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タレントマネジメントとは? 人事戦略に取り入れるメリットと手順【リデザインワーク代表:林宏昌氏監修】

近年、少子高齢化による慢性的な人手不足をはじめ、コロナ禍による働き方の変化、産業構造の急激な変化など、企業を取り巻く環境が変化しています。そうしたなか、企業における人材戦略のあり方が改めて問われています。

ビジネス環境の変化に対応して、安定した事業基盤によって持続的な価値向上につなげるためには、人材が持つ知識・能力などを最大限に引き出すことが必要です。

そこで注目されているのが“タレントマネジメント”です。人材戦略にタレントマネジメントを取り入れることで、採用や教育、評価などの人事施策によい効果をもたらすと期待されています。

企業の経営陣や人事部門の担当者さまのなかには、「タレントマネジメントを取り入れるメリットは何か」「どのような手順で実施するとよいのか」と疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。

当編集部では、リデザインワーク代表の林 宏昌さんの見解とともに、タレントマネジメントの目的やメリット、構築の手順を解説します。


目次[非表示]

  1. 1.人的資本経営のためのタレントマネジメント
  2. 2.タレントマネジメントを行う目的
    1. 2.1.①経営目標の達成
    2. 2.2.②人材の調達
    3. 2.3.③人材の定着・リテンション
    4. 2.4.④最適な人員配置
    5. 2.5.⑤人材のエンパワーメント
  3. 3.タレントマネジメントに取り組むメリット
    1. 3.1.多様な人材の活躍
    2. 3.2.人材の計画的な育成
    3. 3.3.従業員エンゲージメントの向上
    4. 3.4.公正な人事評価の実現
  4. 4.タレントマネジメントの実施ステップ
    1. 4.1.タレントマネジメント導入まで
    2. 4.2.PDCAに基づいたタレントマネジメントの実施
  5. 5.まとめ


人的資本経営のためのタレントマネジメント

タレントマネジメントとは、従業員が持つ能力やスキル、経験などを経営資源として捉えて、人事施策へ戦略的に取り入れるマネジメント手法です。タレントとは、日本語で“才能”“能力”“などを意味します。

従業員の才能や能力に着目して、採用・育成・配置・人事評価などの人事施策を包括的に実施することで、個々のパフォーマンスを最大限に引き出せるようになり、組織の成長に貢献すると期待されています。

人材を資本と捉えて戦略的に投資する“人的資本経営”の重要性が高まる今、タレントマネジメントは企業の成長や持続的な価値向上を図るための取り組みの一環として取り入れられています。



タレントマネジメントを行う目的

戦略的な人事施策を通して企業の成長を図るタレントマネジメントは、従業員の働き方やキャリアパスにも影響を与えます。企業がタレントマネジメントに取り組む目的には、主に次の5つが挙げられます。


▼タレントマネジメントを行う目的

  1. 経営目標の達成
  2. 人材の調達
  3. 人材の定着・リテンション
  4. 最適な人員配置
  5. 人材のエンパワーメント


①経営目標の達成

1つ目の目的は、企業の経営目標を達成することです。

経営目標を達成するためには、組織の源泉となる人材の存在が欠かせません。タレントマネジメントを通して、従業員が個々の能力を最大限に発揮できる人員配置を行ったり、リスキルによる育成を行ったりすることで、パフォーマンスの向上や行動意欲の醸成につながります。

従業員一人ひとりに合わせた人事施策によって、経営目標の達成に貢献することが期待できます。


②人材の調達

2つ目の目的は、人材の調達です。

日本では、新卒一括採用や終身雇用に代表される雇用慣行があり、かつては主流とされてきました。しかし、少子高齢化による人手不足や事業環境の変化などによって、これまでの雇用慣行では人材を確保することが難しくなりつつあります。

優秀な人材を確保していくには、多様な雇用形態や機会、キャリアパスを提供して採用の幅を広げることが求められます。

タレントマネジメントを通して、企業に必要な能力・スキル・経験などを明らかにすることで、効率的に人材を調達するための新たな採用方法や人事制度を検討できるようになります。


