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就業規則を生成AIで改定する方法|法改正の差分チェック・説明文の作成と社労士に残す判断

部長から「10月から施行されたカスハラ対策、うちの就業規則は大丈夫か」と聞かれた。手元の生成AIに就業規則を貼り付け、法改正に合わせて直してほしいと頼むと、それらしい改定案が数十秒で返ってくる。ただ、どの法令のどの条文を根拠にした案なのかが分からず、このまま部長に出してよいか判断できません。

就業規則の見直しが必要になる法改正は続いている。厚生労働省によると、カスタマーハラスメントと求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止措置が事業主の義務となり、令和8年10月1日に施行されました。モデル就業規則も令和7年12月に改訂された。

この記事を読み終えると、就業規則の改定作業のうち、生成AIに任せる作業と人が持つ判断を分け、社会保険労務士に確認する範囲を決められます。任せる作業の一覧、AIが誤る理由、渡す資料、差分を洗い出す手順、届出までの手続きの順に説明する。

記事の最後には、改正の原文と自社の条文を貼り付けると、関係する条文と不足している記載を表にするAIへの指示文を載せました。就業規則に限らず、労務の業務全体でAIに任せる範囲を先に知りたい場合は、労務業務のAI活用で層に分けて解説しています。

就業規則の改定で生成AIに任せる作業と任せない判断

就業規則の改定は、改正内容の確認から周知まで、いくつもの作業に分かれる。生成AIに任せられるのは、文書を読み比べる作業と、文章の下書きを作る作業です。

作業 生成AIに任せる範囲 人が持つ判断
法改正との差分の洗い出し 改正の原文と現行の条文を照合し、関係する条文と不足を一覧にする 改定するかどうか、どう定めるか
改定案の文案 規定例を参考に文案と新旧対照表を下書きする 自社の運用との照合、労働者に不利益な変更に当たるか
条文の説明文 社員向けに平易な説明文を作る 説明が条文の意味と合っているか
社員の質問への回答案 該当する条番号と回答案を出す 条文に書かれていない事項と個別の事情への回答
意見聴取 労働者代表への説明資料を下書きする 説明と意見の聴取そのもの
届出と周知 提出書類の点検項目と周知文を下書きする 届出と、周知の方法と時期の決定

表の右の列は、どれも会社が責任を持つ判断と手続きです。就業規則は法令や労働協約に反してはならないと労働基準法第92条が定めている。AIの文案を使う場合も、法令に合っているかを確認する役割は会社に残ります。

左の列で時間がかかっているのは、改正の資料を読み、自社の条文を探し、差を書き出す作業です。生成AIに任せると、この照合と書き出しの時間が短くなる。

法改正がなくても生成AIでチェックできる就業規則の4つの不備

照合の作業は、改正の有無にかかわらず、現行の就業規則の点検にも使えます。法令が定める記載事項や条文どうしを読み比べて見つかる不備は、次の4つです。

点検する不備 生成AIに確認させる内容
必ず記載する事項の漏れ 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、賃金の決定・計算・支払の方法、賃金の締切りと支払の時期、昇給、退職(解雇の事由を含む)の記載があるか。交替制の場合は就業時転換も
条番号の参照のずれ 「第◯条に定める」の参照先が、条の追加や削除の後も正しい条を指しているか
用語の不統一 従業員・社員・労働者など、同じ対象を指す語が混在していないか
本体と別規程の食い違い 本体と育児・介護休業規程や賃金規程で、日数や手続きの記載が食い違っていないか

1つ目の事項は労働基準法第89条が定めるもので、厚生労働省の解説は休暇に関する事項を絶対的必要記載事項と呼んでいます。2つ目から4つ目は法令の知識を使わず、渡した文書の中だけで確認できる。AIの指摘が正しいかを、人が条文を開いてすぐに確かめられる点検です。

生成AIに就業規則の法改正対応を尋ねると誤る3つの理由

冒頭のように、就業規則を貼り付けて法改正に合わせて直してほしいと頼むと、AIはもっともらしい改定案を返します。誤りが混ざる理由は大きく3つで、AIが知っている法令の時点、渡した規程の範囲、規程の外にある運用です。

