離職予兆の分析方法|サーベイ・勤怠・評価データの使い方と、個人を名指しすると本音の回答が減る理由
経営会議で、入社2年目の社員がまた1人辞めたと報告した。社長からは「辞める前に分からなかったのか。サーベイも入れているだろう」と聞かれる。退職者の勤怠を遡ると、半年前から残業が増えていた。データはあったのに、誰も見ていなかったことになります。
若手の離職は、特定の会社だけで起きている問題ではありません。厚生労働省によると、2022年3月に大学を卒業して就職した人のうち33.8%が、就職後3年以内に離職しています(新規学卒就職者の離職状況、2025年10月公表)。高校卒では37.9%でした。
大卒でも3人に1人が3年以内に職場を離れる計算で、人事が兆候を早く知りたいと考えるのは自然なことです。ただ、辞めそうな個人を当てる分析は、手を打てる時期に間に合わないことが多い。離職予兆の分析で先に見るべきは、誰が辞めそうかより、どの職場で離職が続いているかです。
この記事を読み終えると、手元のサーベイ・勤怠・評価のデータを、どの単位で、どの順に並べれば、離職と上司のマネジメントや業務量との関係を経営に説明できるかが分かります。離職予兆の意味、使うデータ、分析が間に合わない3つの理由、5つの手順、個人情報の注意点、見つけた後の対応の順に説明する。
記事の後半には、部署ごとの離職率とサーベイの点数を並べた表を貼り付けると、離職が多い職場に共通する条件と、上司に確認する質問の案が出るAIへの指示文を載せました。エンゲージメントの低下が離職率に表れるまでの段階は、従業員エンゲージメントとはで整理しています。
離職予兆とは退職の申し出より前に表れる意識と行動の変化
分析の方法に入る前に、離職予兆という言葉の意味を確認します。
離職予兆とは、社員が退職を申し出るより前に、仕事への意識・勤務の行動・業績に表れる変化のことです。離職の兆候という言い方も、ほぼ同じ意味で使われる。
よく挙げられる兆候は、会議での発言が減る、有給休暇の取得が急に増える、評価や昇進への関心が薄れる、といったものです。これらを人事が持つデータのどれに表れるかで分けると、次の3つになります。
| 兆候の種類 | 例 | 表れるデータ | 人事が把握できる単位 |
|---|---|---|---|
| 意識の変化 | 上司への信頼が下がる・成長を感じなくなる・勤め続ける意向が薄れる | エンゲージメントサーベイ・パルスサーベイ | 匿名なら部署や階層の集計 |
| 行動の変化 | 残業の急増・有給休暇の取得の偏り・遅刻や欠勤の増加 | 勤怠データ | 個人ごと |
| 成果の変化 | 業績の低下・目標の未達・評価の下降 | 人事評価・目標管理の記録 | 個人ごと |
3つのうち、行動と成果の変化は個人ごとの記録として会社に残ります。一方で意識の変化は、サーベイを匿名で実施していれば個人には結びつかない。この違いが、後で説明する個人を名指ししない運用の根拠になります。
チャットの発言量などやり取りの分析は、社員への説明と個人情報の整理が別に必要になるため、この記事では扱わない。
離職予兆の分析に使うデータはサーベイ・勤怠・評価の3種類
3つの兆候に対応して、分析に使うデータも3種類になります。分かることだけでなく、更新の頻度と分析できる単位が違う。
| データ | 分かること | 更新の頻度 | 分析の単位 | 読むときの注意 |
|---|---|---|---|---|
| エンゲージメントサーベイ | 上司との関係・業務量・成長実感・勤め続ける意向 | 年1〜2回(パルスサーベイなら毎月) | 部署・階層ごとの集計 | 5名未満の単位は公表しない |
| 勤怠データ | 残業時間・休日出勤・有給休暇の取得・遅刻と欠勤 | 毎月 | 個人と部署 | 繁忙期による増減を除いて読む |
| 人事評価・異動の記録 | 評価の推移・昇格の有無・異動の履歴・上司の変更 | 半年〜1年 | 個人と部署 | 評価の時期まで変化が分からない |
3種類のうち、タレントマネジメントシステムに入っているのは主に評価と異動の記録です。リデザインワークは、タレントマネジメントシステムの導入を検討しているあるメーカーの人事担当者から、データを眺めるだけでなく、ハイパフォーマーの傾向と離職の予兆を個人名で把握したい、という要望を聞いています。
等級・評価・異動歴は、いつ何があったかを記録した情報です。本人がいま上司や仕事をどう受け止めているかは入っていない。評価や異動の記録だけで離職予兆を探すと、変化に気づけるのは評価の時期か、退職の申し出の後になります。
