心理的安全性が組織のイノベーションを生む! 期待できるメリットや方法とは?【リデザインワーク代表:林宏昌氏監修】
組織の成長や活性化を図るには、従業員が心身ともに健康でいきいきと働ける環境が求められます。そのためには、物理的な環境面に加えて、従業員一人ひとりの意見や価値観が尊重されて、多様性を認め合える組織風土づくりが重要です。
そこで重要なキーワードとなるのが“心理的安全性”です。組織・チームの心理的安全性を高めることによって、個々が持つ多種多様な感性や価値観が組織内に持ち込まれて、シナジーによる新たなイノベーションの創出につながると期待できます。
企業の経営陣や人事担当者のなかには、「心理的安全性がどのような好影響をもたらすのか」「組織・チームの心理的安全性を高めるにはどうすればよいのか」などと疑問を持つ方もいるのではないでしょうか。
当編集部では、リデザインワーク代表の林 宏昌さんの見解とともに、心理的安全性の概要と注目されている理由、心理的安全性を高めるメリット、方法について解説します。
目次[非表示]
- 1.心理的安全性とは
- 2.心理的安全性が注目されている理由
- 2.1.人的資源から人的資本への転換
- 2.2.健康経営とのウェルビーイングへの意識の高まり
- 3.心理的安全性が低い職場のリスク
- 4.心理的安全性が低くなる原因
- 5.心理的安全性を高めるメリット
- 5.1.①パフォーマンスの向上
- 5.2.②コミュニケーションの活性化
- 5.3.③従業員エンゲージメントの向上
- 6.心理的安全性を高める方法
- 6.1.①質問や相談がしやすい環境をつくる
- 6.2.②サポートし合える意識づくりと環境整備を行う
- 6.3.③挑戦する行動そのものを承認する
- 6.4.④個性や多様性を受け入れる姿勢を示す
- 7.まとめ
心理的安全性とは
心理的安全性とは、地位や経験などにかかわらず、組織のために誰もがありのままの意見を述べられることです。例えば、以下のような組織・チームを指します。
▼心理的安全性が確保された組織・チーム
- 業務やサービスの改善策、課題点などの意見を正直に伝えられる
- 経営層や上司、管理者などへ平等な発言機会がある
- チームの多数意見とは異なる意見やネガティブな意見を発言できる
- 困ったときにチームのメンバーや上司に助けを求められる
心理的安全性が確保された組織・チームでは、誰もが安心して自身の考えや意見を率直に伝えられるようになり、有意義かつ建設的なコミュニケーションが生まれやすくなります。これにより、個人またはチームの成長や働きやすさの向上、新たなアイデアの創出などの好循環を生み出すことが期待できます。
また、よく勘違いされるチームの状態に“ぬるま湯組織”がありますが、心理的安全性とは違いがあります。ぬるま湯組織とは、チームでの対立や失敗を恐れて発言・行動を控える状態を指します。
▼心理的安全性とぬるま湯組織との違い
心理的安全性 |
ぬるま湯組織 |
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意見の対立 |
一人ひとりが自由に発言するため、意見が対立する可能性がある |
対立を避けるために誰かの意見に合わせる、または意見交換が少ない |
モチベーションややりがいの有無 |
同じ目標に向かって取り組むモチベーションややりがいがあり、積極的に発言する |
モチベーションややりがいがなく、指摘や提案を積極的に行わない |
リスクの捉え方 |
失敗やミスは成長につながるという考えの基で取り組む |
失敗やミスをしないように、行動・発言を制限する |
意見交換の効果 |
多様な意見やアイデアが生まれてシナジーが起こりやすい |
建設的な意見交換ができず、現状維持になりやすい |
例えば、「チーム全体の仲がいい」という状態は、一見すると心理的安全性があるように思えますが、「空気を読んでほかの人の意見にただ同調する」「仕事へのやりがいがなく、他人任せにする」状態とも捉えられます。
個人とチームの成長やイノベーションの創出につなげるには、ぬるま湯組織ではなく心理的安全性が確保された組織を目指すことが重要です。
――ぬるま湯組織となってしまう原因や、ぬるま湯組織の問題点にはどのようなものがあるでしょうか?
