人事評価の甘辛調整とは|3つの方法と評価者会議の手順、点数を直すだけでは評価者のばらつきが残る
「うちの部は全員がよくやった。Aが半分でも妥当です」。評価を持ち寄った会議で、ある部長がこう主張する。隣の部は、ほぼ全員がB。人事が全社の割合に合わせて点数を動かすと、面談の後に「上司からはAと聞いていた」と問い合わせが届きます。
甘辛の差への不満は、公的な調査で最も多く挙がっている。内閣人事局が2020年に国家公務員に行った意識調査で、評価者の評価について感じることを複数回答で聞くと、不満の選択肢で最も多かったのは「評価者により評価の甘い・辛いといった違いがあり、評価にばらつきがあると感じる」の34.1%でした。
この調査を見る限り、評価への不満は、制度の設計より誰が評価者になるかの違いに向いています。
この記事では、甘辛の原因、3つの調整方法の比較、点数を直すだけでは残る問題、評価者会議の4つの手順を順に説明します。読了後は、自社に合う調整方法と次の会議の議題を決められる。
甘辛以外の原因を先に確かめるなら、人事評価への不満が出る理由のチェックリストが使えます。
記事の後半には、会議前に人事が準備するチェックリストと、評価データから議題の候補を出すAIへの指示文を載せました。次の評価期の準備にお使いください。
人事評価の甘辛調整とは評価者による甘さと辛さの差を補正すること
人事評価の甘辛調整とは、評価者ごとに異なる評価の甘さと辛さを補正し、全社で同じ基準の評価に直す工程です。評価を確定させる前に行います。
調整には、評価の前に基準の具体化や評価者研修で差を小さくする事前調整と、評価が出そろった後に見直す事後調整がある。一般に甘辛調整と呼ぶのは後者です。
評価者による甘辛のばらつきは寛大化・厳格化・中心化傾向から生まれる
効く調整方法は原因で違うため、先に原因を確かめます。内閣人事局と人事院の人事評価ガイドは評価者が陥りやすい評価エラーを7つ挙げており、次の3つが甘辛に直結する。
| 傾向 | ガイドの定義 | 評価の一覧での表れ方 |
|---|---|---|
| 寛大化傾向 | ややもすると甘い評価をしてしまう傾向 | 評価者の平均点が全社より高い |
| 厳格化傾向 | 評価が一般に基準以上に辛くなる傾向 | 評価者の平均点が全社より低い |
| 中心化傾向 | 大部分について「普通」や「平均的」と評価し、優劣の差を付けることを避ける傾向 | 平均は全社並みでも標準の段階に集まる |
3つの傾向の背景には、段階の境目を判断する難しさがあります。前述の意識調査で、評価者として回答した2,832人に人事評価で難しいと感じることを複数回答で聞くと、最多は「各評語の境目の見極め・判断」で50.6%でした。
甘辛は評価者の性格より、BとAを分ける具体例が手元にないことから生まれる。
甘辛調整の方法は部門平均点・分布・標準者比較の3つ
原因を踏まえて、事後に点数を補正する代表的な方法を比べます。
| 方法 | 手順 | 向く場面 | 欠点 |
|---|---|---|---|
| 部門平均点 | 部門と全社の平均点の差を部門全員に足し引きする | 業務の難しさが近い部門 | 成果の高い部門も下がる。中心化傾向は直らない |
| 分布 | 段階ごとの割合を決め、点数順に割り当て直す | 対象が数十人以上いる | 少人数の部門では割合が成り立たない |
| 標準者比較 | 各部門でBに当たる社員の点数差で部門全体を補正する | 部門長が他部門の社員も知っている | 標準者の選び方で結果が変わる |
以下は、S・A・B・C・Dの5段階でBを期待どおりとし、100点満点で全社の平均点を65点とした試算です。
部門平均点による調整は平均のずれだけを直す
営業部5人の平均が72点なら、全員から7点を引きます。直せるのは平均のずれ、つまり寛大化傾向と厳格化傾向だけ。平均58点で点数が57〜59点に集まる部門なら、7点を足しても64〜66点に集まったまま。中心化傾向は残ります。
目標を大きく超えた部門でも全員が下がり、平均の差が甘さか成果かを計算は区別しません。
分布による調整は少人数の部門で割合が成り立たない
段階ごとの割合を先に決めて割り当てるため、評価の相対化とも呼ばれます。割合を正規分布に近いS5%・A20%・B50%・C20%・D5%とすると、40人の部門ならSは2人。8人の部門では0.4人になり、端数の扱いでSを出すかが決まってしまう。
