エンゲージメントサーベイの乗り換え|費用が上がったときの比較の観点と、過去データを失わない移行手順
契約の更新を半年後に控えて、サーベイツールの会社から「来年度から1人あたりの単価を改定します」と案内が届いた。経営会議では、社長から「毎年この金額を払って、何が変わったのか」と聞かれている。乗り換えたいが、5年分の結果との比較が途切れないかが気になり、決めきれない。
同じ悩みは、ほかの会社でも起きています。サーベイの導入を支援するコンサルティング会社の営業担当から、リデザインワークは次のような話を聞いています。
主要なサーベイツールで価格の改定とプランの統一があり、費用が倍になった企業が代わりのツールを探し始めている。数千名規模の企業が数年使ってきたツールを替える背景には、高い費用を払い続けても、事業の成果を説明できないことへの経営層の疑問がある。
この記事を読み終えると、乗り換えるかどうか、何を基準に候補を選ぶか、解約までに何を書き出しておくかを決められます。今の契約で確かめる点、候補を比べる観点、過去データを失わない移行の手順の順に説明する。
後半には、契約更新日から逆算した日程表と、今の契約書を貼り付けると確かめる項目を洗い出すAIへの指示文を載せました。そもそも毎年の実施が施策につながっていないと感じているなら、エンゲージメントサーベイが意味ないと言われる理由で原因を先に確かめられます。
エンゲージメントサーベイの乗り換えを考える2つのきっかけ
乗り換えの相談は、費用と成果という2つのきっかけから始まります。どちらのきっかけかで、先に手を打つ場所が変わる。
きっかけ1 サーベイツールの利用料が上がった
1つ目は利用料の改定です。リデザインワークが市場を見ている範囲でも、ここ数年、サーベイツールの利用料は上がる方向で改定されてきました。改定の理由には、機能の拡充が挙げられています。
ただ、機能が増えても、使う機能が増えるとは限りません。使っていない機能の分まで単価が上がれば、同じ使い方のまま費用だけが増える。一方で、生成AIの広がりにより、無料で使えるアンケートや分析の手段も増えました。
きっかけ2 サーベイの成果を経営に説明できない
2つ目は、経営への説明です。スコアの推移を報告していても、離職や生産性など経営が気にしている数字とのつながりを示せなければ、費用に見合う取り組みとは見なされない。
ただし、このきっかけはツールを替えても解決しません。結果を経営の論点につなげる報告の組み立てが変わらなければ、乗り換え先でも同じ質問を受けます。2つが重なっているなら、乗り換えの検討と報告の見直しを分けて進める必要があります。
エンゲージメントサーベイを乗り換える前に今の契約で確かめる4点
候補を探す前に、今のツールの費用と使い方を確かめます。乗り換えで何を解決したいのかが決まらないと、候補を比べる基準も決まらないためです。
| 確かめる点 | 見る資料 | 分かること |
|---|---|---|
| 費用の内訳 | 請求書と見積書 | 人数・実施回数・オプションのどこで費用が上がったか |
| 使っている機能 | 管理画面の利用状況 | 費用を払っているのに使っていない機能 |
| 結果の使い道 | 報告資料と会議の記録 | 誰が結果を見て、何を決めたか |
| 契約の条件 | 契約書と利用規約 | 更新日・解約の通知期限・データの書き出しの条件 |
1つ目の費用の内訳は、ツール代だけでは足りない。設問の設計、集計、報告資料の作成にかかる社内の時間も費用です。その数え方はサーベイの運用工数で扱っています。
3つ目で、結果を見ているのが人事だけ、あるいは結果をもとに決めたことが無い、と分かった場合は、乗り換えより報告の見直しが先になる。経営会議で議論を起こすための準備の手順と報告会の型を整理したのが、資料『経営の期待を超えるサーベイ報告会のポイント』です。
4つ目の契約の条件は、移行の日程を決めます。解約の通知期限を過ぎると、乗り換えを決めていても契約が1年分自動で更新される場合がある。データを書き出せる期間とあわせて、最初に確かめます。
エンゲージメントサーベイの乗り換え先を比べる8つの観点
今の契約で確かめた結果をもとに、候補を比べます。初めてツールを選ぶときの観点はエンゲージメントサーベイとはで整理しているので、ここでは乗り換えで差が出る観点に絞る。
