中期経営計画で企業の持続的な成長を目指すには? 【リデザインワーク代表:林宏昌氏監修】
近年、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大をはじめ、原油価格や物価の高騰によるコストの上昇、気候変動を含むサステナビリティの課題など、企業を取り巻く環境は変化にさらされています。
このような不確実性に直面している経営環境のなかで、持続的かつ安定した事業活動を継続していくには、「中長期的にどのような姿を目指すのか」を定めて企業の成長や新たな価値創出につなげるストーリーを基に戦略的な経営を行っていくことが重要です。
そこでカギとなるのが“中期経営計画”の策定です。環境の変化を見据えて、将来的な在り方を示す中期経営計画を策定することで、目標を達成するための具体的な道筋を描けるようになります。
企業の経営陣や人事部門の担当者のなかには、「中期経営計画にはどのような内容を盛り込むのか」「どのような手順で作成するのか」などと疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
当編集部では、リデザインワーク代表の林 宏昌さんの見解とともに、中期経営計画を策定する目的やメリット、作成の手順を解説します。
目次[非表示]
- 1.企業の目指す姿を示す“中期経営計画”とは
- 2.中期経営計画を策定する目的
- 3.中期経営計画に盛り込むべき内容
- 3.1.①戦略ターゲット
- 3.2.②経営資源の投資配分
- 3.3.③経営指標
- 3.4.④目標のブレイクダウン
- 4.中期経営計画を策定することによるメリット
- 4.1.①現状課題が明らかになる
- 4.2.②短期経営計画が立てやすくなる
- 4.3.③従業員の意識が向上する
- 5.中期経営計画を策定する際の注意点
- 5.1.①アジャイルの手法を取り入れる
- 5.2.②現場の意見を取り入れる
- 5.3.③優先順位を決めてリソースを配分する
- 6.中期経営計画を策定する6つのステップ
- 6.1.ステップ①経営ビジョンを明確にする
- 6.2.ステップ②現状とのギャップを把握する
- 6.3.ステップ③経営戦略を策定する
- 6.4.ステップ④目標を設定する
- 6.5.ステップ⑤行動計画に落とし込む
- 6.6.ステップ⑥PDCAを回す
- 7.まとめ
企業の目指す姿を示す“中期経営計画”とは
中期経営計画とは、企業が中長期的に目指す姿を定めて、それを実現するための具体的なプロセスやアクションを定めた経営計画の一つです。
経営計画には、1年ごとに策定する“短期経営計画”と10年前後の期間で策定する“長期経営計画”がありますが、中期経営計画は3~5年ほどの期間で策定することが一般的です。
長期経営計画よりも具体的な組織目標を設定して、企業が目指す姿と現在とのギャップを埋めるための合理的かつ一貫性のある戦略とロードマップを作成することで、進む方向性が明確になり具体的なアクションへとつなげられます。
中期経営計画を策定する目的
中期経営計画を策定する目的には、主に以下の3つが挙げられます。
▼中期経営計画を策定する目的
- 現場にいる従業員の当事者意識を醸成する
- 経営資源を効率的に調達・投入する
- 外部環境の変化への対応力を身につける
中期経営計画を策定して企業のビジョンや経営の方向性を明確にすることで、経営層と現場の意識が統一されて一体的に取り組めるようになります。
目指す目標とその達成に向けたアクションを具体化すると、現場の従業員が「計画と現場の仕事がどのようにつながっているか」を認識できるようになり、当事者意識の醸成にもつながると考えられます。
また、ヒト・モノ・カネ・時間といった限られた経営資源を活用して企業の成長につなげるには、「どのような課題に重点的に取り組むか」を見極めることが重要です。中期経営計画を策定して、合理性・一貫性のある目標とアクションを設定することで、優先して投入する経営資源を整理できるようになります。
さらに、中長期的に想定される環境の変化を見据えて複数のストーリーで成長戦略を構築することで、外部環境の変化にも迅速かつ柔軟に対応できるようになり、強靭な経営体制の実現につながります。
中期経営計画に盛り込むべき内容
中期経営計画を策定する際は、将来的に目指す企業の在り方について具体的なロードマップとアクションに落とし込むことが重要です。