理由1 生成AIの回答は学習した時点の法令に基づく

1つ目は情報の時点です。生成AIの回答は、学習したデータの時点の情報をもとに作られる。検索機能を使わない場合、その後に公布や施行があった改正は回答に入らないことがあります。

厄介なのは、改正を知らなくても改定案の文章は整って見えることです。古い要件のまま書かれた条文も、新しい要件で書かれた条文も、読んだだけでは区別がつかない。

対策は、AIに法改正の内容を尋ねるのをやめ、厚生労働省のリーフレットや指針の原文を渡して照合させることです。法令の知識を問う作業を、2つの文書を読み比べる作業に変えると、AIの出力を人が原文で確かめられます。

理由2 就業規則の本体だけでは規程の全体にならない

2つ目は、AIに渡す規程の範囲です。厚生労働省のモデル就業規則も、育児・介護休業等を本体とは別の規程に定める形式をとる。

同じモデル就業規則の解説は、本体と別に定めた場合もその規程は就業規則の一部になり、届出が必要になると説明しています。本体だけをAIに渡すと、別規程にある条文は照合の対象から外れる。

対策は、本体・別規程・関係する労使協定を一式で渡し、それぞれの版と施行日を添えることです。

理由3 規程に書かれていない運用と労使の経緯をAIは知らない

3つ目は、規程の外にある情報です。条文と実際の運用がずれている箇所や、過去に労働組合と協議した経緯は、文書を渡さない限りAIには分からない。

規程の外にある運用や経緯は、労働者に不利益な変更に当たるかの判断に関わります。

労働契約法第10条は、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、変更が不利益の程度、変更の必要性、内容の相当性、労働組合等との交渉の状況などに照らして合理的なものであるときに、労働条件は変更後の就業規則によるとしています。交渉の状況を知らないAIに、この判断はできない。

対策は、AIに不利益変更かどうかを判断させず、該当しうる箇所を挙げさせるまでにとどめ、判断は人と社会保険労務士が行うことです。

就業規則の改定で生成AIに渡す資料と渡さない情報

3つの理由への対策を整理すると、AIに渡す資料は増える一方、渡してはいけない情報もはっきりする。

区分 資料と情報の例 扱い
渡す資料 就業規則の本体・別規程・労使協定(版と施行日つき) 入力した内容を学習に使わない法人向けの環境で渡す
渡す資料 改正のリーフレット・指針・モデル就業規則の規定例 公開資料なのでそのまま渡す
渡さない情報 社員の相談内容、懲戒や紛争の個別の事案 氏名を外しても事案から人が分かる場合は渡さない
渡さない情報 健康状態や病歴、労使交渉の記録 生成AIには入力せず、不利益変更の検討は人が行う

個人情報保護委員会は、生成AIサービスの利用に関する注意喚起で、本人の同意を得ずに個人データを含むプロンプトを入力する場合は、サービスを提供する事業者がその個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認するよう求めています。

人事の情報を区分ごとに入力してよいか決める方法は、人事部の生成AI導入で詳しく扱いました。

どの資料をどの環境に渡してよいかが社内で決まっていないと、担当者は使ってよいかの確認で手を止める。活用とルールを同時に整える進め方と、最初に押さえる3つのガバナンスを整理したのが、資料『AI活用がガバナンスの不安で進まない企業への処方箋』です。

AI活用がガバナンスの不安で進まない企業への処方箋
お役立ち資料|AX(AI活用)推進

AI活用がガバナンスの不安で進まない企業への処方箋

現場からAIを使いたいという声は出ているのに、ルールが無いという一言で止まる。完璧なガバナンスの完成を待っているからです。AX推進責任者が最初に押さえるべき3つのガバナンスと、活用とルールを同時に育てる進め方を解説します。

