中間管理職の負担が増える構造とは|残業削減と若手育成の板挟みを評価制度から解く方法
「残業は減らせ。ただし若手はちゃんと育てろ」。現場の課長がこの2つを同時に言われたとき、どちらを選んでも減点されます。若手に任せれば手戻りで時間が延び、自分でやれば若手が育たない。
この板挟みは、管理職の要領の問題ではありません。2つの要求が、別々の部署から、別々の指標で降りてきていることから生まれています。労働時間は人事や総務が管理し、育成は事業部門の目標に入る。両者が突き合わされないまま、現場の一人に集まります。
この記事では、中間管理職の負担が増える構造を3つに分けて説明し、会社側で外せる順番を示します。読み終えると、管理職向けの施策を検討するときに、研修やメンタルヘルス対策の前に確認すべき制度上の論点が分かります。記事の最後には、負担が集中している箇所を特定する業務配分の見方も載せました。
中間管理職とは経営と現場の翻訳を担う層
中間管理職とは、部長から課長、マネージャーまでを含む、経営の方針を現場の業務に変換する層のこと。上からは数字と方針が降り、下からは人と業務の現実が上がる。その両方を一人で受けます。
負担の話をするときに混ざりやすいのが、業務量の負担と、判断の負担です。業務量は担当する案件の数や時間で測れます。判断の負担は、相反する要求のどちらを取るかを決め続けることから生まれ、時間では測れません。
板挟みという言葉が指しているのは後者。業務を減らしても、相反する要求が残っていれば判断の負担は消えません。
中間管理職の負担が増えた3つの構造
負担が増した理由を、制度・業務配分・評価の3つに分けます。順に見ていきます。
構造1 労働時間の上限規制と育成責任が同時に課された
2019年から順次適用された働き方改革関連法により、時間外労働に罰則つきの上限が設けられました。建設業や運送業など、猶予されていた業種も2024年4月から対象になっています。
上限そのものは必要な規制。問題は、時間を減らす要求だけが先に来て、業務量と育成責任はそのまま残されたことにあります。
リデザインワークの人事制度設計支援で、ある建設業の人材育成担当者から次のように聞いています。労働時間の上限規制により、現場の管理職が「残業を減らす」と「若手を育てる」の矛盾に直面している。
ベテランのトレーナーは自分でやったほうが早いと考え、若手のトレーナーは教えることへのインセンティブを感じにくい。この会社では、新しい人事制度で人材育成期間の6年前倒しまで求められていました。
時間の上限は下がり、育成の要求は上がる。挟まれているのは管理職一人です。
構造2 育成にかかる時間が業務量に計上されていない
2つ目は業務配分。若手に任せると、短期的には時間が増えます。説明する時間、途中で確認する時間、手戻りを直す時間。慣れた人が自分でやる場合の1.5倍から2倍はかかる。
にもかかわらず、この増加分を業務量として見込んでいる会社はほとんどありません。課の目標は、育成にかかる時間を織り込まずに設定されます。管理職は、目標を達成しながら育成の時間を自分で捻出することになる。
捻出できる先は自分の時間しかないため、結果として管理職の労働時間だけが延びます。上限規制がそれを許さなくなった今、削られるのは育成の側です。
構造3 育成への関わりが評価に反映されていない
3つ目が評価。ここが最も根にあります。
前出の建設業の担当者の言葉が、構造を言い当てていました。育成への関わりが人事評価に反映されていないことが根にある。評価されないことに時間を使い続けられる人は多くありません。
ベテランが「自分でやったほうが早い」と考えるのは、怠慢ではなく評価に沿った判断です。若手のトレーナーが教えることに意欲を持ちにくいのも同じ理由。評価の設計が、合理的な行動として育成の回避を選ばせている状態になっています。
3つの構造の関係を整理する
3つは並列ではなく、因果でつながっています。
| 構造 | 何が起きるか | 次に何を生むか |
|---|---|---|
| 労働時間の上限規制 | 使える時間の総量が減る | 何かを削る必要が生まれる |
| 育成時間が業務量に入っていない | 育成は目標外の活動になる | 削る対象の第一候補になる |
| 育成が評価に入っていない | 削っても本人は損をしない | 削る判断が定着する |
削る判断が定着すると、若手が育たない。育たないので任せられない。任せられないので管理職の業務が減らない。この循環は、プレイングマネージャーの限界でも同じ形で現れます。
外す順番は業務量への計上から
3つのうち、規制は変えられない。会社側で動かせるのは構造2と構造3です。
先に着手すべきは構造2(業務量への計上)です。評価制度の改定は半年から1年かかる一方、育成にかかる時間を課の目標設定に織り込むのは、次の期から始められます。
具体的には、次の3つを決めます。
- 育成にかかる時間を見積もる。新人1人につき月何時間を育成に使う想定かを、数字で置く
- その時間を課の業務量から差し引く。目標設定の際に、育成分を除いた稼働で達成できる水準にする
- 差し引いた事実を本人と上長で共有する。見えない配慮ではなく、合意された条件にする
この3つがないと、育成は管理職の善意で支えられる活動のままです。善意は上限規制に勝てません。
構造3(評価への反映)は時間がかかりますが、着手しなければ構造2の効果も長続きしない。評価項目に育成を入れるだけでなく、昇格判断でどれだけ重みを持つかまで決める必要があります。
項目として存在するのに結果に反映されない状態が、最も行動を変えません。評価基準の設計については管理職の役割定義でも扱っています。
負担が集中している箇所を業務配分から特定する
どの管理職に負担が集中しているかは、感覚では分かりません。次の4つを課ごとに並べると、集中の度合いが見えます。
| 見る項目 | 何が分かるか |
|---|---|
| 課長が直接持っている案件の数と金額 | プレイヤーとしての負荷 |
| 直属の部下の人数 | マネジメントの対象範囲 |
| 直近1年で配属された新人の人数 | 育成にかかる時間 |
| 課全体の時間外労働の平均 | 現在の逼迫度 |
4つすべてが平均を上回っている課が、板挟みの中心にいる。この4つを並べただけで、どの課から手を入れるかの順番が決まります。
多くの会社では、案件の配分と新人の配属が別々に決められています。営業成績の良い課に大型案件が集まり、同じ課に「教えられる人がいるから」と新人も配属される。両方が重なった課が最初に壊れます。案件配分と人員配置を同じ会議で決めるだけでも、集中は避けられます。
管理職の負荷を下げるところから、空いた時間を何に使うかまでを含めて整理したのが、資料『AI時代の人事評価制度改定』です。等級・評価・報酬をつなげて設計する手順と、移行で起きる論点をまとめています。
なお、育成の評価への反映と業務配分の見直しは、リデザインワークの人事制度設計支援でも無料でご相談を承っています。
中間管理職の板挟みは、本人の調整能力では解けません。時間の上限は下がり、育成の要求は上がり、そのどちらも評価には結びついていない。3つが同時に成り立っているかぎり、誰が課長になっても同じ場所で詰まります。
まず、新人1人あたり月何時間を育成に使う想定なのかを数字で置くところからです。その数字がないまま「育てろ」と言い続けている会社が、実際には多く残っています。
管理職が部下にどこまで任せてよいかの線をどう引くかは、権限委譲が進まない理由で詳しく説明しています。