国家公務員の人事評価を見直した有識者検討会の報告書(令和3年3月)も、相対評価は業務の異なる職員を比べにくく、他の職員の動向で評価が変わり得るため納得性が得られにくいと指摘しています。国の評価は絶対評価のままで、割合は昇給や勤勉手当を決める段階で使う。
賞与の原資を割合で配る会社も、割合を評価でなく賞与の配分に当てはめれば、本人への説明と原資の管理を両立できます。
標準者比較による調整は標準者の選び方で結果が変わる
各部門で期待どおりのBに当たる社員を2〜3人選び、点数を比べます。営業部の標準者の平均が72点、管理部が62点、全社の標準者の平均が67点なら、営業部は全員から5点を引き、管理部は5点を足します。
実在の社員が基準なので受け入れられやすい一方、部門をまたいで双方の社員を知る人は少ない。標準者を選ぶ時点で、評価者の甘辛が入ります。
点数を事後に直すだけの甘辛調整では評価の理由を説明できない
3つの方法は、どれも点数を事後に動かします。計算で直して終えると、3つの問題が残る。
問題1 調整した理由を本人の行動で説明できない
7点下がった社員に評価者が言えるのは「部の平均が高かったから」だけで、本人のどの行動が期待に届かなかったかは出てきません。
人事評価ガイドも、評価者の上位の調整者が評語を修正するときは、評価者に理由を十分に説明するよう求めています。本人に指導・助言を行うのは評価者だからです。甘辛の偏りがあれば、調整者は評価者に再評価を命じる。理由を説明する人が評価を直す順番です。
問題2 面談で伝えた評価と確定した評価が食い違う
面談の前に評価者が見込みを伝えていると、調整後の評価との差がそのまま不信になります。冒頭の問い合わせは、この差から届いたものです。
問題3 評価者が人事の補正を前提に評価を付ける
人事が毎期計算で直すなら、評価者がBとAの違いを考える理由はなくなる。甘めに付けても、下げたのは人事だと部下に言えるためです。同じ評価者の甘辛は翌期も繰り返されます。
事後調整は必要です。変えるべきは、直す対象を点数から評価者の評価に移すこと。
評価者会議(キャリブレーション)で甘辛を調整する4つの手順
評価者会議は、評価者が集まって互いの評価を同じ基準で見直し、必要なら自分で付け直して確定させる会議です。評価調整会議やキャリブレーションとも呼ばれます。
ただし副作用もある。評価者会議による調整を大手多国籍企業の社内データで分析した研究(Management Science、2019年)では、下げる調整が上げる調整より多く、幅も大きかった。寛大化傾向は抑えられた一方で、中心化傾向は強まっています。
甘い評価を下げる議論だけで進めると、根拠のある高い評価や低い評価まで中央の段階へ動きます。同じ研究は、調整を通じて評価者が組織の期待する水準を学ぶことも示した。
手順1 評価者別の分布と評価コメントを会議の前に配る
評価者ごとの段階別人数・平均点・前年との差を、評価コメントと並べて会議の3営業日前に配ります。会議で初めて分布を見ると、部下を守る発言が先に出るためです。
手順2 行動の実例で評価者の目線を合わせる
会議の冒頭15分で、BとAの違いに当たる行動の実例を2〜3件、氏名を伏せて読み合わせる。有識者検討会の報告書も、Bを「通常」とする方式では「通常」に幅があり目線合わせが困難だったとして、具体的な行動例を基準にするよう提言しました。
評価の前に実例で点数を付け合う進め方は、コンピテンシー評価の運用で扱っています。
手順3 評点と根拠が合わない評価だけを議題にする
全員を1件ずつ見ると、時間の大半が発言の多い評価者に使われる。議題は次の3種類に絞ります。
- A以上なのに、期待を上回る行動がコメントにない評価
- C以下なのに、根拠の事実がコメントにない評価
- 平均や分布が全社から大きく離れた評価者の評価
評価を変えるときは評価者自身が付け直し、根拠の書かれたSやDは分布を理由に動かしません。
手順4 変更した評価と理由を記録して面談で使う
変更前後の段階・理由となった行動の事実・面談で本人に伝える一文を記録し、評価者は面談でこの記録を使います。翌期の会議では、同じ偏りが出ていないかを確かめる材料になる。
評価を付け直す判断は、人にしかできない。人事評価制度の構築でAIに任せる範囲と人が引き取る判断を整理したのが、資料『AIで人事評価制度の構築はどこまで効率化できるか』です。