林:まず前提として、日本と海外での認識の違いがベースにあります。海外だと“意見やアイディア”と“個人の人格”は切り離されます。アイディアを戦わせることと、本人が認められているかは別問題になるためです。
ところが、日本の場合はこれが区別されず、“言ったことを否定する”ことが“その人自身の否定”と捉えられるケースがあります。このような事態を避けようとすることが、ぬるま湯組織となる原因です。
健全な議論として戦わせることや、「ちゃんとやらないと成果出ないよ」みたいな指摘に対して「自分を否定された」と捉えられてしまうと、マネジメント側としても何もフィードバックをすることができません。その結果、その人自身の成長や、やっている施策のクオリティ向上が期待できなくなります。
本人を認めた上で、その人の成長や業務改善を願って、フィードバックをしているという関係性と意図をしっかり確認することが重要です。
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心理的安全性が注目されている理由
心理的安全性が注目されている理由には、人的資本経営への転換や健康経営・ウェルビーイング(Well-being)に対する意識の高まりが挙げられます。
人的資源から人的資本への転換
近年、企業の労働生産性に対する考え方が人的資源から人的資本へと変化する転換期を迎えています。
これまで多くの企業において、人は労働力として消費する“人的資源(Human Resource)”と捉えられており、効率的な管理によって人件費を削減することで労働生産性の向上を目指していました。
しかし近年では、人を価値創造の源泉となる“人的資本(Human Capital)”と捉える考え方へと変化しています。
▼人的資源から人的資本への転換
画像引用元:経済産業省『未来を築く、健康経営』
以下のような取り組みを通して、心理的安全性が確保された組織風土や職場環境を実現することで、従業員エンゲージメントが向上して労働生産性の向上にも寄与すると考えられています。
▼心理的安全性の確保に向けた人的資本への投資例
- 個々が持つ能力・スキル・価値観・感性などの多様性を受け入れて、「自分の場所」と実感できる“ダイバーシティ&インクルージョン”に取り組む
- 快適で居心地のよい職場環境づくりとコミュニケーションの活性化を図り、働きやすさを向上させる
出典:経済産業省『未来を築く、健康経営』
健康経営とのウェルビーイングへの意識の高まり
心理的安全性は、健康経営®(※)とウェルビーイングの取り組みにも深い関係性があります。
健康経営とは、従業員の健康づくりを経営的な視点で考えて戦略的な投資を行うことによって、仕事に対する活力や生産性の向上、組織の活性化などにつなげる取り組みです。また、ウェルビーイングとは、“Well(よい)+being(状態)”を組み合わせた言葉です。心身ともに健康的で、社会的なつながりに対しても良好かつ満たされた状態を指します。
従業員が一人ひとり健康で幸せに働ける環境をつくるには、チームがお互いを尊重して協働し合える土台となる心理的安全性を確保することが必要になります。
心身が不調な状態では、仕事に集中できず思うような成果を挙げられなくなるほか、アブセンティーズム(健康問題による欠勤)やプレゼンティーズム(健康問題によるパフォーマンスの低下)を招く可能性があります。
アブセンティーズムまたはプレゼンティーズムの状態を防ぐには、心理的安全性を高めて一人ひとりの働きがいや幸福を創出することが重要です。
▼心理的安全性とプレゼンティーズムの関係性
画像引用元:衆議院『国家の人的資本経営:心理的安全性が拓く未来』
近年では、企業における人的資本の重要性が認識されるようになり、健康経営やウェルビーイング向上のための投資は、企業価値を向上させる重要な取り組みとされています。
※健康経営®は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
出典:衆議院『国家の人的資本経営:心理的安全性が拓く未来』
心理的安全性が低い職場のリスク
心理的安全性が低い職場では、個人の率直な意見や考えがチームに届かなかったり、従来の方針に固執してしまったりして、イノベーションが起こりにくくなります。また、次のような問題も生じやすくなります。
▼心理的安全性が低い職場で生じやすい問題
- 目標達成の意欲が低くなり、個人・チームの成長につながらない
- 組織への貢献意欲や助け合いの精神が乏しく、最低限の仕事しかしない
- ミスに対する罰則または意見の否定が行われるため、モチベーションの低下やハラスメントが発生しやすい
このような組織は、生産性の低下や従業員の離職につながったり、ミスまたはトラブルが起きた際に不正が行われたりして悪循環を生むリスクがあります。
心理的安全性が低くなる原因
組織・チームの心理的安全性が低くなる原因には、以下の4つの不安が生まれることに関係していると考えられます。
▼心理的安全性が低くなる不安要素と起因する行動
不安要素 |
起因する行動 |
1.無知だと思われる不安 |
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2.無能だと思われる不安 |
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3.邪魔をしていると思われる不安 |
