定期異動の決め方|異動案の作り方・エクセルの検討表・玉突きの確認と、各論反対で崩れない合意の順番
1月の人事部で、人事企画の担当者が4月1日付の定期異動に向けて異動検討表のエクセルを開いている。営業部長からは、若手を1人出す代わりに即戦力の中堅がほしいと言われた。別の役員からは、あの課長はうちから出せないと連絡が来ている。
玉突きで空いたポストの後任が決まらないまま、役員会の日が近づく。異動案は毎年なんとか固まるものの、なぜその人がそのポストなのかを、人事として説明できる資料は残っていません。
異動を重要と考えていても、異動の明確な方針を持つ会社は多くありません。
パーソル総合研究所が2021年に経営層と人事に行った調査では、一般社員の戦略的な異動配置を重要とした回答が70.1%ありました。一方、非管理職の異動配置に明確な方針があるとした企業は35.0%にとどまっています(パーソル総合研究所)。
この記事を読み終えると、ポジション起点と人材起点の2つで異動の候補を出し、エクセルの異動検討表で玉突きの抜けを確認し、部門長と役員の合意をどの順で取るかを決められます。
定期異動の目的と時期、2つの決め方、異動案が人脈で決まる原因、方針・異動検討表・合意形成の作り方の順に説明する。発令した後の給与や社会保険の手続きは扱いません。
記事の後半には、異動の方針と異動検討表とポスト表を貼り付けると、後任の決まっていないポストと方針に合わない異動案の一覧が出るAIへの指示文を載せました。そもそも部署ごとに何人必要かを経営計画から出す手順は、人事戦略の立て方で扱っています。
定期異動とは毎年決まった時期にまとめて行う人事異動
決め方の前に、定期異動が何を目的に、いつ行われるものかを整理します。定期異動とは、毎年4月や10月など決まった時期に、組織改編・欠員の補充・社員の育成のための配置換えをまとめて行う人事異動を指す。
時期について、パーソル総合研究所の藤井薫氏は、3月決算の会社ではたいてい4月と10月に定期異動があると述べています(プレジデントオンライン)。期首には組織改編があることが多く、半期ごとに計画を見直す会社も多いためです。
対になるのが、必要が生じたときに毎月でも行う随時異動です。パーソル総合研究所が大手企業31社に行ったヒアリング調査では、定期異動が中心の企業と随時異動が中心の企業が半々でした(非管理職層の異動配置に関する実態調査)。
| 比べる点 | 定期異動 | 随時異動 |
|---|---|---|
| 時期 | 4月・10月など毎年決まった時期 | 必要が生じたとき |
| 主な異動のきっかけ | 組織改編・欠員補充に加え、育成や本人の事情 | 組織改編・欠員補充が中心 |
| 異動の候補の出し方 | ポストが決まる前に候補者のリストを作る企業が多い | 空いたポストに合う人を探す |
育成のための計画的な異動は、定期異動のほうが組みやすい。同じ調査は、定期異動型の企業には、ポジションを想定する前にあらかじめ異動候補者リストを作る適材適所型の異動を行う企業が多いとしています。随時異動型の企業は、基本的に組織改編や欠員に対応する異動しか行わない。
定期異動の決め方はポジション起点と人材起点の2つ
定期異動で決めることは、どのポストに誰を置くかです。藤井氏は、異動が必要になるきっかけを、組織改編や欠員に対応するためのポジション起点と、社員の能力開発や個人事情に対応するための人材起点の2つに分けています。
| 決め方 | 異動が必要になる理由 | 例 | 先に決めるもの |
|---|---|---|---|
| ポジション起点 | 組織改編・欠員の補充・定年退職 | 新しい課の立ち上げ・退職した課長の後任 | 空くポストと、そのポストに必要な条件 |
| 人材起点 | 能力開発・本人の事情・昇進と昇格・新入社員の配属 | 同じ部署に長くいる若手に別の職種を経験させる・介護のため実家に近い事業所を希望する社員 | 動かす人と、動かす目的 |