③人材の定着・リテンション

3つ目の目的は、人材の定着とリテンションです。リテンションとは維持・保持の意味を持つ言葉で、人事分野においては従業員の離職を防止するための施策を指します。

近年、あらゆる業界において慢性的な人手不足の課題が顕在化しており、新たな人材を確保する難易度が高まっています。

安定した事業基盤を築くためには、従業員にとって働きやすく魅力的な職場環境や評価制度を整えて、人材の定着化を図ることが必要です。

タレントマネジメントを通して、雇用形態や働く場所、勤務時間などの多様なニーズに対応することで、従業員の働きやすさにつながります。

また、従業員の能力や役割に応じた人事評価を行うことで、従業員のモチベーション向上や満足度の向上を図れます。公平かつ適正な評価が受けられることは、従業員の離職防止につながると考えられます。


④最適な人員配置

4つ目の目的は、最適な人員配置です。

タレントマネジメントの実施にあたっては、従業員の能力・スキル・経験などに加えて、思考や価値観などのタレントに関するデータを一元管理します。これらのデータを活用することで、一人ひとりの能力を最大限に発揮できる職務に従業員を配置できるようになります。

例えば、新たなプロジェクトを立ち上げる際には、チームを統括する責任者や管理者を決める必要があります。タレントに関するデータを活用すれば、適性のある人材を見極めて、スムーズに選定することが可能です。

従業員の適性を踏まえた“適材適所”の人員配置ができるようになると、パフォーマンスの向上や働きがいの醸成につながります。


⑤人材のエンパワーメント

5つ目の目的は、人材のエンパワーメントです。

エンパワーメントとは、個人が持つ本来の力を発揮できる環境や仕組みを整えて、自発的に行動できるようにすることを指します。“力を与える”を意味する英単語の“enpower”が由来です。

多様な人材と価値観を受け入れたり、ニーズに応じて雇用形態や働き方を見直したりすることによって、一人ひとりが能力を発揮できる環境となります。これにより、自律性や自主性が生まれて、従業員エンゲージメントの向上や生産性の向上につながると考えられます。

また、従業員の能力や適性が可視化されることで、従業員それぞれが自分に合ったキャリアパスやアサインを設計できるようになり、多様な人材の活躍・成長が期待できます。


――タレントマネジメントにはさまざまな目的が挙げられますが、特に重視した方がよいものはあるでしょうか?

林:タレントマネジメントの目的には、企業目線(管理目線)と個人のエンパワーメントの2つの視点があり、エンパワーしていくのが大きなテーマだと考えています。タレントを見える化したり、お互いがつながったりと、必要な人と人がつながってくことで価値を高めていくことが重要な目標です。


管理側の目的だけのタレントマネジメントではなく、管理側と個人側の両方の視点で設計する必要があります。



タレントマネジメントに取り組むメリット

タレントマネジメントに取り組むことは、企業と従業員の双方によい影響をもたらします。主なメリットには、以下が挙げられます。


多様な人材の活躍

グローバル化やテクノロジーの急速な進歩など、事業環境の変化に対応するためには、多様な価値観や専門性を持つ人材が必要です。

タレントマネジメントによって従業員が持つ能力や価値観などを一元管理することで、自社での活躍が期待できる多様な人材を採用・育成するための人事施策を検討できます。


▼多様な人材の活躍を目指すための人事施策

  • ジョブ型(役割型)雇用を導入して、職務に必要なスキルを有する人材を採用する
  • 兼業・副業、在宅勤務などの多様かつ柔軟な労働環境を整備する
  • 職務に関する幅広い教育訓練コンテンツを提供する
  • 社内外を含めたキャリアパスを提供する


人材の計画的な育成

タレントマネジメントを行うことで、人材の計画的な育成が可能になります。

従業員の能力や価値観、職務適性、思い描くキャリアなどを把握して、将来に目指す姿とのギャップを明らかにすることによって、人材育成のための具体的な人事施策を検討できるようになります。


▼人材育成のための人事施策

  • スキルの棚卸や周囲からのフィードバックが出来る仕組みを整える
  • 資格の取得を促すための啓発や費用の補助を行う
  • 職層・役割ごとに必要なスキル向上・スキルシフトのための研修を実施する
  • キャリアコンサルタントによるキャリア形成の相談体制を整備する


従業員一人ひとりが自発的に能力開発に取り組むためにも、どのようなスキルを持っているのかを把握し、将来の目標に合ったキャリアパスを描ける環境を整えることは、働きやすさ・働きがいにつながり、人材の定着にも貢献します。


