かす、攻めの人事へ」を掲げ、人事に特化したAIプロダクトと伴走コンサルティングをご提供しております。

  • AI人事参謀:等級・評価・報酬・組織の4分野をスコア化し、10のリスクパターンを検出。改定方針まで提示するAI制度診断
  • AIサーベイ:エンゲージメント計測と、現場改善への”再投資”を一気通貫で支える月次サーベイ
  • AI目標設定/評価フィードバック支援:現場マネジャーの判断を支え、STGモデルの実装を制度側から後押しするツール群
  • 伴走コンサルティング:方針設計・施策設計・文化醸成の3点セットを、貴社の背骨から逆算してご一緒に設計

「自社でもSTGの1段階目から始めたい」「方針の各論を、どこから決めていくべきか一緒に考えたい」──そう感じられた方は、ぜひお気軽にご相談ください。

セッションの全編は、アーカイブ動画で

石山先生と林、90分の対話をノーカットで。
「逸脱を許す組織」の実装を、貴社の言葉に翻訳するヒントがきっと見つかります。

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リデザインワーク 編集部

リデザインワークは、仕組みを変え、行動を変え、企業成長と多様な個人の活躍が同時実現できる企業づくりを、HRコンサルタントとAIプロダクトで支援する会社です。経営戦略と一貫した人事戦略を描くだけでなく、それが現場に定着し行動が変わるまで伴走する中で得た知見やノウハウを発信しています。

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