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ダブルチェックは無駄か|経理・給与計算の確認作業を減らす方法と、機械・AI・人の分担を解説

月末の締めで、担当者が作った給与の支給額一覧を、もう1人が上から確認する。2人とも問題なしとして支給した翌月、社員からの問い合わせで通勤手当の付け忘れが分かった。ダブルチェックしたのになぜ、と部長に聞かれても、どこで漏れたのかを説明できません。

「ダブルチェック」で検索すると、病院で薬を投与するときの話が多く出てきます。この記事で扱うのは、経理・給与計算・請求書処理といった事務の確認作業です。

ダブルチェックが無駄になるのは、担当者の注意力が足りないからではない。2人で確認すれば見落としが減るという前提が、事務の作業では成り立っていないためです。

この記事を読み終えると、自部署のダブルチェックのうち、残す確認と、機械の判定やAIに移して減らす確認を項目ごとに決められます。ミスが残る理由、廃止してはいけない確認、確認作業の分け方、事例の順に取り上げる。

記事の最後には、確認項目のリストを貼り付けると、機械の判定・AIの補助・人の確認への仕分けと、差し戻す金額の条件の下書きが出るAIへの指示文を載せました。給与計算に絞って確認作業の減らし方を知りたい場合は、給与計算・年末調整のAI活用を先に読むと全体を把握できます。

経理や給与計算のダブルチェックでミスが残る4つの理由

ダブルチェックとは、1人が作った結果を別の人がもう一度確認し、誤りを見つけて直す方法です。2人で確認すれば、見落としは掛け算で減る計算になる。

1人が見落とす確率を1%とすると、2人とも見落とす確率は0.01%です。ただし、この計算が成り立つのは、2人が同じ基準で、十分な深さで、互いに無関係に確認している場合に限られます。経理や給与計算の現場では、次の4つの理由でこの前提が崩れます。

理由1 ダブルチェックの2人目が1人目を信頼して確認が浅くなる

2人目は、1人目が確認済みだと知っているため、自分で確かめる範囲を狭めます。支払依頼を承認する課長が、担当者の照合済みの印を見て、請求書と発注書の突き合わせを省く。担当者も、課長の承認が後にあると分かっているので、入力後の見直しを短く済ませます。

理由2 同じ資料を同じ手順でダブルチェックして同じ箇所を見落とす

2人が同じ資料を同じ順番で見直せば、見落とす箇所も同じになります。請求書の金額を会計システムに入力し、2人とも入力画面と請求書を見比べたとする。取引先が発注と違う単価で請求していても、入力は請求書どおりなので、2人とも合格にします。発注書との照合が、どちらの手順にも入っていないためです。

理由3 ダブルチェックで何を確認したら合格かの基準が人によって違う

合格の基準が書かれていないと、2人の確認範囲がずれ、誰も見ていない項目が生まれる。給与を前月と比べる作業で、Aさんは1,000円以上の増減をすべて確かめ、Bさんは1万円以上だけを確かめているとします。5,000円の手当の付け忘れは、Bさんが担当した月には通ってしまいます。

理由4 件数が多く全件を同じ深さでダブルチェックできない

件数に対して時間が足りなければ、全件を浅く確認するしかありません。従業員500人の給与を、支給データの提出期限までの2日間、1日8時間で見直すとします。1人に使える時間は2分に届かない。前月と1円も変わらない社員も、異動で手当が変わった社員も、同じ2分で見ることになります。

ダブルチェックの効果は研究でも確かめられていない

ダブルチェックの効果を調べた研究にも、4つの理由と同じ傾向が表れている。

病院で薬を投与する際のダブルチェックについて、研究13本を評価した系統的レビュー(Koyamaら、2020年)は、2人で確認するほうが1人より投与の誤りが少ないと言える十分な根拠はない、と結論づけています。

同じ論文は、確認する人は誰の作業かを知っているため、相手の経験や資格によって判断が偏りうるとも指摘しています。理由1で挙げた、相手を信頼して確認が浅くなる現象です。

事務に近い作業でも、同じことが起きる。鉄道総合技術研究所の重森雅嘉氏が2012年に発表した実験(ダブルチェックの社会的手抜き)は、複数の人で作業すると1人ひとりの成果が下がる社会的手抜きがダブルチェックでも起きるかを、文章の誤字を探す作業で調べたものです。

実験では女子大学生101名が、1,471字の文章から6分間で誤字を探しました。1人だけでチェックすると伝えた条件と、ほかの参加者とあわせて3回チェックすると伝えた条件を比べています。実際には、全員が誰も確認していない新しい用紙を受け取っていました。