資料をダウンロード

なお、就業規則の改定でのAIの使い方は、リデザインワークのAX支援でも無料でご相談を承っています。

法改正と就業規則の差分を生成AIで洗い出す5つの手順

渡す資料が決まったら、差分の洗い出しに入る。ここでは、令和8年10月1日に施行されたカスタマーハラスメント対策を例にします。

  1. 改正の原文を集める 厚生労働省のリーフレット、指針、モデル就業規則の規定例を集める。カスタマーハラスメントなら、令和8年厚生労働省告示第51号の指針が中心になる
  2. 自社の規程を一式集める 本体・別規程・労使協定を、版と施行日がわかる形で用意する
  3. AIに照合させる 改正の要点ごとに、関係する条文・現行の記載・不足している記載・確認が必要な点を表にさせる
  4. 人が改定の方針を決める 表の不足の欄を見て、規程を変えるか、社内報など別の文書で対応するかを決める
  5. 新旧対照表と説明資料を下書きさせる 決めた方針で文案を作らせ、労働者代表への説明と社員への周知に使う

手順1の指針は、事業主が講ずべき措置として、方針の明確化と周知・啓発、相談に応じ適切に対応するための体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応、抑止のための措置、相談者のプライバシーの保護などを挙げています。

手順4で、規程を変えるかどうかを人が決めるのには理由があります。

たとえば指針は、相談を理由に解雇などの不利益な取扱いをされない旨を定めて周知する措置について、就業規則などの文書に規定する方法と、社内報やパンフレットなどに記載して配布する方法を、それぞれ例に挙げている。照合の結果に不足と出ても、就業規則の改定だけが対応の方法とは限りません。

自社の規程をモデル就業規則と比べて確認している会社は、比べる相手にも注意が必要です。

令和7年12月版のモデル就業規則のハラスメントの条文は、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するもの、その他あらゆるハラスメントの4つで、顧客等からの言動に関する規定例は見当たりません(2026年10月時点)。

モデル就業規則と比べて差がなくても、令和8年10月に施行された改正に対応できているとは判断できない。

照合の相手は、必ず改正後の原文にします。法務の部門で改正の影響範囲を先に特定する進め方は、法務のAI活用でも扱っています。

就業規則の条文の説明文と社員の質問への回答案を生成AIで作る

改定した条文を周知すると、社員から質問が来る。条文を平易な説明文に直す作業と、質問への回答案は、生成AIが短時間で下書きできる作業です。

例として、モデル就業規則の第23条第5項(年次有給休暇の時季指定)を説明文にします。

  • 条文 第1項又は第2項の年次有給休暇が10日以上与えられた労働者に対しては、第3項の規定にかかわらず、付与日から1年以内に、当該労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。(ただし書きは省略)
  • 説明文 年10日以上の有給休暇が付与された人は、付与日から1年以内に5日を取得します。自分で申請した日と、労使協定で計画的に取得した日は5日に含めます。5日に届かない見込みのときは、会社があなたの希望を聞いたうえで取得日を指定します。

AIの回答案で誤りが出やすいのは、条文に書かれていない質問への回答になる。「時間単位で取った有給は5日に入りますか」と聞かれても、第23条第5項には時間単位の扱いが書かれていません。厚生労働省の解説では、時間単位の取得分は5日から差し引けないとされています。

AIに回答案を作らせるときは、根拠の条番号を必ず添えさせ、条文にない事項は人事に回すと書かせます。条文から推測した回答は、正しくても誤っていても同じ調子で返ってくる。社員が自分で判断できる文書の作り方は、人事への問い合わせを減らす方法で扱っています。

就業規則の届出・意見聴取・周知は人が行い社労士に確認する範囲を決める

文案が固まった後の手続きは労働基準法が会社に求めるもので、手続きそのものに生成AIは関わらない。手続きを条文で確認しておきます。

手続き 定め 実務の注意
作成と届出 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し行政官庁に届け出る。変更した場合も同じ(第89条) 企業単位でなく事業場単位で作成と届出を行う。電子申請も可能
意見聴取 過半数で組織する労働組合、ない場合は過半数を代表する者の意見を聴き、届出に意見を記した書面を添付する(第90条) 過半数代表者は管理監督者でない者を、投票や挙手などで選ぶ
周知 掲示・備え付け・書面の交付などで労働者に周知する(第106条) 作成や意見聴取だけでは効力は発生しないと解されている

