コンピテンシー評価の運用|導入5ステップ・目標管理との違いと、評価者で差が出ない目線合わせ
評価会議で、ひとりの部下の評価に30分かかる。「Aさんは4でいいと思う」「いや、他部門と比べると3では」。同じ行動を見ているのに、点数が一致しない。コンピテンシー評価を入れた会社でよく起きる状況です。
項目の設計そのものは、外部の雛形を使えば数週間で形になります。ところが運用が始まると、評価者ごとの解釈の幅が表に出ます。ここで手を打たないまま2回、3回と評価を重ねると、被評価者の側も「上司によって点数が違う」と気づき、制度への納得が失われます。
原因は評価者の力量ではありません。判断に必要な材料と手順を、会社が用意していないことにあります。
この記事では、コンピテンシー評価と目標管理の違いを整理したうえで、導入の5ステップ、評価者で差が出る2つの原因、評価前の目線合わせの進め方を順に説明します。
最後に、評価会議の前に評価者へ配る目線合わせシートの項目を載せました。そのまま社内の様式に写せる形にしてあります。
コンピテンシー評価とは行動の事実を確認する評価
コンピテンシー評価は、成果につながる行動が実際に取られていたかを確認する評価です。成果そのものではなく、成果に至る過程を対象にします。
行動を対象にする利点は2つあります。ひとつは、外部環境に左右されにくいことです。市況が悪く数字が届かなかった期でも、正しい行動を取っていれば評価できます。もうひとつは、育成につながることです。何をすればよいかが行動として示されるため、面談での指導が具体的になります。
コンピテンシーという考え方そのものについては、コンピテンシーとはで意味と成り立ちから整理しています。
コンピテンシー評価と目標管理は測るものが違う
多くの会社は、コンピテンシー評価と目標管理制度を併用しています。ところが両者の役割を分けていないと、同じ内容を二重に評価することになります。
| 項目 | コンピテンシー評価 | 目標管理(MBO) |
|---|---|---|
| 測るもの | 成果につながる行動 | 期初に立てた目標の達成度 |
| 期間 | 半期から通年で継続的に | 期ごとに設定して締める |
| 環境の影響 | 受けにくい | 受けやすい |
| 主な用途 | 昇格の判断と育成 | 賞与の配分 |
| 弱点 | 行動の記録がないと判断できない | 目標の難易度をそろえにくい |
この分け方の要点は、用途を分けることです。コンピテンシー評価を賞与に直結させると、評価者は点数の分布を気にして行動の事実から離れます。昇格の判断材料に置くほうが、制度の趣旨と一致します。
コンピテンシー評価の導入は5ステップ
導入の手順は次の5つです。項目づくりは3番目で、その前に2つの工程があります。
- 用途を決める … 昇格・育成・賞与のどれに使うかを先に決めます。ここが曖昧だと、評価項目の粒度も決まりません。
- 対象範囲を決める … 全社共通の項目と、職種別や等級別の項目をどう組み合わせるかを決めます。最初から職種別に細かく分けると、更新の負担が大きくなります。
- 項目と段階を作る … 高い成果を出している人の行動から抽出します。段階は程度を表す形容詞ではなく、行動の範囲と難易度で書きます。
- 評価者の目線を合わせる … 実際の事例を使って、複数の評価者が同じ点数をつけられるかを確かめます。この工程を飛ばすと、初回から差が出ます。
- 試行してから本番運用に入れる … 1期は処遇に反映せず、評価だけを行います。項目の使いにくさは、実際に評価してみないと出てきません。
5つのうち、実務で最も飛ばされるのが4番目です。項目が完成した時点で導入したと考えてしまうためです。しかし運用が崩れるのはここからで、目線合わせの有無が初回の納得感を決めます。
コンピテンシー評価で評価者の差が出る2つの原因
評価者による差は、大きく2つの原因から生まれます。それぞれ対処が違うため、分けて見ます。
原因1 基準の解釈が人によって違う
段階の記述が抽象的だと、評価者は自分の経験で補います。厳しい上司の下では3、寛容な上司の下では4になり、被評価者から見れば運の問題になります。
対処は基準の書き直しです。「主体的に」「高いレベルで」といった程度の表現を、行動の範囲に置き換えます。自部門の課題か、他部門と利害が対立する課題か。この差であれば、解釈の幅はほとんど生まれません。
原因2 判断の材料が記憶しかない
半期を振り返って評価する際、評価者が思い出せるのは直近1か月ほどの出来事です。すると、期末に目立った行動が評価を左右します。
対処は記録です。四半期に1度、部下ごとに「その期間で該当した行動」を2行程度で残してもらいます。分量を増やすと続かないため、短く書ける様式にすることが前提です。
原因1は設計で外れ、原因2は運用で外れます。そして原因1を直さないまま記録だけを増やしても、解釈の幅は残ります。順番としては、基準の書き直しが先です。
コンピテンシー評価のメリットとデメリット
導入を検討する段階で、両面を押さえておきます。
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 成果に至る過程を評価できるため、環境に左右されにくい | 行動の記録がないと評価できず、運用の手間が増える |
| 何をすればよいかが行動で示され、育成の会話が具体的になる | 項目が多いと評価者が把握しきれず、形だけの運用になる |
| 昇格の判断根拠を示しやすく、本人への説明ができる | 事業が変わったときに項目の更新が必要になる |
デメリットの3つは、いずれも運用の負荷に関するものです。したがって導入の可否より、続けられる形に絞れるかが判断の分かれ目になります。項目数と記録の分量を最初に決めておくことをおすすめします。
コンピテンシー評価の目線を合わせる事前会議
導入の5ステップのうち、4番目の目線合わせは次の進め方で行います。評価会議の2週間前を目安に、1時間で終わる設計にします。
まず、実在の事例を2つから3つ用意します。匿名にした行動の記録を用意し、評価者それぞれに点数をつけてもらいます。次に、点数を一斉に開示します。ここで差が出た項目が、解釈の幅がある項目です。
その後、なぜその点数にしたかを聞き取り、判断が分かれた理由を基準の文言に戻して確認します。基準の書き方に原因があると分かった項目は、その場で修正の候補として記録します。
配る目線合わせシートの項目は次の通りです。
- 評価する項目名と、レベル2から5までの基準文
- 匿名化した行動の記録(1事例あたり5行程度)
- 各評価者がつけた点数と、その根拠にした行動
- 差が出た項目と、基準文のどの表現が原因だったか
- 次回までに修正する基準文の案
この記録を残しておくと、翌期の目線合わせが短くなります。3期ほど続けると、差が出る項目はかなり絞られます。
コンピテンシー評価は目線合わせまでを制度に含める
コンピテンシー評価が続くかどうかは、項目の完成度ではなく、評価者が同じ基準で判断できる状態を作れるかで決まります。
制度の設計を外部に委託した場合も、目線合わせの工程は社内に残ります。ここを制度の一部として年間予定に組み込んでおくと、運用は安定します。
すでに導入していて差が出ている場合は、基準文の程度表現を探すところから始めると、直す箇所が具体的に見つかります。
制度全体の設計手順はAI時代の人事評価制度の設計方法で解説しています。
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