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4.ネガティブだと思われる不安 |
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例えば、上司が部下の意見に耳を傾けなかったり、チームのメンバーに非協力的な態度を取ったりする行動は、心理的安全性を下げて不安を生む原因となり得ます。
このように心理的安全性を損なう行為には、主に4つが挙げられます。
▼心理的安全性を損なう行為
- 相手の性格・人格・能力などを否定または非難する
- 相手を見下したり、軽視したりして侮辱する
- 弁明や言い訳によって自己責任を回避・否認する
- 周囲に心を閉ざして非協力的な態度をとる
組織の活性化やイノベーションの創出につなげるには、心理的安全性のリスクを早期に発見して改善を図ることが求められます。
心理的安全性を高めるメリット
否定や失敗のリスクを恐れずに、誰もが自分の意見を伝えやすい職場環境をつくることによって、業務と人間関係にもよい影響がもたらされます。
①パフォーマンスの向上
1つ目のメリットは、パフォーマンスの向上です。
心理的安全性が高まると、ほかのメンバーに不明点を聞いたり、さまざまな意見を持つメンバーと価値観を共有したりして、自己学習による成長を図れます。
また、「チームの目標達成に貢献したい」という意識やモチベーションが高まることによって、集中して業務に取り組めるようになるほか、個々が持つ能力が十分に発揮されやすくなります。従業員一人ひとりのパフォーマンスが向上すれば、チーム全体の生産性が高まり、業績の向上にもつながると考えられます。
②コミュニケーションの活性化
2つ目のメリットは、コミュニケーションの活性化です。
心理的安全性が確保された職場では、上司や管理者などの役職にかかわらず、自由な意見交換が促進されやすくなります。
多角的な視点によるアドバイスや新しいアイデアなどをやり取りできる機会が増えれば、イノベーションの創出につながる可能性も期待できます。
また、コミュニケーションを通して人と人との信頼関係を築くことによって、「組織の一員として認められている」という自己肯定感が生まれます。これにより、チームへの貢献意欲が醸成されたり、助け合いの精神が生まれたりして、チームワークの強化につながると考えられます。
③従業員エンゲージメントの向上
3つ目のメリットは、従業員エンゲージメントの向上です。
従業員エンゲージメントとは、企業に対する愛着心や仕事に対する情熱、相互の信頼関係と結びつきなどを示す指標です。
心理的安全性の向上を図り、一人ひとりの意見・考えをお互いに尊重して、多様性を許容し合える組織風土をつくることは、従業員の安心や働きやすさにつながります。また、自由な意見交換を通して従業員自身が持つ能力や想像力などの価値を見い出せる環境をつくることで、仕事に対して関心・興味を持てるようになります。
その結果、仕事のやりがいや企業への愛着が生まれて、従業員エンゲージメントの向上につながると期待できます。従業員エンゲージメントが高まると、人材の定着にも結びつくと考えられます。
心理的安全性を高める方法
組織・チームの心理的安全性を高めるには、次の4つの要素を満たすための取り組みがポイントとなります。
▼心理的安全性を構成する要素
要素 |
具体的な状態 |
1.話しやすさ |
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2.助け合い |
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3.挑戦 |
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4.新奇歓迎 |
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①質問や相談がしやすい環境をつくる
1つ目の方法は、質問や相談がしやすい環境をつくることです。
誰もが話しやすい状態をつくるには、業務上の情報共有・報告・連絡だけでなく、気になること・気づいたことを気軽に質問したり、知らないことを相談したりできる環境づくりが必要になります。
そのためには、組織内の良好なコミュニケーションを活性化させて、上司や管理者、従業員同士の信頼関係を築くことが重要です。
▼取り組み例
- 上司または管理者と従業員で1対1の定期面談を実施する
- 気軽に雑談・対話ができる勉強会や意見交換会などを実施する
- 会議やミーティングなどで、すべての従業員に発言の機会を設ける
- 食事会や運動イベントなどを実施して、職場以外の場での交流を促す
②サポートし合える意識づくりと環境整備を行う
2つ目の方法は、サポートし合える意識づくりと環境整備を行うことです。
心理的安全性を高めるには、ほかのメンバーにアドバイスをもらったり、トラブルが起きたときにチーム全体で助け合えたりできる体制が求められます。そのためには、従業員の意識改革と環境整備の両方に取り組む必要があります。
困ったときに助けを求めやすい雰囲気をつくる施策の一つに、フォロワーシップの研修が挙げられます。フォロワーシップとは、チームのメンバーが組織に貢献するために主体的に考えて自律的に行動することを指します。