結果は、1人だけでチェックした条件のほうが、見つけた誤字が多かった。後で別の人が確認すると思っていた1回目の人も、確認済みだと思っていた3回目の人も、1人だけの条件より少なくなっています。

後で2人目が確認すると思うだけで、1人目の確認も浅くなる。ダブルチェックは意味ない、と言われる背景には、この傾向があります。

ダブルチェックは見直しを廃止して承認を残す

効果が確かめられていないからといって、ダブルチェックをすべて廃止してよいわけではありません。経理と給与計算の確認には、目的の違う2種類が混ざっているからです。1人目の見落としを拾う見直しと、1人で処理を完結させない承認の2つ。

承認について、金融庁の企業会計審議会が定める「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」(2023年4月改訂)は、職務を複数の者で分担または分離させることを重要とし、取引の承認・記録・資産の管理を別の者に担当させる例を挙げています。

承認の2人目に求められているのは、見落としを拾う精度ではなく、1人で取引を完結させないための分担です。一方、見直しは機械に置き換えられる。

同じ実施基準は、統制活動を自動化すると人間の不注意による誤謬の防止も可能になるとし、ITに係る業務処理統制の例に、入力情報の正確性の確保やマスタ・データの維持管理を挙げています。

区分 2人目を置く目的 経理・給与計算の例 扱い
残す確認 1人で取引を完結させない 支払の承認・給与の支給額の最終承認・振込先口座の変更の承認 作成者と別の人が承認する
減らしてよい確認 1人目の見落としを拾う 入力と原票の一致・計算の検算・前月との差異・マスタとの一致 機械の判定に移し、条件に合わない件だけを人が確認する

機械の判定の条件は、変えた人と日付を記録し、変更できる人を限っておきます。

ダブルチェックの代替案は機械の判定・AIの補助・人の確認の3区分

見直しにあたる確認は、ダブルチェックをやめて次の3つに分け直します。順番を逆にする、時間をあけるといった工夫でも、人が同じ資料を確認する点は変わらない。

機械の判定 ルールで合否を決められる確認。前月との差異・マスタとの照合・上限と下限を、システムのチェック機能や表計算ソフトの関数で判定し、条件に合わない件だけを一覧に出します。

AIの補助 書類の読み取りや文章の下書きを伴う確認。請求書の読み取り、差異の理由の下書き、例外の候補出しをAIが行います。

人の確認 規程や前例で決まらない判断を伴う確認。例外の扱い・承認・差し戻された件の最終判断を人が行います。

機械の判定は、4つの理由のうち3つを外します。発注データや前月のデータと照合するので同じ見落とし(理由2)が起きず、書き出した条件で全件を判定するので、基準の違い(理由3)にも件数(理由4)にも左右されない。

人が確認するのは差し戻された件だけになり、信頼による手抜き(理由1)も起きにくくなります。

業務 確認項目 区分 判定の方法(例)
給与計算 打刻漏れ・打刻の重複 機械の判定 出勤か退勤の片方がない日を抽出
給与計算 時間外労働の上限 機械の判定 36協定で定めた時間を超えた社員を抽出
給与計算 前月との支給額の差異 機械の判定 差額が設定額以上の社員を抽出
給与計算 通勤手当と住所 機械の判定 住所が変わり手当が変わっていない社員を抽出
給与計算 住民税の税額 AIの補助 通知書の税額を読み取り、照合は機械に渡す
給与計算 勤怠の備考欄 AIの補助 記述から特別な扱いが必要な社員の候補を挙げる
給与計算 前月差異の理由 AIの補助 勤怠と異動の記録から理由を下書きする
給与計算 規程にない手当の扱い 人の確認 休職中の手当など個別の事情を判断する
給与計算 支給額の最終承認 人の確認 作成者と別の人が承認する
経理 請求書と発注・検収の一致 機械の判定 差額が設定額以上なら差し戻す
経理 二重の請求 機械の判定 同じ取引先・金額・近い日付の請求を抽出
経理 適格請求書の登録番号 機械の判定 国税庁の公表サイトの情報と照合
経理 請求書の記載内容 AIの補助 取引先名・金額・支払期日を読み取る
経理 勘定科目 AIの補助 摘要と取引先名から科目の候補を示す
経理 振込先口座の変更 人の確認 変更依頼の真偽を確かめて承認する

ただし、機械の判定に移せるのは、条件を書き出せた項目だけです。担当者が経験で判断している基準を、照合の相手と差し戻す金額として書き出す作業が残る。基準を文書にする手順は業務の標準化とはで、経理の工程別の範囲は経理業務のAI活用で扱っています。

AIの補助で避けたいのは、AIの出力を人が全件見直す運用です。2人目がAIに替わっただけで、時間は減りません。読み違いは照合で差として表れるので、読み取った値は機械の判定に渡す。

