管理職研修が形骸化する理由|回数を重ねるほど効かなくなる設計と、少人数から始める進め方
管理職研修を月1回のペースで続けている会社で、受講者から「お腹いっぱい」という声が出ることがあります。回数を重ねるほど参加の質が下がり、形式的なやり取りで終わってしまう。担当する人事の側からすると、これほど徒労感の強い状態はありません。
原因を受講者の意欲に求めると、打ち手は出席管理の強化しか残りません。実際に効いているのは、研修の設計そのものです。
この記事では、管理職研修が回数を重ねるほど効かなくなる構造を3つに分け、設計をどう変えるかを整理します。読み終えると、来期の研修計画を組むときに、何を減らし、何を足せばよいかが判断できます。
管理職研修が形骸化する状態とは
形骸化を、感覚ではなく症状で定義します。次の3つが出ていれば、その研修は形だけの状態。
- 受講者が研修中の演習を、実際の自部署の課題ではなく架空の設定で進めている
- 研修後に自部署で試したことを、次回に持ち寄る仕組みがない
- 「もう十分学んだ」という趣旨の声が、開始から半年以内に出ている
3つ目が最も分かりやすい合図です。学び足りないのではなく、学んだことを使う場面がないから満腹になる。
リデザインワークの人事制度設計支援で、ある商社の人事担当者から次のように聞いています。月1回実施しているマネージャー向けの1on1研修が形骸化している。受講者から「お腹いっぱい」という声が出て、形式的なやり取りで満足してしまっている状態でした。
原因の分析も具体的でした。演習中心の構成のため、自組織の成果の出し方に向き合う時間がない。技法は増えるが、自分の課で何をどう変えるかを考える時間が研修の中に置かれていない。
形骸化を生む3つの設計
症状の裏にある設計の問題を3つに分ける。
設計1 技法の習得が目的になっている
1つ目は目的の置き方。1on1研修なら傾聴の技法、評価者研修なら評価エラーの種類、といった具合に、覚えるべき知識が先に決まっています。
技法そのものは有用。問題は、技法を覚えたかどうかで研修の成否を測ってしまうこと。理解度テストで高い点が出ても、自部署の状態は変わりません。
設計2 演習が架空の設定で行われる
2つ目が演習の材料。ロールプレイの題材は、たいてい汎用の設定です。誰がやっても同じ答えになるよう作られています。
汎用の設定には利点もある。全員が同じ条件で練習でき、進行が安定します。ただし、自部署の実際の難しさは一切扱われない。部下の名前も、抱えている案件も、期の目標も出てこないまま研修が終わります。
設計3 実践した結果を持ち寄る場がない
3つ目が研修後。多くの研修は、その日で完結します。次回は別のテーマで、また新しい技法を学ぶ。
試した結果が誰にも共有されないため、うまくいかなかった理由も検証されません。技法は増え続け、実践の質は変わらない。これが「お腹いっぱい」の実体です。
昇格の打診を断る社員が増えている場合の切り分けは管理職になりたくない理由で扱っています。
設計を変える3つの手
3つの問題には、それぞれ対応する手がある。
手1 自部署の課題を持参させる
演習の題材を、汎用の設定から受講者自身の課題に替えます。事前課題として、自部署でいま困っていることを1つ書いて持参してもらう。
進行は難しくなる。受講者ごとに条件が違うため、講師は一律の正解を示せません。ただし、正解を示さないことが目的に合っている面があります。自部署の成果の出し方に向き合う時間を作るのが狙いなら、答えは一人ひとり違うはず。
持参する課題の粒度は指定します。「部下が育たない」では扱えません。「Aさんに任せたい業務があるが、任せると品質が落ちるのが不安で渡せていない」まで具体化してもらいます。
手2 次回までに試すことを宣言して終える
研修の終わりを、まとめではなく宣言にします。次回までに自部署で何を試すかを1つ決め、書いて出してもらう。
宣言の条件は2つある。期日までに実行できる大きさであることと、やったかどうかを他人が判定できること。「部下とのコミュニケーションを増やす」は判定できません。「Bさんと30分の面談を2回行う」なら判定できます。
手3 冒頭を前回の結果報告にする
次回の冒頭を、新しい技法の説明ではなく前回の宣言の結果報告にします。試したか、どうなったか、うまくいかなかった場合は何が邪魔をしたか。
この時間を取ると、扱える技法の数は減ります。それで構いません。技法の数を増やすことと、部署が変わることは別だからです。
うまくいかなかった事例のほうが、研修の材料としては価値があります。多くの場合、原因は技法の未熟さではなく、権限の範囲が決まっていないことや業務量の問題です。この構造は権限委譲が進まない理由で扱っています。
全社一斉をやめて少人数から始める
設計を変えると、1回あたりの受講人数は絞らざるを得ない。自部署の課題を扱う以上、50人を一度には見られない。
ここで多くの会社が止まります。対象者が100人いるのに、20人ずつでは5回かかる。ただし、全員を一度に変えようとすると動かないというのが実務の順序です。
リデザインワークの人事制度設計支援で、ある建設業の人事部門とは次の進め方で合意しました。組織改革を全社一斉で進めず、感度の高い現場の責任者を3%の先駆者として特定し、その成功事例を可視化して横展開する。
同社では過去の560人規模の研修でも、4人のグループに分けたパイロットを3回から4回実施し、そこで出た意見を50人規模の全体研修で共有する形を採っていました。
| 進め方 | 1回の人数 | 扱える題材 | 横展開の材料 |
|---|---|---|---|
| 全社一斉 | 50人以上 | 汎用の設定のみ | 出ない |
| 少人数から | 4人から20人 | 各自の実際の課題 | 自社の成功事例が出る |
少人数で先に回すと、自社の言葉で語れる事例が手に入ります。他社の事例より、同じ会社の隣の部署の事例のほうが説得力があります。
研修で解けない問題を先に切り分ける
設計を変えても解けない問題が2つある。役割が決まっていない場合と、業務量に無理がある場合です。
役割が決まっていない状態で研修を受けると、学んだことを自社のどの場面で使うのかが分かりません。この点は管理職の役割定義で詳しく説明しています。
業務量の問題も同じです。プレイングマネージャーの限界で扱ったとおり、自分の担当業務で時間が埋まっている人に育成の技法を教えても、使う時間がありません。
研修を企画する前に、次の2つを確認する。
- 管理職に期待する成果と行動が、文書になっているか
- その行動に使う時間が、業務量の想定に入っているか
どちらかが欠けている場合、研修より先に直す場所があります。
管理職の役割定義から評価・報酬への反映までを整理したのが、資料『AI時代の人事評価制度改定』です。
研修が形骸化している場合、設計の問題なのか、研修より前に置くべき役割定義や業務量の問題なのかで打ち手が変わります。
現在の研修の構成と管理職の業務量をお聞きして、どこから直すかまで一緒に決めます。
管理職研修が効かなくなるのは、講師の質でも受講者の意欲でもありません。技法を教える設計のまま回数だけを重ねると、必ず満腹になります。題材を自部署の課題に替え、試すことを宣言させ、次回の冒頭で結果を持ち寄る。この3つで、1回あたりに扱う技法は減り、部署の状態は動き始めます。
まず、次回の研修で扱う演習を1つ、汎用の設定から受講者の持参課題に替えるところからです。進行は難しくなりますが、そこからしか自社の事例は出てきません。






