HRBPの役割とは|定着しない理由と、AIで定型業務を減らし事業部門長との対話に時間を使う方法
事業部門の担当としてHRBPに任命された。ところが実際の毎日は、手続きの問い合わせに答え、評価シートの未提出者に督促を送り、部門の人数や残業時間を集計するうちに終わる。事業部門長と人と組織の話ができるのは、月に一度の定例だけです。
HRBPという役割の名前は広まりましたが、置いている企業はまだ少ない。『日本の人事部』が会員企業の人事に聞いた「人事白書2025」(6,139社が回答)では、HRBPが「いる」と答えた企業は15.7%でした。
従業員5,001人以上の企業に限っても50.0%で、大企業でも半数に留まります。
この記事を読み終えると、自社のHRBPの業務のうち何をAIに任せ、空いた時間を何に使うかを決められる。HRBPの役割、定着しない理由、AIに任せる業務、空いた時間で担う仕事の順に説明します。
記事の中ほどには、業務ごとにAIに任せる範囲と人が残す判断を表にまとめました。自社のHRBPの1週間の業務を当てはめれば、手放す業務がその場で決まる。
人事の業務時間がどこに偏っているかを先に確かめたい場合は、人事DXの進め方にある業務の仕分けチェックリストが使えます。
HRBPとは事業部門長と組んで人と組織の課題を解く役割
HRBP(HRビジネスパートナー)とは、事業部門の責任者と組んで、事業の目標を人と組織の面から実現する人事の役割です。採用・配置・育成・評価の施策を、担当する事業部門の計画に合わせて提案し、実行まで支える。
HRBPという考え方は、米ミシガン大学のデイブ・ウルリッチ教授が1990年代に示した人事の組織モデルから広まりました。人事を3つの機能に分けるモデルで「3本柱モデル」とも呼ばれ、英国の人事専門職団体CIPDは今も最も広く採用されている人事の組織モデルとしています。
| 機能 | 担う仕事 | 人事での例 |
|---|---|---|
| シェアードサービス | 定型業務をまとめて処理する | 給与計算・入退社の手続き・問い合わせへの一次対応 |
| CoE(専門チーム) | 人事の制度と施策を設計する | 評価制度・報酬制度・研修体系の設計 |
| HRBP | 事業部門の責任者と組んで課題を解く | 採用計画・人材配置・組織体制の見直しの提案 |
3本柱モデルは、定型業務をシェアードサービスに集め、HRBPが事業部門の課題に時間を使えるようにする設計です。
HRBPが機能するかどうかは、手続きや集計の業務をHRBPから外せるかで決まる。
従来の部門人事との違いは、仕事の出発点にあります。部門人事は本社が決めた制度を部門で運用する。HRBPは事業部門の課題から出発し、制度の見直しや人材の配置を提案します。
HRBPが日本企業で定着しない理由は経営層の理解不足と定型業務の多さ
3本柱モデルが広く知られていても、日本企業でHRBPが役割どおりに働いている例は多くない。理由は2つあります。
理由1 経営層がHRBPの役割を理解していない
リデザインワークが人事の実務家と議論する中でも、HRBPを置く企業がそもそも少なく、経営層にHRBPという役割が理解されていないという指摘が出ています。人事もその価値を経営の言葉で説明できず、事業に貢献する人事の働き方が組織に定着しない。
役割が決まらないまま置かれたHRBPは、事業部門の判断に関わる権限を持てません。ある製造業の人事管理職からは、現場の人事担当者が「どうせ変えられない」と諦め、事業部門長の意向をうかがうばかりで提案できなくなっていると伺っています。
その方が挙げた根本の原因は、部門長ごとに判断基準がばらばらで、人事がどれだけ調整しても整合が取れないことだった。提案が出ないのは意欲の問題ではなく、判断基準が統一されていないためです。
理由2 HRBPの時間が定型業務に取られている
2つ目は時間の問題です。運用業務をHRBPから外すことは、海外でも簡単ではない。先のCIPDは3本柱モデルの課題として、HRBPが運用業務に傾き、戦略的な役割を果たす余力が残らないことを挙げています。
シェアードサービスを置いていない会社では、手続きの問い合わせや評価の取りまとめを、HRBPや部門人事がそのまま抱える。事業部門と話す時間は、それらを終えた後にしか残らない。冒頭で紹介したHRBPの毎日が、その結果です。