表の実務の注意の欄は、厚生労働省のモデル就業規則の解説によります。生成AIが手伝えるのは、労働者代表に渡す説明資料、新旧対照表、周知の文面の下書きに限られる。

社会保険労務士に確認する範囲も、作業の前に決めておきます。社会保険労務士法第2条は、労務管理などの相談・指導を社会保険労務士の業務とし、就業規則の遵守の状況を監査することもそこに含めています。

社内で行うこと 社会保険労務士に確認すること
改正の原文と規程を集め、AIで差分の表を作る 差分の表のうち、法令の要件を満たしているかの判断
改定の方針と文案を決める 労働者に不利益な変更に当たるか、当たる場合の進め方
説明文と回答案を作り、条番号と照合する 条文に書かれていない事項への回答の方針
意見聴取・届出・周知を行う 届出書類の内容と添付書類

社会保険労務士に渡すのは、文案だけでなく差分の表と根拠の原文です。確認する側は、何をどの資料に基づいて変えたのかを順に追えるため、確認の往復が減る。

リデザインワークのAX支援では、規程の照合や回答の作成をAIに任せる前に、AIが出したものを誰がどの資料で確認するかを手順書に書き、人事の担当者だけで続けられるようにします。

法改正と就業規則の差分を洗い出すAIへの指示文

ここまでの手順3で使う指示文です。改正の原文と自社の条文を貼り付けて使います。社員の個別の事案は入れない。

あなたは人事労務の実務に詳しい担当者です。
次の【改正の原文】と【自社の規程】を照合し、就業規則の見直しが必要な箇所を洗い出してください。
法令の内容は【改正の原文】だけを根拠にし、あなたの知識で補わないでください。

【改正の原文】
(厚生労働省のリーフレット・指針・規定例の該当部分を貼り付け。資料名と公表日も書く)

【自社の規程】
(就業規則の本体・別規程・労使協定の該当部分を貼り付け。規程名・版・施行日も書く)

【出力】
1. 改正の要点ごとに、次の列の表を作ってください。
   ・改正の要点(原文の該当箇所を引用)
   ・関係する自社の条文(規程名と条番号)
   ・現行の記載
   ・不足または矛盾している点
   ・人が確認すべき点
2. 改正の要点に関係する条文が自社の規程に見つからない場合は、「該当なし」と書いてください。
3. 労働者に不利益な変更に当たる可能性がある箇所は、判断せずに「要確認」として挙げてください。
4. 就業規則以外の方法(社内報・社内ホームページ等)で対応できると原文に書かれている要点は、その旨を添えてください。
5. 【改正の原文】に書かれていない事項は推測せず、「原文に記載なし」と書いてください。

出てきた表は、そのまま社内の検討資料と社会保険労務士への確認資料になります。「該当なし」と「要確認」の行が、人が判断する箇所の一覧になる。

続けて、確定した条文の説明文と想定質問を作らせる場合は、次の指示を足します。

確定した条文ごとに、社員向けの説明文を3文以内で作ってください。
あわせて、社員から出そうな質問を3つ挙げ、条文から答えられる質問には条番号つきで回答案を書き、
条文から答えられない質問には「人事に確認」と書いてください。

就業規則の生成AI活用は改正の原文を渡すことから始める

生成AIで就業規則を改定するというと、AIに改定案を書かせる場面が思い浮かぶ。しかし時間を減らせるのは、改正の原文と自社の規程を読み比べ、差を書き出す作業のほうです。

次の改正に備えて、自社の就業規則の本体・別規程・労使協定を、版と施行日がわかる形で1つのフォルダにまとめておいてください。生成AIの利用ルールを社内でまだ決めていない場合は、生成AI導入ガイドラインの作り方で最小限の項目を確認できます。

リデザインワーク 編集部

リデザインワークは、仕組みを変え、行動を変え、企業成長と多様な個人の活躍が同時実現できる企業づくりを、HRコンサルタントとAIプロダクトで支援する会社です。経営戦略と一貫した人事戦略を描くだけでなく、それが現場に定着し行動が変わるまで伴走する中で得た知見やノウハウを発信しています。

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