従業員エンゲージメントの向上を図るメリットと取り組み【リデザインワーク代表:林宏昌氏監修】
企業の人材戦略における重要な取り組みの一つに、従業員エンゲージメントの向上があります。エンゲージメントは、企業と従業員の深いつながりを指す言葉です。
従業員エンゲージメントの向上を図ることによって、離職率の低下や業績の向上など企業にとってさまざまなメリットをもたらすと期待されています。
しかし、日本企業では従業員エンゲージメントが世界各国と比較して著しく低く、2017年の調査ではわずか6%にとどまっています。
▼従業員エンゲージメントの国際比較
画像引用元:経済産業省『持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 参考資料』
このような状況のなかで、企業が従業員エンゲージメントの向上を図るにはどのような取り組みが必要となるのでしょうか。
当編集部では、リデザインワーク代表の林 宏昌さんの見解とともに、この問題について解説します。
出典:経済産業省『持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 参考資料』
目次[非表示]
- 1.従業員エンゲージメントとは
- 2.従業員エンゲージメントの3つの要素
- 3.従業員エンゲージメントを高めることで得られる5つのメリット
- 3.1.①職場の雰囲気がよくなる
- 3.2.②顧客満足度の向上につながる
- 3.3.③優秀な人材の採用と定着につながる
- 3.4.④モチベーションの向上を図れる
- 3.5.⑤業績の向上が期待できる
- 4.従業員エンゲージメントの向上を図るためには
- 4.1.企業理念やビジョンを共有にする
- 4.2.社内コミュニケーションを活発にする
- 4.3.ワークライフバランスの向上を図る
- 4.4.公平・公正な人事評価を行う
- 4.5.従業員の成長を促す機会を設ける
- 4.6.チームワークを強化する
- 5.まとめ
従業員エンゲージメントとは
従業員エンゲージメントとは、従業員が企業の目指す姿や方向性などを理解・共感して、目標達成に向けて自発的に行動しようとする貢献意欲があることを指します。
従業員エンゲージメントが高いほど、会社と従業員の間に深いつながりがあり、会社への信頼や愛着が醸成されていると判断できます。
混同されやすい言葉に“従業員満足”がありますが、以下のように意味が異なります。
▼従業員満足と従業員エンゲージメントの意味
内容 |
意味 |
従業員満足 |
従業員が自分の物差しで企業や職場の状況、上司、仕事などを評価して、その満足度を表すもの |
従業員エンゲージメント |
会社が目指す姿・方向性を物差しとして、それらへの従業員の貢献度や帰属意識を表すもの |
従業員が持つ能力を最大限に発揮して、やりがいや働きがいを感じながら主体的に業務に取り組める環境をつくるためには、従業員エンゲージメントを向上させることが重要です。
従業員エンゲージメントの3つの要素
従業員のエンゲージメントを構成する要素には、理解度・帰属意識・行動意欲の3つがあります。
①理解度
1つ目は、企業への理解度です。
企業への理解度は、以下のような状態を表します。
▼企業への理解度を表す内容
- 企業理念や将来のビジョンを理解している
- 社会における企業の存在意義・役割を理解している
- 業務や顧客の重要性を理解している
企業への理解度が高いほど、従業員が仕事の意義や目的を深く認識しており、会社に対して当事者意識を持つことに結びつきます。
また、企業理念やビジョンへの理解は、価値観への共感につながり、企業と従業員が同じベクトルで目標に向かって取り組めるようになります。
②帰属意識
2つ目は、企業への帰属意識です。
企業における帰属意識とは、「自分はこの会社の一員だ」「この部署の仲間だ」という意識を指します。
帰属意識が高いほど、企業やチームメンバーなどに対する愛着と仲間意識が強くなり、組織に一体感が醸成されます。また、仕事に対する責任感ややりがいが生まれることで、目標に向かってモチベーション高く取り組めるようになります。
③行動意欲
3つ目は、従業員の行動意欲です。
行動意欲とは、企業や同僚のために貢献したいと思う意識・姿勢を指します。従業員の行動意欲が高いほど、企業の成長や目標の達成に向けた自発的・主体的な取り組みが促進されます。これにより、組織・チームの活性化につながります。
従業員エンゲージメントを高めることで得られる5つのメリット
従業員エンゲージメントを高めることで、企業と従業員の双方が成長し合える関係性を構築できます。主なメリットには、以下の5つが挙げられます。
①職場の雰囲気がよくなる
1つ目のメリットは、職場の雰囲気がよくなることです。
従業員エンゲージメントが向上すると、チームメンバーの一体感が醸成されて、社内でのコミュニケーションが活発になります。
また、従業員一人ひとりが「会社のために頑張ろう」という意識を持つようになるため、お互い成長のために切磋琢磨したり、支え合ったりする機会も生まれやすくなります。その結果、組織の結束力が生まれて、職場の雰囲気がよくなります。