定期異動は、2つを組み合わせて行います。ポジション起点で空くポストを確定させ、人材起点の候補者リストから人を当てる。当てた人の元のポストが空けば、そのポストをもう一度ポジション起点の一覧に戻します。
人材起点の候補者リストには、本人の希望も入れておきます。冒頭で引いたパーソル総合研究所の調査では、社内公募やキャリア自己申告などの仕組みがある企業で、本人の意向による異動は異動全体の約1割でした。
本人の意向による異動は、会社主導の異動より異動後の満足度が高い。同じ調査で異動を経験した社員に尋ねると、異動後に職務に満足している層は、会社主導の異動では38.7%、本人の意向による異動では55.5%で、約1.4倍の差がありました。
定期異動が担当者の人脈と役員の意向で決まる3つの原因
2つの起点を組み合わせる手順そのものは単純です。それでも実際の定期異動は、手順どおりには決まりません。
ある企業の人事担当者から、リデザインワークは次のように聞いています。導入済みのタレントマネジメントシステムでは、玉突き異動・本人の意向・上司との相性が絡む定期異動のシミュレーションができず、実質使われていない。
定期異動は担当者の顔の広さや、約14人いる役員の好き嫌いと縄張り意識に左右され、戦略に沿った異動が難しい。
それでも、完全なジョブ型や社内公募だけで回すのは合わず、会社の戦略と個人の意向をすり合わせる定期異動は必要という見方でした。
別の企業の人事担当者からは、育成や配置転換の方向性には総論で賛成しても、現場の事情で各論の反対が起きると聞いています。自分が育てたから出せない、といった理由で判断の一貫性が失われる。部門長や執行役員まで含めた合意がないまま提案しても、何も決まらないという話でした。
2社の話から、定期異動が人脈と意向で決まる原因は大きく3つに分けられます。
原因1 何を基準に異動を決めるかの方針が文書になっていない
冒頭の調査で、明確な方針があるとした企業は35.0%でした。方針がなければ、2人の候補のどちらを動かすかを比べる基準がありません。基準がない議論では、発言力のある人と、事情を多く知っている担当者の判断が通ります。
原因2 候補と玉突きの連鎖を1枚で確認できる表がない
1人を動かすと、元のポストに後任が必要になり、後任の元のポストにも後任が必要になる。藤井氏は、大手企業では毎年の人事異動案の策定に数カ月かかる企業も珍しくないと述べています。
連鎖を追える表がなければ、担当者が頭の中で追うしかありません。異動案が担当者個人の記憶と人脈に頼るのは、担当者の能力の問題ではなく、確認の道具がないためです。担当者の頭の中にある判断を文書にする方法は、属人化の解消方法で扱っている。
原因3 部門長と役員の合意を取る順番が決まっていない
各論の反対が出るのは、個人名の異動案が示された段階です。個人名が出るまで、部門長には自部門から誰が抜けるかが見えないためです。方針や部門ごとの人数を決めないまま個人名の案を出すと、部門長は一人ひとりの損得で判断します。
3つの原因のうち、候補と玉突きの確認は、表とAIで担当者の負担を減らせる。方針と合意は、人が決める部分として残ります。人事の仕事のうちAIに何を任せ、どこから人が引き取るかを、評価制度の構築を例に整理したのが、資料『AIで人事評価制度の構築はどこまで効率化できるか』です。
定期異動の方針は目的・対象・基準の3つを文書にする
まず原因1の、方針が文書になっていない問題を解消します。方針といっても長い文書は必要なく、異動の目的・対象・基準の3つと、配慮する条件を1枚に書けば足ります。
| 項目 | 書く内容 | 記入例 |
|---|---|---|
| 目的 | 今年の定期異動で何を実現するか | 新規事業の部署に経験者を集める・若手に営業以外の職種を経験させる |
| 対象 | 誰を異動の候補にするか | 同じ部署に一定年数以上いる担当者・管理職候補・異動を希望した社員 |
| 基準 | 候補を比べるときに何を優先するか | 同じ部署の在籍年数の上限・育成の対象者の選び方・部門間で出し入れする人数の考え方 |