本人の受け止め方を把握するにはサーベイが必要です。勤怠は毎月更新されるため、評価の時期を待たずに変化を確認できる。サーベイで何を測るかの全体像は、エンゲージメントサーベイとはで扱っています。
離職予兆の分析が手を打てる時期に間に合わない3つの理由
データがそろっていても、離職予兆の分析が対応につながらない会社は少なくない。理由は大きく3つあります。
理由1 個人の離職をよく予測するデータほど退職に近い時期に表れる
1つ目は、予測に強いデータが表れる時期の問題です。米国の研究者らが1995年にまとめた離職研究の統合分析を、1990年代に発表された研究42件を加えて更新した分析(Griffethら、2000年)があります。どの要素が実際の離職をどれだけ予測するかを調べている。
離職を最もよく予測する要素に含まれていたのは、仕事への満足度、会社への愛着、転職活動、ほかの選択肢との比較、退職についての考えや意思でした。いずれも、辞めるまでの過程で退職に近い位置にある要素とされています。
一方、仕事の内容・ストレス・職場のまとまり・裁量・上司のリーダーシップといった職場の条件は、予測の強さが小から中程度にとどまった。遅刻・欠勤・業績も、離職に先立って表れうる行動として挙げられています。
個人を当てる精度を上げようとするほど、本人が転職を考え始めた後の情報に頼ることになります。転職活動を始めた段階で分かっても、引き留めに使える時間は限られる。逆に職場の条件は、1人の離職を当てる力は弱くても、会社が変えられる要素です。
理由2 離職を部署や上司の単位で数えていない
2つ目は、離職を数える単位の問題です。ある人材サービス会社の人事担当者から、リデザインワークは次のように聞いています。
自社とグループ会社でタレントマネジメントとサーベイのツールを導入済みだが、若手の離職と部長のマネジメントの因果関係を社内で説明できない。経営層が組織のマネジメントを人事に任せきりにしている点も課題で、ツールだけでは経営層を変えられないという懸念がある。
一般に、退職者を1人ずつの記録として見ている限り、離職と上司の関係は説明できません。退職者の一覧を人ごとに眺めても、どの部長の下で3年間に何人辞めたかは出てこないためです。若手の離職と上司の関係を説明するには、離職を上司の単位で数え、同じ単位のサーベイの点数と並べる必要があります。
理由3 個人を特定する目的でサーベイを使うと回答が本音でなくなる
3つ目は、サーベイの回答そのものが変わる問題です。回答が自分の評価や、人事からの呼び出しに結びつくと分かれば、社員は無難な回答を選ぶようになる。
上司との関係の設問には高めの点を付け、勤め続ける意向の設問には「そう思う」と回答する。こうした回答が増えると、離職予兆の分析に使いたい変化そのものがサーベイに表れなくなります。個人を名指しする使い方は、次の回以降のデータの信頼性を下げる。
3つの理由と、それぞれを解消する方法を並べると次のとおりです。
| 理由 | 解消する方法 | この記事で扱う箇所 |
|---|---|---|
| 理由1 個人の予測に強いデータは退職に近い時期に表れる | 予測の対象を個人から職場に変え、職場の条件を測る | 5つの手順の1と3 |
| 理由2 離職を部署や上司の単位で数えていない | 離職率とサーベイを同じ単位で並べる | 5つの手順の2と4 |
| 理由3 個人の特定にサーベイを使うと本音でなくなる | サーベイは集計で使い、個人への対応は上司との面談で行う | 個人を名指ししない運用 |
離職予兆を個人の感じ方の問題として扱う限り、対応は面談での引き留めに偏ります。業務量や上司との関係など、そう感じさせている職場の構造を課題として立てる方法を、支援事例とあわせて整理したのが、資料『現場が動き出す組織課題の見つけ方』です。
なお、離職予兆の分析の進め方は、リデザインワークのサーベイ活用支援でも無料でご相談を承っています。
離職予兆を部署と上司の単位で分析する5つの手順
3つの理由のうち、データの単位に関わる理由1と理由2は、分析の手順で解消できる。次の5つの手順で進めます。
- 説明したい離職を1つに決める 入社3年以内の若手、中堅の主任層、特定の職種など、対象を1つに絞る。全社の離職率だけでは職場ごとの差が見えない
- 部署と上司ごとに過去2〜3年の離職者数を出す 1年分では人数が少なく偶然の影響が大きいため、2〜3年分をまとめる。途中で上司が替わった部署は、上司ごとに期間を分ける