従業員エンゲージメントの向上

従業員エンゲージメントの向上を図れることも、タレントマネジメントに取り組むメリットの一つです。

従業員エンゲージメントとは、従業員が仕事へのやりがいを感じながら、組織の方向性や目標達成に向けて主体的に取り組む貢献意欲があることを指します。

タレントマネジメントを通して、従業員一人ひとりの能力を発揮できる人員配置を行ったり、自律的なキャリア形成やスキル向上を後押ししたりすることで、モチベーションややりがいが創出されます。

また、従業員のニーズに応じた多様な雇用形態や働き方、キャリアパスを提供することによって、魅力的な従業員体験(EX)へとつながり、従業員エンゲージメントの向上にも貢献します。


公正な人事評価の実現

タレントマネジメントに取り組むことは、公正な人事評価の実現につながります。

人事評価に以下のような問題がある場合、従業員の不満を生み、モチベーションの低下や退職を招くおそれがあります。


▼人事評価の問題

  • 評価項目や基準が明確でない(成績、成果物、目標達成度合いなど)
  • 評価者によって評価にばらつきがある
  • 昇給・昇進の基準や理由が明確でない


タレントマネジメントによって従業員の能力・スキル・成績・資質などを可視化することで、人事評価の項目や基準を明確に設定できるようになり、客観的かつ公正な評価につながります。


――タレントマネジメントに取り組むメリットについて、押さえておいた方がよいポイントはあるでしょうか?

林:現時点では、タレントマネジメントは評価をためていくために活用されているだけの状態という印象が強く、実際に管理側のメリットは多くあります。しかしどちらかというと、従業員にとってどのようなメリットがあるかを考える必要があります。


自身のスキルとか経験を棚卸し、本人にとってどういうキャリアパスが合っていそうか、どのようなスキルや経験を積んで行けば良いのかを描きやすく出来るように設計をすることが大事です。



タレントマネジメントの実施ステップ

タレントマネジメントを実施する際は、導入前の準備と導入後の改善を行うことが重要です。ここからは、具体的な実施ステップについて解説します。


タレントマネジメント導入まで

やみくもにタレントマネジメントを導入しても効果はでません。導入前に目的や目標、必要な情報を明確にしておきます。


①目的・目標の設定

1つ目は、目的・目標の設定です。

タレントマネジメントをなぜ実施するのか、経営戦略と人事戦略を適合させたうえで目的を明確にします。人事部門だけでなく、経営陣や各業務部門を巻き込んで「人材に対してどのような課題があるのか」「将来どのような経営目標を達成したいのか」を検討することがポイントです。

また、目的を明確にしたあとは、目的を達成するための指標とする中長期的な目標を設定します。


▼目的・目標設定の例

目的

目標

従業員の定着化を図りたい

入社3年以内の離職率を〇%にする

専門人材を確保したい

システム開発のスキルを持つ人材を〇名採用・育成する


②人材情報の可視化

2つ目は、人材情報の可視化です。

タレントマネジメントを行うにあたって、従業員の能力やスキルなどの人材に関する情報を整理して可視化する必要があります。人材に関する情報は常にアップデートしていくため、一元管理できるツールを活用することも有効です。


▼一元管理する情報

  • 従業員のプロフィール(年齢・性別・勤務年数)
  • 在籍している部署
  • プロジェクトの参加経験
  • 人事評価
  • 保有スキル・能力
  • 経歴
  • キャリアプラン など


これらの情報をデータ化して一元管理することで、ステップ1で定めた目標とのギャップが明らかになり、企業に足りない人材を確保していくための人事施策を検討できます。


③タレントの特定・タレントプールの作成

3つ目は、タレントの特定とタレントプールの作成です。

人材情報の可視化によって整理した人材情報を踏まえて、目的や目標を達成するために必要となるタレントを特定します。タレントを特定することによって、「人材の調達が必要か」「社内の配置変更や育成で補填できるか」を判断できます。

タレントを特定する際は、職務・役職に求められる能力や行動特性を明確にし、求める人物像を詳細に定義することがポイントです。

また、タレントプールを作成しておくことも必要です。タレントプールとは、“これから採用する可能性がある能力や人材”を集めたデータベースを指します。新たに人材の採用が必要になった際に、スムーズに候補者の選定や人材要件の設定を行えるようになります。