これまで、チームをまとめる上司やリーダーが先頭に立ち、メンバーへと影響力をもたらしていましたが、批判や提言が行いづらい雰囲気ではよい成果につながりにくくなってしまいます。
フォロワーシップに関する教育・研修を行い、上司またはリーダーに対しても意見・提案をしやすい雰囲気をつくることで、信頼関係や意欲が醸成されて、心理的安全性の向上につながります。
▼フォロワーシップを実現するポイント
- 受け身の姿勢ではなく、ほかの人の意見・指示を自分なりに分析して、問題や改善点を積極的に発言するようにする
- 自分を軸にして物事を批判的・論理的に捉える思考プロセスを教育する
- 上司や管理者が業務のやり方を固定せずに、チームで話し合って決める
また、困ったときにチームに助けを求めやすい環境を整備する方法には、以下が挙げられます。
▼助けを求めやすい環境を整備する方法
- チャットツールや定期的なミーティングで進捗状況を共有する
- ピアボーナス制度を導入して、サポートによる評価と還元を行う
- エルダー制度を導入して、年齢が近い先輩の従業員が指導・フォローを行う
ぬるま湯組織とならないように、本人や周りの人たちへのアドバイスや適切なフィードバックをしっかりと行える環境をつくることが大切です。
③挑戦する行動そのものを承認する
3つ目の方法は、挑戦する行動そのものを承認することです。
従業員のミス・失敗に対して罰を与えたり、叱責をしたりする行動は、やる気や自主性が失われてしまう要因となります。また、「責められることを恐れて重要な問題を報告しない」「失敗を防ぐためにチャレンジをしない」という状態を招く可能性もあります。
心理的安全性を高めるには、チームをまとめるリーダーや管理者自身の意識を変えることが重要です。成果を求めるのではなく、挑戦に対する行動そのものを承認することで、従来の固定概念に捉われない行動を促進させて、チャレンジフルな組織体制を構築できます。
▼自発的な挑戦に対して上司・リーダーが承認をするポイント
- 目標管理制度を導入して、取り組みの手法やプロセスを評価する
- 失敗やミスは成長につながる機会であることを伝えて、従業員の意見に耳を傾けながらよい点を褒めたり、課題に対するアドバイスを行ったりする
④個性や多様性を受け入れる姿勢を示す
4つ目の方法は、個性や多様性を受け入れる姿勢を示すことです。
心理的安全性の一つの要素となる“新奇歓迎”の組織風土を醸成するには、組織全体で個性や多様性を受け入れる姿勢を示す必要があります。
経営層や人事担当者は、「個々が持つ価値観・感性・考え方などの違いが組織の成長につながる」ことを従業員へ発信して、チーム全体で共通の意識を持つことが重要です。
異なる考えや意見を受け入れる組織風土をつくることで、自由な意見交換が促進されてそれぞれの強み・特性を生かして業務に取り組めるようになります。
▼個性や多様性を受け入れる組織風土を醸成するポイント
- 会議やミーティングの意義や目的を明確にして、率直な意見を述べる意識を持ってもらう
- 異なる意見や否定的な意見に対して肯定的な評価をする
- 従業員の性格特性や強みに応じて、チーム内で期待している役割を伝える
――心理的安全性を高めるために、特に重要なことはあるでしょうか?
林:心理的安全性を高めるうえで、業務以外で会話する機会を作ることが重要です。これは何かイベントとして機会を設けるというだけでなく、オフィスでの軽い雑談なども含みます。会議室で話すのではなく、「こう思ってるんですよね」みたいなことをもっとフランクに伝えられる環境が大切です。
特に近年はリモートワークが広がっていますが、オンラインだと軽い雑談の機会が自然には発生しにくく、淡々としてしまう場合があります。意識的に取り組むことで互いへの理解を深めて、距離感を縮められます。
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まとめ
この記事では、心理的安全性について以下の内容を解説しました。
- 心理的安全性の意味
- 心理的安全性が注目されている理由
- 心理的安全性が低い職場のリスクと要因
- 心理的安全性を高めるメリット
- 心理的安全性を高める方法
心理的安全性は、チームでの意見交換や良好なコミュニケーションを通して、イノベーションの創出を図るために重要な要素の一つです。意見の衝突やミスに対する叱責を懸念して率直に発言しづらい雰囲気では、イノベーションの創出につながらないほか、生産性の低下、離職の増加などの悪循環を招くおそれがあります。
このようなリスクを防ぐには、誰もが話しやすく、お互いに助け合いながら新たなことに挑戦したり、個性や価値観の違いを受け入れたりできる組織風土と職場環境をつくることがポイントです。
心理的安全性が高い職場は、個人・チームのパフォーマンス向上やコミュニケーションの活性化、従業員エンゲージメントの向上などによい影響をもたらすことが期待できます。
リデザインワークでは、人的資本経営と健康経営の土台となる心理的安全性を高めるための人材マネジメントをはじめ、採用・人事制度の設計や育成に至るまで、一気通貫で支援しています。
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