計画に盛り込むべき内容には、以下の4つが挙げられます。
①戦略ターゲット
1つ目は戦略ターゲットです。
3~5年の中期的な視点に立ち、外部環境の変化を見据えながら「将来の市場において自社がどのようなポジションを目指すのか」「自社の競争優位性や強みをどのように持続・強化させるのか」といった戦略ターゲットを定めます。
また、これらの戦略ターゲットに対してどのようにアプローチしていくのか、具体的な事業領域や提供価値を明らかにして社内の従業員やステークホルダーに対して共有することが重要です。
②経営資源の投資配分
2つ目は、経営資源の投資配分です。
中期経営計画の成長戦略に投入できるヒト・モノ・カネ・時間といった経営資源をどのように投資するかを明らかにします。
計画の目標を達成するために「どのような経営資源を重点的に投入する必要があるか」を定めて、優先度に応じて投資配分のバランスを検討することが重要です。
③経営指標
3つ目は、経営指標です。
中期経営計画で目指す姿や成長戦略の方向性を定めたあとは、「どれくらいの利益や成長に結びつけるか」といった目標を示すための経営指標を設定します。
売上高や営業利益などに加えて、株主配当性向や資本効率性のような財務的な経営指標を含めて設定することが重要です。
④目標のブレイクダウン
4つ目は、目標のブレイクダウンです。
中期経営計画で定めた目標を達成するためのロードマップを作成して、現場の部門・チームにおける役割とアクションに落とし込みます。
経営目標を定めていても、従業員が具体的にイメージできなかったり「何をすればよいか」を分かっていなかったりする場合、行動に結びつかずに形骸化してしまうおそれがあります。
各部門・従業員がそれぞれどのような役割を担うのか、どのような行動をとるのかを業務レベルまで落とし込むことで、自分たちの目標として認識できるようになり、自発的な行動を促せます。
――中期経営計画に盛り込む内容として、何から着手したらよいでしょうか?
林:まずは戦略ターゲットですね。3年ぐらいの会社が多いですけれども、「次の3年はどういうポジションを目指していくのか」「どういうドメインでどう伸ばしていくのか」という戦略ターゲットを定めます。 |
中期経営計画を策定することによるメリット
中期経営計画を策定することによって、事業活動の安定化や成長につなげるための組織体制を構築できるようになります。
①現状課題が明らかになる
1つ目のメリットは、企業の現状課題が明らかになることです。
中期経営計画の策定にあたっては、企業の内部環境・外部環境を分析して戦略ターゲットを設定したり、現状とのギャップを洗い出したりする必要があります。
このような分析を行う過程で企業のボトルネックを把握できるようになり、課題の解決を図るための戦略を立てられるようになります。
②短期経営計画が立てやすくなる
2つ目のメリットは、短期経営計画が立てやすくなることです。
短期経営計画とは、企業が1年ごとに定める具体的な実行計画です。年度の予算や事業・部門別での行動について定めます。
中期経営計画を策定して、3~5年の中期的な目標を示すことで「どのような経営資源を投資・調達するか」「どのような人事・採用計画が必要か」などの短期経営計画の目標に落とし込みやすくなります。
③従業員の意識が向上する
3つ目のメリットは、従業員の意識が向上することです。
中期経営計画を策定して企業の経営目標や方向性が明確になると、計画の実行に対して従業員一人ひとりの当事者意識が生まれやすくなります。
企業の一員として経営目標を達成しようとする意識が生まれることで、組織の一体感が醸成されてモチベーションの向上につながると期待できます。
また、従業員が「何に取り組めばよいか」を具体的に認識できると、優先度の高い業務から着手できるようになり、業務の効率化やパフォーマンスの向上にも結びつくと考えられます。
――中期経営計画の主なメリットを教えてください
林:中期経営計画では、まず何に取り組み、何の優先順位を下げるのかを決めます。そしてお金や人のリソースの優先順位を明確にします。こうして、中期的なリソース配分やリターンを踏まえた経営ができることが中期経営計画の主なメリットです。各事業ごとの計画や予算の積み上げではない、全社としての優先順位を役員間で合意することにも価値があります。 |