AIに任せるHRBPの定型業務は問い合わせ対応・評価運用・データ集計
2つの理由のうち、先に手を打てるのは理由2の時間の問題です。シェアードサービスが担うはずだった業務のうち、問い合わせへの回答や集計は、いまは生成AIで一次処理ができる。HRBPの業務で任せやすいのは、次の3つです。
| 業務 | AIに任せる範囲 | 人が残す判断 |
|---|---|---|
| 問い合わせの一次回答 | 就業規則や手続きの質問に、規程の該当箇所を引いて回答案を作る | 規程に定めのない相談・個別の事情がある相談 |
| 評価運用の督促と集計 | 提出期限の案内・未提出者への督促・評価結果の部門別の集計 | 部門間の評価の調整と最終の決定 |
| 人事データの集計 | 人数・残業時間・退職者数を部門別に集計し、月次の資料にする | 数字のどこを事業部門長に伝えるか |
定型業務をAIに任せると、人事と現場の関係はどう変わるのか。東洋大学の西村孝史教授が人事・総務部門の会社員186名を分析した研究(2025年)では、人事業務で生成AIを活用している度合いが高いほど、人事部門と現場の関係性が良好でした。
論文は理由の一つとして、生成AIで人事業務に時間の余裕ができ、現場と協業しやすくなることを挙げています。AIに任せた業務の分だけ、HRBPは事業部門に時間を使えるようになる。
問い合わせの減らし方は人事への問い合わせを減らすで、評価運用の督促と分布の調整は人事評価の運用をAIで軽くするで扱っています。社員の個人情報を含むデータをAIに入力する範囲は、人事部の生成AI導入で整理しました。
HRBPの業務を含め、人事のどの業務からAIに任せるかを2つの軸で決め、業務を仕分ける手順までまとめたのが、資料『人事AXに取り組む業務を整理するフレームワーク』です。
HRBPの仕事は事業部門長との対話・制度への翻訳・人材配置の判断
定型業務をAIに任せても、空いた時間の使い道を決めなければ別の作業で埋まる。リデザインワークのAX支援では、人事の定型業務をAIで減らし、空いた時間を事業の成果につながる仕事へ再投資するまでを一続きで設計しています。
理由1の役割の問題は、空いた時間の使い道を経営と決めて初めて解ける。HRBPが空いた時間を使う仕事は、次の3つです。
| 仕事 | 中身 | 必要なスキル |
|---|---|---|
| 事業部門長との対話 | 事業の計画と人の課題を定期的に話し、人事で解く論点を取り出す | 事業の収益構造を理解する力 |
| 制度への翻訳 | 経営の方針を等級・評価・報酬の基準に書き直す | 人事制度を設計する力 |
| 人材配置の判断 | 事業の計画に照らして誰をどこに置くかの案を作り、事業部門長と決める | 人事データを分析する力 |
3つのうち、経営に対してHRBPの価値が最も表れるのは制度への翻訳です。先に触れた議論でも、HRBPに求められる仕事として挙がったのは、経営者の思想や事業と組織の対立を読み取り、整合する制度に翻訳することでした。
たとえば「新しい事業に人を移したいが、既存の部門は人を手放したくない」という対立なら、異動した社員が評価で不利にならない基準を制度に書き込む。
翻訳は、理由1で見た判断基準のばらつきを解消する手段にもなります。部門長ごとに異なる基準を1つの制度に書き直せば、人事の提案は部門長の意向ではなく、会社の基準に基づくものになる。
事業部門と話す時間が増えれば、事業部門の業務をAIで変える提案も人事から出せる。全社のAX戦略を人事の立場から描くときの6つの観点を、立案の手順まで含めてまとめたのが、資料『全社AX戦略を人事から描く時の6つの観点』です。
HRBPの業務のどこからAIに任せるかは、いまの1週間の時間の配分で変わります。
HRBPの業務と担当する事業部門の状況をお聞きして、AIに任せる業務と空いた時間の使い道まで一緒に決めます。
HRBPの役割は1週間の時間の使い方で決まる
HRBPを置くかどうかを決める前に確かめたいのは、いまの人事の時間が何に使われているかです。
まずは自社のHRBPの1週間の業務を書き出し、問い合わせ対応・評価運用・データ集計の3つに何時間を使っているかを数えてください。その時間をAIに任せれば、事業部門長との対話・制度への翻訳・人材配置の判断に回せます。
HRBPの役割は、肩書きではなく、1週間の時間を何に使っているかで決まる。







