等級制度の作り方|職能資格・職務等級・役割等級の使い分けと、等級数を決める順番
「等級を7段階にするか、5段階にするかで議論が止まっています」。人事制度の改定を支援していると、この相談をよく受けます。段階の数は目に見えるため、議論の焦点になりやすいところです。
しかし数を先に決めても、運用は安定しません。段階の数より、各等級に何を求めるかを書けるかどうかが、制度が機能するかを決めます。定義が曖昧なまま数だけ決めると、昇格の判断で毎回もめることになります。
等級制度は、評価と報酬の土台。ここが定まっていないと、評価の基準も報酬の水準も置き場所がなくなります。
この記事では、等級制度の3種類とその使い分け、等級数の決め方、等級定義の書き方、移行のときに起きる問題を順に整理します。
最後に、自社の等級定義を行動の言葉で書き直すプロンプトを載せました。いまの定義を貼り付ければ、抽象的な表現がどこかと、その直し方が出ます。
等級制度とは社員を格付けして処遇の基準にする仕組み
等級制度とは、社員を能力や職務や役割の大きさで格付けし、評価と報酬の基準にする仕組みです。人事制度は等級・評価・報酬の3つで構成され、等級はその土台にあたります。
土台という位置づけになる理由は、順序。等級が決まると、その等級に求める行動が決まり、それが評価の基準になります。そして等級ごとに報酬の範囲が決まります。
したがって等級の定義が曖昧だと、評価も報酬も基準を失います。評価がうまくいかない会社の相談を受けると、原因が等級側にあることが少なくありません。
制度全体の設計手順は、AI時代の人事評価制度の設計方法で解説しています。
等級制度の3種類と選ぶ基準
等級制度は、何を基準に格付けするかで3種類。
| 種類 | 格付けの基準 | 向く会社 | 起きやすい問題 |
|---|---|---|---|
| 職能資格制度 | 個人が持つ能力と経験 | 長期雇用で人を育てる会社。職種をまたぐ異動が多い | 能力は下がらないため、等級と成果が離れていく |
| 職務等級制度 | 担当する職務の大きさ | 職務の範囲が明確な会社。専門職が多い | 職務が変わらないと等級が上がらず、異動しにくい |
| 役割等級制度 | 期待される役割の大きさ | 事業の変化が速い会社。日本企業で最も採用が多い | 役割の定義が曖昧だと、実質的に職能資格に戻る |
選ぶ基準は、人を動かしたいか、職務を固定したいかです。異動で人を育てる方針なら職能資格か役割等級、専門性を高く保ちたいなら職務等級が合います。
実務では役割等級を選ぶ会社が多くなります。ただし注意点があります。役割の定義を書き切れないと、運用の実態は職能資格と変わらなくなります。制度の名前ではなく、定義が書けているかで判断してください。
等級数は組織の階層から決める
等級の数は、議論の入口になりやすいところですが、決め方はほぼ機械的です。組織の階層と、昇格の間隔から逆算します。
目安は次のとおり。
- 組織の階層を数える … 一般社員・主任・課長・部長・本部長のように、意思決定の階層を並べます。多くの会社で4から6になります。
- 一般社員層を2段階から3段階に分ける … 新卒入社から主任手前までは在籍年数が長いため、この層だけ細かく分けます。
- 管理職層は階層と1対1にする … 課長と部長で等級を分けます。ここを細かくすると、昇格が名ばかりになります。
結果として、多くの会社は6等級から8等級に落ち着きます。10を超えると等級間の違いが説明できなくなり、4以下だと昇格の機会が少なすぎて滞留が起きます。
先に数を決めて定義を後から埋める順番は避けてください。定義が書けない等級は、運用で必ず飛ばされます。
等級定義は能力ではなく行動で書く
等級定義でよく見かけるのが、次のような書き方。
- 3等級 担当業務を主体的に遂行できる
- 4等級 高度な専門知識を有し、後進の指導ができる
この書き方だと、昇格の判断で必ずもめます。「主体的」も「高度な」も、評価者によって解釈が変わるためです。
定義は、担う範囲と扱う難易度で書きます。
- 3等級 定型の業務を1人で完結させ、例外が起きたときに上位者へ判断を求める
- 4等級 前例のない案件について、関係者に確認したうえで進め方を決めている
こう書くと、昇格の判断が「その行動があったか」の確認になります。評価者の解釈に頼らず、事実の確認で決められる状態が、定義が書けている状態です。
行動で等級を分けるという考え方は、コンピテンシーと同じ発想。等級定義とコンピテンシー項目を別々に作ると二重管理になるため、設計の段階で対応させておくことをおすすめします。詳しくはコンピテンシーとはで整理しています。
等級制度の移行で必ず起きる2つの問題
新しい等級制度を作ったあと、既存社員をどの等級に置くかという移行の工程があります。ここで2つの問題が起きます。
1つ目は、格付けを下げられない問題です。新しい定義に照らすと現在の等級に届かない社員が出ます。しかし等級を下げると報酬も下がるため、実務上は下げにくくなります。
対処は、移行時に限って現等級を維持し、報酬を据え置く経過措置を置くことです。ただし期間を決めます。期限のない措置は恒久化します。
2つ目は、上位等級に人が溜まる問題。旧制度の年功的な運用で上がってきた層が、新制度の上位等級に集まります。すると若手の昇格枠がなくなります。
対処は、移行時の格付けを職位ではなく、いま担っている役割で判断することです。役職定年や役割の見直しとあわせて設計します。
この2つは、制度を作る段階で対処を決めておかないと、移行の直前に決めることになります。そのときは時間がないため、たいてい全員を現状維持にする判断になり、制度を変えた意味が薄れます。
等級定義を行動の言葉に直すプロンプト
いまの定義に抽象的な表現が残っている場合は、次のプロンプトで洗い出せます。
あなたは人事制度設計の専門家です。
以下は当社の等級定義です。
【等級定義】
(各等級の定義文を貼り付け)
次の手順で整理してください。
1. 各等級の定義から、程度を表す表現を抜き出してください。
(例:主体的に・高度な・的確に・幅広く・高いレベルで)
2. 抜き出した表現ごとに、それが何を指しているのかを
確認するための質問を1つずつ書いてください。
質問は、制度を作った人に投げる想定で書いてください。
3. 各等級の定義を、次の2つの軸で書き直してください。
・担う範囲(自分の業務・自部門・部門をまたぐ)
・扱う難易度(前例がある・前例がない・利害が対立する)
4. 書き直した定義について、隣り合う等級の違いが
説明できているかを確認し、違いが不明瞭な組み合わせを
指摘してください。
4番目が重要。隣の等級との違いが説明できない箇所は、昇格の判断でもめる箇所とほぼ一致します。
等級制度は定義が書けた分だけ運用できる
等級制度の設計は、種類の選択と等級数の決定に目が行きがちです。しかし運用の成否を決めるのは、各等級に何を求めるかを行動で書けたかどうかです。
書けていれば、評価も報酬も昇格も、その定義を参照して決められます。書けていなければ、毎回の判断が個別の議論になります。
制度を作る順番としては、種類を選び、階層から等級数を出し、そのうえで定義に最も時間をかけてください。定義に時間をかけた分だけ、運用の負荷が下がります。
なお、等級制度の設計と既存制度の移行は、リデザインワークの人事制度設計支援でも無料でご相談を承っています。