②顧客満足度の向上につながる
2つ目のメリットは、顧客満足度の向上につながることです。
従業員エンゲージメントが向上すると、仕事へのやりがいと責任感が生まれて、誠意を持って業務や顧客対応に取り組めるようになります。
また、業務効率やサービス品質の向上を目指して積極的に取り組む企業文化が醸成されることで、より質の高い商品・サービスを提供できるようになり、顧客満足度の向上に貢献します。
▼顧客満足度を向上させる従業員の行動
- ホスピタリティのある顧客対応
- 丁寧な作業
- 積極的なサポート など
顧客満足度の向上は、企業イメージの向上にも寄与するほか、自分が愛する会社の印象をよくするためにと、従業員がさらに熱心に働く原動力にもなります。
③優秀な人材の採用と定着につながる
3つ目のメリットは、優秀な人材の採用と定着につながることです。
従業員エンゲージメントが向上すると、企業とチームメンバーへの信頼や帰属意識が生まれて、「この会社でずっと働きたい」という気持ちを持ってもらえます。待遇以外の点で従業員との深いつながりをつくることで、転職による人材の流出を防止できます。
また、従業員エンゲージメントが高い企業は、働きやすい職場環境や良好な人間関係があると認識されやすいため、求職者にとっても魅力的に映ります。採用活動で従業員エンゲージメントの高さをアピールすれば、優秀な人材の確保につながることも期待できます。
④モチベーションの向上を図れる
4つ目のメリットは、モチベーションの向上を図れることです。
従業員エンゲージメントが高まると、やりがいや誇りを持って仕事に取り組めるようになります。課題に対して自ら解決を図ったり、自発的にスキル向上に取り組んだりすることで、生産性の向上につながります。また、仕事へのモチベーションが高い従業員が増えると、社内の士気が高まることも期待できます。
⑤業績の向上が期待できる
5つ目のメリットは、業績の向上が期待できることです。
従業員エンゲージメントが高まると、企業の成長や目標の達成に向けて主体的に取り組んでもらえるようになり、企業への貢献度が高まります。その結果、仕事の生産性や営業利益が向上して、業績の向上に結びつくと考えられます。
経済産業省による国内企業を対象とした調査では、従業員エンゲージメントスコアと営業利益率・労働生産性の間に相関関係があることが確認されています。
▼エンゲージメントスコアと営業利益率・労働生産性の相関性
画像引用元:経済産業省『持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 参考資料』
――従業員エンゲージメントの向上にはさまざまなメリットがありますが、どのような点に着目して考えるとよいのでしょうか?
林:従業員エンゲージメントは目的やメリットが幅広いため、漠然とした状態で進めてしまうケースがあります。一番重要なのは、目的を整理することです。さまざまなメリットが考えられるなかで、自社では何を目的に向上を図るのかについて、しっかりと考える必要があります。 |
出典:経済産業省『持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 参考資料』
従業員エンゲージメントの向上を図るためには
――従業員エンゲージメントを高めるための施策を考える際、何か大事なことはあるでしょうか?
林:まずは、従業員にどのような価値を体験してもらうかを考えることが大切です。従業員エンゲージメントの向上そのものが目的となってしまっては、企業や従業員の成長にはつながりません。従業員の体験価値を向上させた結果として、従業員エンゲージメントが向上するということを認識しておく必要があります。 |
ここからは、従業員エンゲージメントの向上を図るための取り組みについて解説します。
企業理念やビジョンを共有にする
従業員エンゲージメントを向上するには、企業理念やビジョンを社内で共有して、企業への理解を深めてもらう必要があります。
企業が目指す姿・これからの方向性・存在意義などを伝えることで、共感や帰属意識が醸成されて「ついていきたい」「目標を共に実現したい」という気持ちが生まれます。
企業理念やビジョンを共有するための具体的な施策には、以下が考えられます。
▼企業理念やビジョンを共有するための施策
- 企業理念やビジョンを記載したポスターを社内に掲示する
- 代表者や経営陣からの従業員に対するメッセージを社内報で伝える
- 定期的に話し合いの場を設けて価値観や方向性について対話をする など
社内コミュニケーションを活発にする
従業員との密なコミュニケーションを取ることは、従業員エンゲージメントの向上に欠かせません。
企業への信頼や愛着は、従業員と企業の一対一の関係で作られるものではありません。上司や部下、同僚などのほかの従業員同士の関係性も含めて形成されます。
社内のコミュニケーションを活発にする制度や機会を設けると、従業員同士の意見交換や情報共有が促進されて、良好な人間関係の構築につながります。また、お互いの仕事をフォローしたり、不安や悩みを相談したりできる環境をつくれるため、チームの結束力を強められます。