切り出した業務の前後にAIを使うための新しい仕事が生まれると、作業は速くなっても月末の残業は減りません。着手する前に押さえるべき、手戻りを生まない業務の切り分け方を整理したのが、資料『AIによる業務効率化が進まない理由 ~業務設計編~』です。

AIによる業務効率化が進まない理由 ~業務設計編~
お役立ち資料|AX(AI活用)推進

AIによる業務効率化が進まない理由 ~業務設計編~

AIを入れて作業は速くなったのに、月末の残業は減らない。切り出した業務の前後に、AIを使うための新しい仕事が生まれているからです。AX推進責任者が着手前に必ず押さえるべき、手戻りを生まない業務の切り分け方を解説します。

資料をダウンロード

なお、ダブルチェックしている確認項目の仕分けは、リデザインワークのAX支援でも無料でご相談を承っています。

給与計算のダブルチェックを月約150時間から3〜5時間規模にした事例

3つに分ける方法で確認の時間を減らした例を、リデザインワークのAX支援から紹介する。

給与計算そのものは外部に委託していました。それでも委託先から戻った計算結果を確認する工程は社内に残り、約100項目を人手でダブルチェックして、月に約150時間かかっていた。

取り組んだのは、確認項目を判定ルール表に書き出すことです。判定ルール表とは、確認項目ごとに、照合する2つのデータと差し戻す条件を書いた表を指します。書き出した項目を機械の判定に移し、人が確認するのは差し戻された件だけにした。確認の工数は、月約150時間から3〜5時間の規模へ圧縮しました。

判定ルール表・業務マニュアル・AIへの指示文の集まりも社内に残り、担当者しか分からない確認がなくなりました。担当者の頭にある判断を文書にする方法は、属人化の解消方法で扱っている。

ダブルチェックの項目を仕分けて判定ルールを下書きするAIへの指示文

判定ルール表の最初の版は、確認項目のリストがあればAIに下書きさせられます。次の指示文に、自部署の確認項目を貼り付けて使ってください。

あなたは経理・給与計算の業務改善を支援する担当者です。
以下の確認項目を、ダブルチェックに代わる確認方法へ仕分けてください。

【業務と体制】
(対象の業務、月の処理件数、確認している人数、使っているシステムを記入)

【いまダブルチェックしている確認項目】
(チェックリストや手順書を貼り付け。無ければ思いつく順に箇条書きで)

出力の条件:
1. 各項目を「機械の判定」「AIの補助」「人の確認」に仕分け、理由を1行で添えた表にしてください。
   機械の判定=ルールで合否を決められる確認
   AIの補助=書類の読み取りや文章の下書きを伴う確認
   人の確認=規程や前例で決まらない判断を伴う確認
2. 承認(作成者と別の人が決裁するもの)は、件数が多くても「人の確認」に残してください。
3. 「機械の判定」の項目には、次の3つを書いてください。
   ・照合する2つのデータ(例:請求書の金額と発注データの金額)
   ・差し戻す条件(例:差額が1,000円以上、または前月比20%以上の増減)
   ・照合に使うデータの保管場所
4. 差し戻す金額や割合が情報から読み取れない場合は、数値を推測で埋めず、
   「担当者に確認する質問」として別の表にまとめてください。
5. 最後に、機械の判定へ移す項目を、件数が多く条件が明確な順に5つ挙げてください。

差し戻す条件は、AIの提案をそのまま使わず、過去数か月に訂正した記録と照らして決めてください。条件を厳しくしすぎると差し戻しが増え、人が確認する件数が元に戻ります。

4番目の条件で出てくる担当者への質問は、ヒアリング項目としてそのまま使えます。答えていくと、担当者が経験で判断していた基準が文章になります。

ダブルチェックは合格の基準を書き出した確認から減らせる

ダブルチェックを減らす話になると、確認する人を1人減らす案が先に出る。しかし人数を減らしても、残った1人が同じ資料を同じ手順で確認することは変わりません。承認まで外せば、1人で処理を完結できる余地も生まれます。

減らせるのは、何と何を照合し、差がいくら以上なら差し戻すかを書き出せた確認です。自部署のダブルチェックの項目を書き出し、条件が書けたものから機械の判定に移す。浮いた時間の使い道まで含めて、どの業務からAIに任せるかはAIに任せる業務の選び方で扱っています。

リデザインワーク 編集部

リデザインワークは、仕組みを変え、行動を変え、企業成長と多様な個人の活躍が同時実現できる企業づくりを、HRコンサルタントとAIプロダクトで支援する会社です。経営戦略と一貫した人事戦略を描くだけでなく、それが現場に定着し行動が変わるまで伴走する中で得た知見やノウハウを発信しています。

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