中期経営計画を策定する際の注意点
中期経営計画を策定する際、以下のような問題が生じる可能性があります。
▼起こりやすい問題
- 計画の実行に縛られてしまい事業環境の変化に対応できない
- 現場の声を取り入れられず、経営層と現場にギャップが生じる
- 計画を実行するための人材リソースが足りない
企業の成長につながる実効性のある中期経営計画を策定するには、以下のポイントを押さえておくことが重要です。
①アジャイルの手法を取り入れる
中期経営計画を策定する際は、アジャイルの手法を取り入れることが重要です。
アジャイルとは、システム開発のプロセスを小さな単位に区切り、実装とテストを繰り返しながら開発を進めていく手法です。システム開発の要求や仕様の変更に応じて、柔軟に対応できるようになることが特徴です。
中期経営計画を策定する際、「3~5年の将来的な目標から逆算して計画を立て、忠実に実行していく」というバックキャストの方式を取り入れるケースがあります。
しかし、事業環境を取り巻く変化が激しく、将来を見通すのが難しい現代においては、バックキャストで実行可能な中期的な目標と具体的なアクションを描き切ることは現実的とはいえません。
アジャイルの手法を取り入れて、中期経営計画の実証実験を行いながらブラッシュアップをしていくことで、事業環境の変化に即した運用につながります。
②現場の意見を取り入れる
中期経営計画を策定する際は、従業員の意見を取り入れることも重要です。
経営層や人事部門のみで経営目標や方針などを決めるトップダウンの体制では、現場が抱える課題や従業員の考えが反映されません。その結果、計画が形骸化してしまったり、“自分ごと”として捉えてもらえなくなったりする可能性があります。
このような問題を防ぐためには、従業員自らが「目標を達成したい」「目指す姿を実現したい」と思えるような中期経営計画を策定する必要があります。そのためには、従業員とコミュニケーションを通して現場の意見を取り入れながら、合意形成を図ることが重要なポイントとなります。
③優先順位を決めてリソースを配分する
社内の人材リソースには限りがあるため、中期経営計画のなかで「優先して取り組むこと」を決めて必要な人員を配置することがポイントです。
目標の達成に必要となる人材を内部のリソースのみで確保しようとすると、通常の業務に影響を及ぼしたり、アクションの実行につながらなかったりする可能性があります。
計画の優先順位を決めることで、社内の人材をバランスよく配置できるようになり現場の負担を最小限に抑えられます。
中期経営計画を策定する6つのステップ
ここからは、中期経営計画を策定する5つのステップについて解説します。
▼中期経営計画を策定する5つのステップ
- 経営ビジョンを明確にする
- 現状とのギャップを分析する
- 経営戦略を策定する
- 目標を設定する
- 行動計画に落とし込む
- PDCAを回す
ステップ①経営ビジョンを明確にする
経営ビジョンとは、企業が将来ありたいと考える姿を指します。自社の持続的な成長を図るための戦略ターゲットを考える際の土台となることから、事前に明らかにして社内に共有しておくことが重要です。
企業の経営理念や社会における存在価値(パーパス)を踏まえたうえで、以下の4つの観点から「どのような会社になりたいか」「将来的に事業をどのように展開していきたいか」などを考えます。
▼経営ビジョンを定める際に考慮する項目
- 自社がターゲットとする市場や顧客層はどこか
- 市場や社会でどのようなポジションを獲得したいか
- 自社の事業を今後どのように運営・展開していきたいか
- 従業員やステークホルダーとどのような関係性を築きたいか
ステップ②現状とのギャップを把握する
経営ビジョンを明らかにして目指す方向性を確認したあとは、将来なりたい姿と現状とのギャップを把握します。企業の現状を把握する際は、内部環境と外部環境の両方で自社が置かれている環境を分析することがポイントです。
内部環境と外部環境を分析する項目には、以下が挙げられます。
▼内部環境と外部環境の分析項目
対象 |
項目 |
内部環境 |
|
外部環境 |
|
また、自社を取り巻く環境を分析する際は“SWOT分析”と呼ばれるフレームワークを活用することが有効です。内部環境に当たる自社の強み・弱みと、外部環境に当たる市場の機会と脅威を分析することで、強みを伸ばすポイントや現状の課題などが把握できるようになります。