| 配慮 | 異動させない、または本人に確認する条件 | 育児や介護の事情・本人の健康上の事情 |
配慮の行は、法律で求められている内容を含みます。育児・介護休業法第26条は、就業の場所の変更を伴う配置の変更で、子の養育や家族の介護が困難となる労働者がいるときは、その状況に配慮しなければならないと定めている(e-Gov法令検索)。
方針は、異動案を作る前に経営会議で決めます。異動案ができてから方針を決めると、個人名の案に合わせた方針になるためです。異動で人を育てる考え方は、等級制度の選び方とも関係します。その関係は等級制度の作り方で扱っています。
異動案の作り方はエクセルの異動検討表とポスト表の2枚で組む
方針ができたら、原因2の、候補と玉突きを確認する表がない問題に移ります。異動案は、人の一覧である異動検討表と、ポストの一覧であるポスト表の2枚のシートで組む。1枚の表に人とポストを混ぜると、後任が空いたポストを見落とすためです。
異動検討表に入れる9つの項目
異動検討表は、異動の候補になる社員を1人1行で並べた表です。
| 列 | 中身 | 使い道 |
|---|---|---|
| 社員番号・氏名 | 人事データから参照する | 2枚のシートをつなぐキー |
| 現所属・現ポスト・等級 | 人事データから参照する | ポスト表と照らし合わせる |
| 現所属の在籍年数 | 人事データから計算する | 方針の対象と基準に当てはめる |
| 直近の評価・保有資格 | 人事データから参照する | ポストの必要な条件と比べる |
| 本人の異動希望 | 自己申告やキャリア面談の記録 | 人材起点の候補を出す |
| 配慮が必要な事情 | 有無だけを書き、中身は別に管理する | 勤務地が変わる案を人が確認する |
| 上司の意見 | 出せるかどうかと理由 | 部門長との合意で使う |
| 異動区分 | ポジション起点・人材起点 | 異動の理由を説明する |
| 異動先の案・確定の段階 | 案・部門長合意・役員確認 | 合意の進み具合を見る |
配慮が必要な事情は、中身を書かずに有無だけにする。異動検討表は部門長にも見せる表で、健康や家族の情報を広く共有しないためです。
ポスト表で玉突き異動の抜けを確認する5つの手順
ポスト表は、ポストを1行ずつ並べ、現任者と異動後の後任を書いた表です。玉突き異動の抜けは、次の順で確認する。
- ポスト表に、今の組織のポストと、新設するポストをすべて並べる
- 異動検討表の異動先の案を、ポスト表の後任の列に入れる
- 異動する人の元のポストに後任が入っているかを、連鎖の最後までたどる
- 連鎖の最後が、新卒の配属・中途採用・ポストの廃止・兼務のどれで終わるかを書く
- 同じ人が2つのポストに入っていないか、異動元と異動先が同じでないかを確認する
3番目から5番目は、ExcelのCOUNTIF関数やXLOOKUP関数で後任の空欄と重複を数えれば、目で追わずに確認できる。連鎖の最後が書けないポストが、玉突き異動の抜けです。
定期異動の合意形成は方針・人数の枠・個人名の順で取る
表が整っても、原因3の、合意を取る順番が決まっていない問題は残ります。各論の反対が個人名の段階で起きるなら、個人名の前に部門ごとの人数を合意しておく。4月1日付の定期異動を想定した日程の目安は、次のとおりです。
| 時期の目安 | 決めること | 決める場 |
|---|---|---|
| 10月から11月 | 方針(目的・対象・基準・配慮) | 経営会議 |
| 12月 | 部門ごとに出す人数と受け入れる人数 | 人事・部門長・執行役員 |
| 1月 | 個人名の異動案 | 人事と部門長 |
| 2月 | 異動案の確認と調整 | 役員会 |
| 3月 | 内示と本人への説明 | 上司と人事 |
2番目の人数の枠に、執行役員まで入れておくのが要点です。役員が意見を言う場を人数の段階に設けておけば、個人名の段階での差し戻しは、方針と基準に照らした理由があるものに限られる。差し戻しの理由は異動検討表に記録しておく。