- 同じ単位でサーベイと勤怠の数字を並べる サーベイは上司との関係・業務量・成長実感の設問、勤怠は月平均の残業時間・休日出勤の日数・有給休暇の取得率を並べる
- 離職が多い単位に共通する条件を探す 離職率の高い単位と低い単位で、どの数字に差があるかを比べる。条件が複数あるときは決定木分析で組み合わせを探す
- 条件を上司と人事で確認して対応を決める 数字の差に心当たりがあるかを上司に聞き、業務量・上司との関係・キャリアのどれに手を打つかを決める
手順3まで進めると、次のような表ができます。数値は説明のための架空のものです。
| 部署 | 若手の入社者(3年間) | うち離職者 | 上司との関係(5段階) | 業務量の適正さ(5段階) | 月平均の残業時間 |
|---|---|---|---|---|---|
| 営業1課 | 7名 | 3名 | 2.8 | 2.6 | 38時間 |
| 営業2課 | 6名 | 1名 | 3.9 | 2.7 | 36時間 |
| 開発課 | 8名 | 1名 | 3.6 | 3.4 | 22時間 |
営業1課と営業2課は、残業時間も業務量の点数もほぼ同じです。差があるのは上司との関係の点数で、離職と関係していそうな条件は業務量より上司との関係だと読めます。
ただし人数が少ないため、手順5で上司に確認するまでは仮説として扱う。数字が示すのは確認すべき職場と論点までで、原因の断定ではありません。原因は上司への確認で絞り込みます。
部署と階層を掛け合わせると、1つの単位が数名になることがあります。5名を下回る単位は個人が特定されうるため、近い部署とまとめて集計する。人数の扱い方はサーベイのクロス集計で整理しています。
手順4で条件の組み合わせを探す方法は、サーベイの決定木分析で扱っています。施策をどの職場に当てるかをデータから割り出す決定木分析の指示文を全文載せたのが、資料『優先順位が分かる「決定木分析」プロンプト』です。
離職予兆の分析で個人を名指ししない運用と本人の扱い
5つの手順で解消できないのが、3つ目の理由だった本音の回答の問題です。こちらは分析の手順ではなく、データの扱い方の決めごとで防ぐ。
先に触れた、離職の予兆を個人名で把握したいという要望は、人事の立場からはもっともなものです。ただ、個人名で把握する手段をサーベイに求めると、理由3のとおり回答が変わる。
個人の状況は上司との面談と勤怠の事実で把握し、サーベイは職場の集計にだけ使う。この分担なら、サーベイの回答を守ったまま個人への対応もできます。
| データ | 個人名で見る人 | 使い方 | 使わない方法 |
|---|---|---|---|
| サーベイの回答 | なし(集計のみ) | 5名以上の単位で集計し、部署と上司に返す | 回答から個人を推定する・離職しそうな人の一覧を作る |
| 勤怠データ | 上司・人事の労務担当 | 残業や休日出勤の多い社員の業務量を上司が確認する | 離職リスクの印を付けて社内で回覧する |
| 評価・異動の記録 | 評価者・人事 | 異動や上司の変更の後に面談の機会を設ける | 評価の結果だけで退職の意向を推測する |
本人と話すときは、離職予兆やスコアという言葉を使いません。「辞めるつもりか」と聞くのではなく、業務量と、今後どんな仕事をしたいかを聞く面談にします。勤怠の変化をきっかけに話す場合も、話題は業務量と体調の確認です。
サーベイを記名で実施している会社では、回答を個人と結びつけること自体はできる。その場合も、実施の前に結果を誰がどの単位で見るかを社員に示し、示した範囲を超えて使わないことが条件になる。
離職予兆の分析で確認する個人情報の扱い
個人のデータを組み合わせる分析では、個人情報の扱いも確認が必要です。個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は3-1-1で、本人の行動・関心等の情報を分析する場合、どのような取扱いが行われているかを本人が予測・想定できる程度に利用目的を特定しなければならない、としています。
勤怠や評価のデータを組み合わせて離職の可能性を分析することが、ガイドラインの言う行動・関心等の情報の分析に当たるか、社内規程や社員への通知で利用目的をどう書くかは、自社の法務部門や顧問弁護士に確認しておきます。
ストレスチェックの個人の結果にも注意が必要です。労働安全衛生法第66条の10第2項は、検査を行った医師等が、本人の同意を得ないで検査の結果を事業者に提供してはならないと定めています(労働安全衛生法)。離職予兆の分析は、ストレスチェックの個人の結果を使わずに組み立てる。