PDCAに基づいたタレントマネジメントの実施

タレントマネジメントは、PDCAを回しながら実施することが重要です。

PDCAとは、計画(Plan)・実行(Do)・評価(Check)・改善(Action)の頭文字を取ったフレームワークです。タレントマネジメントにおいては、以下の取り組みを指します。


▼タレントマネジメントにおけるPDCA

  • 採用・育成計画の作成(Plan)
  • 人事施策の実行(Do)
  • 効果測定による評価(Check)
  • 異動・能力開発(Action)


採用・育成計画の作成(Plan)

タレントマネジメントを実施するための採用・育成計画を作成します。

一元化した人材情報を基に不足している人材や能力を洗い出して、目標とのギャップを明らかにします。これらのギャップを踏まえつつ、解消するために必要な人事施策を検討します。


▼採用・育成計画を作成する際のポイント

  • 人事施策をカテゴリに分けて、実施事項の優先度を決める
  • スケジュールを策定して、段階ごとに目標を設定する
  • 採用や育成を行う担当者のタスクを設定する


人事施策の実行(Do)

採用・育成計画に沿って、人事施策を実行します。

タレントマネジメントの目的や目指すところを従業員にも共有することで、スキル向上やキャリア形成などの自発的なアクションを促しやすくなります。


▼タレントマネジメントによる人事施策の例

  • 従業員の適性を分析して、異なる職務への配置転換を行う
  • スキルが不足している従業員に対して研修を実施する
  • 従業員が思い描くキャリアプランに応じた支援制度を導入する
  • 必要なスキルを補填するために、外部から専門人材を採用する


配置転換や研修などを実施する際は、従業員の不満が生じないように、経緯や理由について丁寧に説明しておくことが大切です。


効果測定による評価(Check)

人事施策を実行したあとは、効果測定による評価を行います。

採用や育成に関する取り組みによってどのような効果につながったのか、設定した目標との差を確認します。施策の評価を行う際は、以下の項目を考慮して総合的に判断することが重要です。


▼評価の際に考慮する項目

  • 現場でのオペレーションの変化・影響
  • 従業員の勤務態度やストレスの状況
  • 管理者や上司によるサポートの程度


タレントマネジメントの人事施策を評価することで「当初の計画やスケジュールに沿って運用ができているか」「求める効果が得られているか」などを把握できるため、施策の修正・変更につなげられます。


異動・能力開発(Action)

効果測定による評価を踏まえて、異動やさらなる能力開発を検討します。

従業員へのヒアリングで意見を聞いたり、業務成績を分析したりして、人事施策の内容やスケジュールなどに課題がないかを振り返り、改善策を検討します。


▼改善策の例

  • 育成によってスキルが向上した従業員に適した業務アサインを実施する
  • スキルの習得度合いが低い従業員へ追加の研修を実施する
  • 従業員に不満やストレスが生じている場合は、さらなる配置転換を行う


企業の目標を達成することは大切ですが、働きやすい労働環境をつくるためには、従業員が望まない配置転換やキャリア形成は避けることが望まれます。

従業員のやりがいや意思、キャリアパスなどに配慮した人事施策を検討するとともに、定期的に面談をして現状や気持ちを確認することが大切です。



まとめ

この記事では、タレントマネジメントについて以下の内容を解説しました。


  • タレントマネジメントの概要
  • タレントマネジメントを行う目的
  • タレントマネジメントに取り組むメリット
  • タレントマネジメントの実施ステップ


従業員一人ひとりが持つ能力やスキルを一元管理して、採用・育成・配置・評価などの人事施策を包括的に講じることで、パフォーマンスが最大限に引き出されて、企業の成長と個人の成長や働きがいの向上につなげられます。

取り組む際は、目的・目標の設定や人材情報の整理、タレントの特定などを行うとともに、PDCAを回しながら定期的に施策の見直しを図ることが重要です。

「人事部門での課題が多く、何から手をつけてよいか分からない」「施策の効果が思うように得られない」とお悩みの方は、リデザインワークまでご相談ください。


当社の人事戦略コンサルティングサービスでは、豊富な実績や経験を基に、組織の実態を踏まえたタレントマネジメントのサポートを行っております。

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