▼SWOT分析
対象 |
要素 |
内容 |
内部環境 |
強み(Strength) |
競合他社と比較したときの自社の強み |
弱み(Weakness) |
競合他社と比較したときの自社の弱み |
|
外部環境 |
市場の機会(Opportunity) |
外部環境を踏まえたうえでのビジネス機会の可能性 |
脅威(Threat) |
自社の事業に影響を及ぼすリスク |
ステップ③経営戦略を策定する
企業の内部環境・外部環境の分析を行い、経営ビジョンと現状とのギャップを明らかにしたあと、ギャップを埋めるための具体的な経営戦略を策定します。
経営戦略の策定にあたっては、企業の成長につなげるために「どのような市場や顧客層に」「どのような商品・サービスを展開していくか」といった戦略ターゲットを定める必要があります。戦略ターゲットを定める際は、以下の項目を基に事業のドメインを検討することがポイントです。
▼事業のドメインを検討する際の項目
- 自社の強みを生かせる分野や事業は何か
- 自社の弱みをどのように補う、または解消するか
- ビジネス機会の可能性が期待できる市場はどこにあるのか
- 外部環境によるリスクを回避するためにどのような対策ができるか
また、企業によって目指す姿は異なりますが、代表的な経営戦略として以下が挙げられます。
▼代表的な経営戦略
経営戦略の種類 |
具体例 |
成長戦略 |
|
競争戦略 |
|
既存の市場や商品・サービスで成長を目指すのか、新しい市場を開拓して多角化を図るのかなど、ターゲットとする市場に応じた戦略が必要です。
ステップ④目標を設定する
ステップ3で策定した経営戦略を企業が一体となって実行するために、売上高計画や予算・損益計画などにおいて3~5年ほどの中期的な数値目標を設定します。
目標を設定する際は、以下のような内容を基に実現可能性があるどうかを評価して、現実と乖離しないようにすることがポイントです。
▼目標を設定するときに考慮する要素
- 将来的な市場の動向
- 経営戦略の実行によって期待できる効果
- 投入できる経営資源
- 過去の実績
- 目標を達成する期間
また、設定する目標は数値で示すとともに、合理性かつ一貫性のある内容にすることが重要です。
ステップ⑤行動計画に落とし込む
経営戦略を実現するための数値目標を設定したあとは、各部門と従業員の役割やアクションを可視化するために、具体的な行動計画に落とし込みます。
「目標を達成するために何をすればよいか」「自分の仕事が目標達成にどのように貢献するか」を明確にして、業務レベルで計画を実行できるようにすることで、従業員の自発的な行動を後押しできます。
ステップ⑥PDCAを回す
中期経営計画を現場に浸透させるためには、アジャイルの手法を取り入れてPDCAを回すことが重要です。
PDCAとは、計画(Plan)・実行(Do)・評価(Check)・改善(Action)の4つのサイクルを繰り返して戦略の改善を図るフレームワークです。
定期的に中期経営計画の進捗や目標の達成状況を確認することで、目標を達成できなかった原因を明らかにして、改善を図るための打ち手を検討できます。
また、現場の従業員の意見を取り入れたり、外部環境の変化に応じて施策を見直したりすることによって、中期経営計画の実現に近づけるようになります。
まとめ
この記事では、中期経営計画について以下の内容を解説しました。
- 中期経営計画の目的
- 中期経営計画に盛り込む内容
- 中期経営計画を策定するメリット
- 中期経営計画を策定する際の注意点
- 中期経営計画を策定する手順
中期経営計画を策定することで、企業が3~5年後に目指す姿や経営の方向性が明確になり、経営層と従業員との意識を統一して目標の達成に向けて取り組めるようになります。
企業の成長につながる実効性のある中期経営計画を策定するには、アジャイルの手法を取り入れてブラッシュアップをしていくことや、現場の意見を取り入れること、目標を達成するための取り組みの優先順位を決めることがポイントです。
中期経営計画の策定において、「どのような戦略を立てとよいのか」「従業員の自発的な行動を促すにはどうしたらよいか」などとお悩みの方は、リデザインワークまでご相談ください。
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