▼社内コミュニケーションを活発にする施策
- 定期的に交流会を実施して、他部署と関わる機会を増やす
- 趣味で集まれる部活制度を導入する
- 従業員の自然な会話が生まれやすいリフレッシュルームを設ける
- 社内ブログや社内SNSを運用する
ワークライフバランスの向上を図る
仕事とプライベートの調和を意味するワークライフバランスは、従業員エンゲージメントに直結します。
従業員の事情やニーズに応じて、ワークライフバランスを向上するための制度を導入することで、心身ともに健康で働きやすい職場となり、仕事へのやりがいと行動意欲の醸成につながります。
どのような制度が従業員に喜ばれるかを把握するために、事前にアンケートやヒアリングを実施することも有効です。
▼ワークライフバランスを向上するための制度
- 育児・出産・介護に関する法定外福利厚生を充実させる
- リフレッシュ休暇制度を導入する
- テレワークやフレックスタイム制を導入する
- 時短勤務制を導入する
従業員の事情に合わせて休暇を取得できる福利厚生は、心身のリフレッシュによってパフォーマンスの向上につながると期待できます。また、柔軟な働き方ができる勤務制度は、人材の定着化を図るうえでも役立ちます。
公平・公正な人事評価を行う
公平・公正な人事評価を行うことも重要です。
企業の人事評価は、従業員の仕事へのやりがいやモチベーションに影響する重要な制度の一つです。「評価項目や基準が明確でない」「評価者によってばらつきがある」といった状態では、従業員の不満が生じやすくなります。
従業員エンゲージメントの向上を図るには、公平・公正な人事評価制度を設けて、客観的に定量評価することが重要です。
▼人事評価制度を設ける際のポイント
- 成果・能力・情意(姿勢やプロセス)を軸に評価項目を設ける
- 評価者への研修やトレーニングを行い、評価エラーとばらつき防ぐ
- 職種や業務内容、役割などに応じた評価項目を設定して、定期的にアップデートを行う
評価を受ける従業員が「評価の基準や理由を理解している」「正しく評価されている」と認識することで、企業に対する信頼の醸成やモチベーションの向上につながります。
従業員の成長を促す機会を設ける
従業員の成長を促す機会を設けることは、働きがいや企業への貢献意欲の醸成につながると考えられます。
従業員が持つ能力・スキルや思い描いているキャリアプランに応じて、成長を後押しする制度や仕組みを整えることがポイントです。
▼従業員の成長を促すための施策
本人の意思と成長に繋がる業務をアサインする
職種や業務内容、役職に応じた研修・教育制度を充実させる
- 資格取得のための学習コンテンツの提供や費用補助を行う
- プロジェクトへの参加者を決める際に社内公募制を導入する
「この環境にいると成長ができる」「新たな仕事や分野に挑戦できる」「望んでいるキャリアパスが送れる」と認識してもらうことで、従業員エンゲージメントが高まると考えられます。
チームワークを強化する
チームワークと従業員エンゲージメントには深い関係があります。チームワークが強固になれば、個々の強みを生かしてお互いを高め合ったり、協力しながら課題を解決したりできるようになります。
チームにおける従業員自身の役割・存在が評価されることによって、自信や達成感につながり、従業員エンゲージメントの向上にも結びつくと考えられます。
――従業員エンゲージメントを高めるための施策はさまざま考えられますが、実践する際に注意した方がよいことはあるでしょうか?
林:従業員エンゲージメントを気にしすぎるがあまり、マネジメントが機能しなくなったり、気を使いすぎて踏み込めなくなったりすることが課題です。その結果、ホワイトブラック企業となってしまっては、結果的に個人も、企業も成長できなくなります。 また、今後の各種人事施策にはデータマネジメントが重要ですが、データマネジメントが得意な人を人事部門にいれるような対応が必要です。 |
まとめ
この記事では、従業員エンゲージメントについて以下の内容を解説しました。
- 従業員エンゲージメントの意味
- 従業員エンゲージメントの3つの要素
- 従業員エンゲージメントを高めるメリット
- 従業員エンゲージメントの向上を図るための取り組み
企業と従業員のつながりを示す従業員エンゲージメントを高めることは、業績の向上や顧客満足度の向上、人材の採用・定着の促進などのよい効果をもたらします。
従業員エンゲージメントを高めるためには、企業への理解や帰属意識を高めて、行動意欲を醸成するための取り組みが必要です。企業理念・ビジョンの共有をはじめ、社内コミュニケーションの活性化、ワークライフバランスの向上、人事評価制度の見直し、成長機会の提供などが挙げられます。
このような取り組みを行うには、データマネジメントが重要なポイントとなります。人事部門においてデータマネジメントの運用に不安がある場合には、人材戦略のコンサルティングサービスを活用することも一つの方法です。
リデザインワークでは、人事部門における人材戦略の策定や運用を支援いたします。従業員エンゲージメントの向上に関する課題を解決するための人材戦略の構築もサポートしております。
詳しくは、こちらからお問い合わせください。