| 観点 | 候補に確かめる質問 | 乗り換えで見る理由 |
|---|---|---|
| 費用の体系 | 人数課金か定額か。初期費用と、分析や設問追加のオプションはいくらか | 改定の影響がどこに出るかが分かる |
| 設問の自由度 | 今の設問をそのまま使えるか。独自の設問はいくつまで足せるか | 過去の結果と比べられるかが決まる |
| 他社との比較 | 業界の平均と比べる場合、どの設問を固定する必要があるか | 固定の設問が多いと、今の設問を残せない |
| 分析の範囲 | 属性別の集計・スコアに影響する要因の分析・自由記述の分類ができるか | 報告に使う示唆の出し方が変わる |
| 閲覧の権限 | 組織ごとに、管理職が見られる範囲を設定できるか | 結果を現場に返す運用を続けられる |
| 回答データの書き出し | 回答者単位の回答をCSVなどで書き出せるか | 次に乗り換えるときも過去データを持ち出せる |
| 人事データとの連携 | 組織・等級・入社年などを取り込めるか | 属性別の分析にかかる手間が決まる |
| 活用の支援 | 報告会や施策づくりの支援があるか。別料金か | 成果の説明を社内だけで担えるかが決まる |
2つ目の設問の自由度と、6つ目の回答データの書き出しは、初めての導入では軽く見られがちな観点です。乗り換えでは、この2つが過去の結果を使い続けられるかを決めます。
3つ目の他社との比較は便利な一方で、比べるために設問を固定する条件が付くことがある。他社の平均と比べる前提で設問を決めてよいかは、エンゲージメントサーベイの質問項目で扱っています。
エンゲージメントサーベイの乗り換えで過去データを失わない移行の手順
候補が決まったら、今のツールから持ち出すデータを決めます。書き出しは解約の前に済ませます。契約が終わった後もデータを書き出せるか、いつ消去されるかは、利用規約と契約書で確かめておく。
| 書き出すデータ | 中身 | 使い道 |
|---|---|---|
| 回答の生データ | 回答者ごとの属性と、各設問の回答 | 新しいツールでの再集計と、過去との比較 |
| 設問と選択肢の一覧 | 設問文・選択肢・段階の数・逆転項目 | 設問の対応表をつくる |
| 組織の対応表 | 当時の組織名と、今の組織名 | 組織が変わっても部署単位で比べる |
| 回ごとの集計結果 | 報告書・スコアの推移 | 新しいツールの初回の結果と並べる |
時系列の比較を途切れさせないために、次の3つを行います。
- 共通の設問を残す 経年で見てきた設問は、文面と段階の数を変えずに新しいツールでも使う
- 設問の対応表をつくる 旧設問と新設問を「同じ」「近い」「新規」に分け、比べてよい設問を決めておく
- 初回は前年の結果と並べて読む 差が出たとき、設問やツールの違いによるものか、組織の変化によるものかを分けて説明する
5段階から7段階へ変えるなど答え方が変わる場合は、平均点より、肯定的な回答の割合で比べるほうがずれを小さくできます。
回答の生データを新しいツールの会社へ渡すときは、個人データの扱いも確かめる。利用目的の範囲で取り扱いを委託する場合、提供を受ける会社は第三者に当たらないとされています(個人情報保護法第27条第5項第1号)。その代わり、委託先を監督する義務が生じます(同法第25条)。
新しいツールの会社が回答を他社との比較などに使うなら、その扱いが委託の範囲に収まるかを契約で確かめます。今のツールに残るデータについても、利用する必要がなくなった個人データは遅滞なく消去するよう努めることとされているため(同法第22条)、解約時に消去の方法と時期を確認しておく。
エンゲージメントサーベイを内製するか外部ツールにするかは期間と示唆の精度で決める
乗り換え先の候補には、外部のツールだけでなく、自社のデータ基盤で集計まで行う内製も入ります。従業員1,000名を超えるメーカーの人事担当者から、リデザインワークは次のように聞いています。
社内のデータ基盤を使えば、回答の収集と集計までは動かせる。ただ、初年度から現場に示せるほど精度の高い示唆を出せるかが分からず、内製と外部ツールのどちらを優先するかを決めきれていない。段階的に自社の環境へ移す併用も考えている。
この判断の軸は、期間と示唆の精度の2つです。回答の収集と集計の仕組みは、データ基盤があれば内製でも作れる。時間がかかるのは、どの分析をどの順で行い、結果をどう読むかという設計のほうです。