離職予兆を検知するツールを使う場合に確認する3点
勤怠や評価のデータから離職の可能性をスコアにして示すツールもあります。使う場合は、導入前に次の3点を確認します。
- スコアの根拠を説明できるか どのデータのどの変化でスコアが上がったかが分からないと、上司は本人と何を話せばよいか判断できない
- スコアを見られる人を限れるか 閲覧できる範囲が広いと、社内でスコアが本人の評価のように扱われる
- スコアが出た後に誰が何をするかを決めてあるか 決めていなければ、通知が届くだけで対応が始まらない
離職予兆を見つけた後の対応は業務量・上司との関係・キャリアの3つ
名指ししない運用で職場の条件が分かったら、次は対応を決めます。手順4で見つかる条件は、多くの場合、業務量・上司との関係・キャリアのいずれかに分けられる。
| 条件 | 数字の表れ方 | 対応の例 | 主な担当 |
|---|---|---|---|
| 業務量 | 残業時間と業務量の点数がともに悪い | 人員の配分・業務の削減・繁忙期の応援 | 部長と人事 |
| 上司との関係 | 業務量は同程度で、上司との関係の点数だけが低い | 上司への結果の返却・面談の頻度と内容の見直し・管理職研修 | 人事と上司 |
| キャリア | 成長実感の点数が低く、異動が長く途絶えている | 異動の機会・キャリア面談・担当業務の変更 | 人事と部長 |
上司との関係が条件として出たときに避けたいのは、上司個人の責任として扱うことです。上司が部下の成長や意欲に使える時間を、業務量の中で持てていない場合もある。
部下の成長と意欲に関わる仕事を、業務の管理と分けて測る方法はピープルマネジメントとはで扱っています。残業の上限と若手の育成を同時に求められる管理職の負担は、中間管理職の負担が増える構造で整理しました。
部署と上司ごとの離職率をサーベイと並べた表は、経営に判断を求める材料になります。理由2で紹介した、経営層が組織のマネジメントを人事に任せきりにしている課題に対しても、この表があれば上司の配置や部署の人員を経営会議の議題にできる。
離職予兆の分析に使えるAIへの指示文
手順3で作った表があれば、手順4の条件探しと手順5の確認の準備は、AIに下書きさせられます。貼り付けるのは部署単位の集計だけにして、氏名・社員番号・個人ごとの回答は入れないでください。社内で利用が認められているAIを使います。
あなたは人事部門で離職の分析を担当する担当者です。
次の【部署別の集計表】をもとに、離職が多い職場に共通する条件を整理してください。
【説明したい離職】
(例)入社3年以内の社員の離職。期間は直近3年間
【部署別の集計表】
(部署名・対象人数・期間中の離職者数・離職率・サーベイの設問別の平均点・
月平均の残業時間・休日出勤の日数・有給休暇の取得率を、部署ごとに1行で貼り付け。
氏名や社員番号は入れない)
【出力】
1. 離職率が高い部署と低い部署で差が大きい数字を3つまで挙げ、差の大きさを示す
2. 1の差から考えられる条件を、業務量・上司との関係・キャリアのどれに当たるかを添えて仮説として書く
3. 対象人数が5名未満の部署、または離職者が1〜2名の部署は「人数が少なく判断できない」と明記する
4. 仮説ごとに、部署の上司に確認する質問を3つずつ作る。上司を責める聞き方を避け、業務量や体制の事実を聞く質問にする
5. 経営会議で報告するための要約を3行で書く
【注意】
・表にない数字を推測で補わない
・数字に差があっても原因とは断定せず、「関係していそうな条件」として書く
・個人を特定する推測をしない
4番で出てくる質問は、手順5で上司と話すときにそのまま使えます。AIが挙げた条件は仮説なので、上司の回答と勤怠の事実で確認してから対応を決めてください。
離職予兆の分析は個人の予測より職場の条件から始める
個人の離職をよく予測するデータは退職に近い時期に表れ、サーベイを個人の特定に使えば次の回から本音の回答が減る。離職予兆の分析で手を打てるのは、離職が続く職場に共通する条件のほうです。
まずは過去3年の若手の退職者を、退職時の上司ごとに数えてみてください。同じ上司の下に退職が集まっていれば、その職場の業務量と上司との関係から確認を始められます。サーベイの点数から自社の組織の状態を判定する方法は、エンゲージメントが低い会社の特徴で扱っています。