なお、甘辛調整の方法と評価者会議の設計は、リデザインワークの人事制度設計支援でも無料でご相談を承っています。
甘辛調整でAIに任せられるのは集計と食い違いの抽出まで
手順1の集計と手順3の食い違いの抽出は、生成AI(ChatGPT・Microsoft Copilotなど)や人事評価システムに任せられます。平均に加えて点数のばらつき(標準偏差)まで合わせる補正も計算は任せられるが、本人に理由を説明しにくい問題は残る。
偏りが評価者の甘さか部門の成果かの判断、評価を変えるか、本人への伝え方は人が決めます。高い平均点は、甘い評価でも部門の好成績でも同じ数字になるためです。詳しい範囲は、人事評価の運用をAIで軽くするで整理しました。
評価者会議の前に人事が準備する甘辛調整のチェックリスト
4つの手順の準備を、時期順に並べた。確認の欄を満たしていれば、会議は議題から始められます。
| 時期 | 人事が準備すること | できたかの確認 |
|---|---|---|
| 評価期間の開始時 | 会議の日程と参加者を決める | 一次・二次評価者が全員出席できる |
| 評価の締め切り前 | BとAの違いに当たる行動の実例を2〜3件選ぶ | 評価者が読んで同じ段階を付けられる |
| 締め切りの直後 | 評価者別・部門別の段階別人数と平均点を集計する | 全社の平均と分布と比べられる |
| 締め切りの直後 | 同じ評価者の前年の分布を並べる | 毎年同じ方向に偏る評価者が分かる |
| 締め切りの直後 | 評点とコメントが合わない評価を抽出する | 議題の候補が評価者ごとに出ている |
| 会議の3営業日前 | 分布と議題の候補を評価者に配る | 評価者が自分の位置を把握している |
| 会議の当日 | 変更前後の段階と理由を書く記録様式を用意する | 面談で伝える一文まで書ける |
| 会議の直後 | 調整後の分布を確かめる | 根拠のあるSとDが中央へ動いていない |
| 面談の前 | 変更した評価の理由を評価者に渡す | 評価者が自分の言葉で説明できる |
調整で変わった評価の伝え方を含む面談前日のチェックリストは、人事評価のフィードバック面談に載せています。
評価者ごとの甘辛の傾向をAIで洗い出す指示文
評価データを貼り付けると、評価者ごとの傾向と議題の候補を出す指示文です。氏名は社員番号に置き換え、社内で利用が認められた生成AIに渡してください。
あなたは人事評価の運用に詳しい分析担当者です。
以下の評価データから、評価者ごとの甘辛の傾向を洗い出してください。
評価を確定させる判断はしないでください。
【出力してほしいもの】
1. 評価者ごとの人数・平均点・標準偏差・段階別の割合(S・A・B・C・D)
2. 全社の平均点・段階別の割合との差
3. 寛大化傾向(平均が全社より高い)、厳格化傾向(平均が全社より低い)、
中心化傾向(B評価への集中が全社より大きい)の疑いがある評価者と、根拠の数字
4. 評点と評価コメントが合わない評価の一覧
(A以上なのに期待を上回る行動が書かれていない、C以下なのに根拠の事実がない など)
5. 前年の同じ評価者と比べて、毎年同じ方向に偏っている評価者
6. 評価者会議で議題にする候補(1評価者あたり3件まで)と、評価者に確認する質問の案
【注意】
・評価する部下が5人未満の評価者は、傾向を判定せず「判定しない」と書く
・部門の目標達成率が付いている場合は、偏りが甘辛か部門の成果かを区別する材料として並べる
【評価データ】
(社員番号・評価者番号・部門・今期の段階・点数・評価コメント・前年の段階を貼り付け)
4番の食い違いの一覧が、手順3の議題の候補になる。評価を変えるかは、会議で確かめてから決めてください。
行動の事実が書かれていないコメントが多いなら、人事考課のやり方にある、1on1の記録から根拠の行動を書き出す指示文が使えます。
甘辛調整は点数の補正より評価者の目線合わせで減らす
計算による甘辛調整は今期の点数を合わせても、来期の付け方は変えません。評価者が会議で自分の評価を付け直して理由を残せば、本人に説明でき、組織の期待する水準も学べます。
会議を重ねても差が縮まらないなら、評価基準そのものの見直しが必要になる。判断の手順は人事評価制度の見直しで扱っています。
次の評価期までに用意するのは、BとAの違いを示す行動の実例2〜3件と、評価者別の分布の一覧の2つです。