| 選択肢 | 向いている会社 | 残る課題 |
|---|---|---|
| 外部ツール | 次回の実施が近く、分析の設計を社内で持てていない | 費用と、設問を固定する条件 |
| 内製 | 分析の設計を社内で持てている。データ基盤がある | 初年度の示唆の精度と、担当者の異動 |
| 併用して段階的に移す | 数年かけて分析の設計を社内に移したい | 2つの仕組みを並べて持つ期間の手間 |
分析の設計の中身は、エンゲージメントサーベイの分析方法で扱っています。
内製でも外部ツールでも、どの分析で示唆を出すかは自社で決めておく必要があります。平均点の高低で終わらせない6つの分析方法を、実データの図とあわせて整理したのが、資料『組織課題が分かるサーベイの分析方法6選』です。
乗り換えるか、今のツールの使い方を見直すかは、費用の内訳と結果の使われ方を並べると判断できます。
いまの契約の内容と、結果を誰がどう使っているかをお聞きして、比べる観点と移行で書き出すデータまで一緒に整理します。
エンゲージメントサーベイの乗り換えは契約更新日の6か月前から逆算する
ここまでの手順を、契約更新日から逆算した日程に並べます。期間は目安で、解約の通知期限が早い契約では、その分だけ前に倒す。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 更新日の6か月前 | 費用の内訳・使っている機能・結果の使い道・契約の条件の4点を確かめる |
| 5か月前 | 経営が知りたい論点を聞き、候補を2〜3に絞って8つの観点で比べる |
| 4か月前 | 候補を1つの部署で試し、設問の対応表をつくる |
| 3か月前 | 個人データの扱いを含めて契約の内容を確かめ、社内で決裁する |
| 解約の通知期限まで | 回答の生データ・設問の一覧・組織の対応表・集計結果を書き出す |
| 更新日以降 | 新しいツールで初回を実施し、前年の結果と並べて報告する |
5か月前に経営の論点を聞いておくのは、乗り換えた後の初回の報告に間に合わせるためです。ツールを替えた年の報告で成果を説明できれば、費用についての経営の疑問にも答えられます。
エンゲージメントサーベイの乗り換えで確かめる項目を洗い出すAIへの指示文
今の契約書と利用状況から、確かめる項目を洗い出す指示文です。社員の氏名や回答そのものは貼り付けず、契約書の条項と、利用している機能の一覧だけを使ってください。
あなたは人事部門のサーベイ運用を見直す担当者です。
次の【契約書の条項】と【利用状況】から、エンゲージメントサーベイを
乗り換える前に確かめる項目を洗い出してください。
【契約書の条項】
(料金・契約期間・更新と解約・データの取扱いと消去・再委託に関する条項を貼り付け)
【利用状況】
・対象人数:〇〇人 実施回数:年〇回
・利用している機能:(例)年1回の調査、部署別の集計
・利用していない機能:(例)パルスサーベイ、施策の管理
・結果を見ている人:(例)人事と部長まで
【出力】
1. 費用の内訳:人数・回数・オプションのどこで費用が決まるか
2. 契約の日程:更新日と解約の通知期限、そこから逆算した社内の締め切り
3. データの書き出し:書き出せるデータの種類・形式・期限。条項から読み取れない点は「要確認」とする
4. 解約後のデータの扱い:消去の時期と方法。書かれていなければ「要確認」とする
5. 乗り換え先の候補に聞く質問を8つ(費用の体系・設問の自由度・他社との比較・分析の範囲・閲覧の権限・回答データの書き出し・人事データとの連携・活用の支援)
【注意】
・条項に書かれていないことを推測で補わない
・金額は条項と利用状況から計算できる範囲だけを示す
「要確認」と出た項目は、今のツールの会社へ問い合わせる質問として、そのまま使えます。
エンゲージメントサーベイの乗り換えは単価より結果の使い方で決める
乗り換えのきっかけが利用料の改定でも、比べるべきは単価だけではありません。設問を残せるか、データを持ち出せるか、結果を経営と現場に返せるかで、次の数年の使い方が決まる。
まずは今の契約書で、解約の通知期限とデータの書き出しの条件を確かめてください。この2つが分かれば、乗り換えるかどうかを決める期限も決まります。