事業部門長と人の課題を定期的に話す役割をどこに置くかは、HRBPの役割で扱っています。
最後の内示では、異動の理由を本人に説明します。冒頭と同じパーソル総合研究所の調査で会社主導の異動を経験した社員に尋ねると、上司から異動の理由について十分な説明があったという回答は40.0%でした。異動区分と方針の目的を異動検討表に残しておけば、上司は会社として決めた理由で説明できます。
定期異動でAIに任せるのは候補の洗い出しと条件の確認
異動検討表とポスト表ができると、確認作業の一部は生成AIに任せられる。AIに任せるのは候補の洗い出しと条件の確認までで、誰をどこに置くかは人が決めます。
| AIに任せる作業 | 人が決める判断 |
|---|---|
| ポストの必要な条件を満たす候補の洗い出し | 候補の中から誰を選ぶか |
| 後任が空欄のポストと玉突きの連鎖の確認 | 空いたポストを採用で埋めるか、廃止するか |
| 方針の基準に合わない異動案の抽出 | 基準の例外を認めるか |
| 配慮が必要な事情があり勤務地が変わる案の抽出 | 本人の事情をどこまで優先するか |
| 異動の理由の説明文の下書き | 本人と上司にどう伝えるか |
原因の節で紹介した人事担当者の話にあった、本人の意向や上司との相性が絡む判断は、表の右側に残る。AIが担当するのは、その判断に必要な候補と条件の一覧を用意するところまでです。
AIに渡す前に、異動検討表から氏名と配慮の事情の中身を外し、社員番号だけにしてください。人事データのうち入力してよい範囲の決め方は、人事部の生成AI導入で扱っています。
あなたは人事企画の担当者です。
次の【異動の方針】【異動検討表】【ポスト表】をもとに、定期異動の案を確認してください。
【異動の方針】
(目的・対象・基準・配慮を貼り付け)
【異動検討表】
(社員番号・現所属・現ポスト・等級・現所属の在籍年数・直近の評価・保有資格・本人の異動希望・配慮が必要な事情の有無・上司の意見・異動区分・異動先の案の列。氏名は削除)
【ポスト表】
(ポスト名・現任者の社員番号・異動後の後任の社員番号・必要な条件の列)
出力の条件:
1. 後任が空欄のポストを一覧にし、玉突きの連鎖をたどって、どの異動から空いたかを書いてください。
2. 同じ社員番号が2つ以上のポストに入っている行と、異動元と異動先が同じ行を一覧にしてください。
3. 方針の基準に合わない異動案を、どの基準に合わないかを添えて一覧にしてください。
4. 配慮が必要な事情が「あり」で、勤務地が変わる異動案を一覧にしてください。異動の可否は判断せず、人事が本人に確認する事項として書いてください。
5. 後任が空欄のポストごとに、必要な条件を満たす候補を異動検討表から最大3名挙げ、条件との対応を書いてください。候補に順位は付けないでください。
出力のうち、1番目と2番目は玉突きの抜けの確認、3番目と4番目は方針に照らした確認に使います。5番目で候補に順位を付けさせないのは、誰を選ぶかが人の判断だからです。AIの一覧を部門長との打ち合わせに持ち込めば、議論を候補の比較から始められます。
定期異動の方針と異動検討表は、一度作れば翌年からは更新して使えます。
リデザインワークの人事制度設計支援では、いまの異動の決め方と異動案を作るまでの手順をお聞きして、方針に書く項目と異動検討表の列、合意を取る順番まで一緒に整理します。
定期異動の決め方は方針を文書にするところから始める
定期異動が担当者の人脈と役員の意向で決まるのは、担当者や役員の問題ではありません。方針と表と合意の順番がないまま、毎年同じ時期に大量の判断を迫られる構造から生まれている。
最初に決めるのは、今年の定期異動の目的・対象・基準を書いた1枚です。この1枚があれば、異動検討表の列も、部門長と合意する人数の枠も、その目的から決められる。
今年の異動案を作る前に、昨年の定期異動で実際に何を優先したかを書き出してください。異動ルールの明文化を、ほかの人事施策とどの順で進めるかは人事施策の決め方で扱っています。






